シンガーソングライターの平井 堅が5月22日、『Ken’s Bar 20th Anniversary Special !! vol.4』の日本武道館公演をおこなった。アコースティック・スタイルのライブステージ『Ken’s Bar』開催から20周年を記念し大阪、三重、徳島、東京と全国4カ所6公演をおこなったアリーナツアー。最終公演はオリジナル曲からカバーソング、リクエストコーナー、そしてゲストにプロデューサーでベーシストの亀田誠治とあいみょんを迎え、ラストで未発表曲披露とツアーファイナルにふさわしい豪華内容のステージを展開。平井 堅の圧倒的な歌唱力に洗練された演奏、ポップで軽快なトークも冴え武道館を満たしたファンを魅了する一夜となった。【取材=平吉賢治】

シンプルな編成で生々しく響く平井 堅の歌声

平井 堅と亀田誠治(撮影=上飯坂一)

 ステージ上に佇む“Ken’s Bar”のネオンが大人っぽくピンク色に点灯し、期待感溢れる拍手が響き渡るなかKen’s Barはしっとりとした雰囲気で開店した。「half of me」のピアノの伴奏のなかで、平井 堅の歌唱はブレスの音も明瞭に、生々しくセクシーに武道館に広がった。アコースティック編成、それも平井 堅と伴奏パートの2ピースという形式は、楽曲・歌唱の魅力がダイレクトに伝わるKen’s Barの醍醐味だろう。

 アコースティック・ギターの演奏で歌う「魔法って言っていいかな?」では、メロディを引き寄せ、優しく解き放つように歌唱する平井 堅の声の魅力が真っ直ぐ伝わってくる。紳士的な風格のなかにも優しくポップな物腰、そんな平井 堅の人間性が音となって染み渡るようだ。

 「今日はお日柄も良く、こんなにたくさんの人が集まってくれて本当にありがとうございます」と、気品溢れる挨拶でジェントルに決めつつも、コンスタントにジョークを交えるトークに観客からの笑いの声は絶えない。平井 堅というKen’s Bar店長との武道館という大規模のBarでの会話、そして歌唱と、実にしっぽりと贅沢な一夜である。

 「19年振りに歌う」と言って始まった「affair」ではガット・ギターのプレイに乗り、軽くステップを踏みながら揚々と熱唱。そして竹内まりやのカバー「カムフラージュ」へと進み、平井 堅の歌唱から生成される栄養分が耳からもれなく吸収されるような幸福に包まれる。

 本日はスペシャルゲストが2人登場した。1人目はプロデューサーとして平井 堅の楽曲も手がける亀田誠治がベーシストとして登場。「ベース1本と歌」というKen’s Barならではのシンプルな編成でのアクトは豊かな雰囲気のなかにもスリリングさが含まれ、耳も目も釘づけとなった。

 「かわいいの妖怪」での亀田のスラッピング奏法から生じる鋭いサウンドからは2人でのステージとは思えないようなファンキーなグルーヴが生まれた。低音を支えながらも2人、3人ぶんくらいではないかという程の和音を奏で、圧倒のパフォーマンスを魅せる。

 亀田との2曲の演奏を終え、平井 堅は「色んな曲をプロデュースしてくださっているのに、亀田さんプロデュースの曲をあえてやらないというイジメに近い選曲でした!」とオチを付け、客席の笑いを誘った。そして、平井 堅の伝家の宝刀ファルセットを輝かせるように「瞳をとじて」をドラマティックな歌唱で響かせ、ACT 1を締めくくった。

ゲスト2人目あいみょん登場

平井 堅とあいみょん(撮影=上飯坂一)

 『Ken’s Bar』は楽器編成がシンプルな分、平井 堅の歌、そしてミュージシャンの演奏をクッキリとした輪郭で楽しむことができる。「哀歌(エレジー)」では 圧倒的ダイナミズムのピアノ演奏とボーカルが完全融合し、ラストのフォルテシモの一拍まで、一編の映画を観ているような感覚にすら陥る程であった。
 
 そして、間髪入れず、昭和後期の名曲「ガラスの十代」(光GENJI)が令和元年に平井 堅の歌唱で蘇る。センチメンタルなメロディと会場のクラップが合わさり、会場は大興奮。ミニマム編成でのステージでこれほどまでに抑揚を生むということがどれだけ難しいことかと思うのだが、むしろそういった思考などどうでも良いと、意識を解放させるかのような、ただただ多幸感に包まれるパフォーマンスだった。

 武道館中央に設置されたサブ・ステージに向かった平井 堅は、ここでリクエスト・コーナーの抽選会をおこなう。当選したファンが選曲したのは「青空」。「大学生の頃にフラれたことを歌った」と同曲を紹介した平井 堅は、楽譜リストを手にピアニストと数分、マイクとモニターを通して遠隔打合せをする。

 数ある楽曲の中から、その日に選ばれた楽曲をすぐに演奏するということは熟練の技がなせることなのだが、そういったことは感じさせずにファンのリクエストに応えるという、歌手としての、ミュージシャンとしての深みを感じさせられるコーナーだった。何より、ファンがリクエストした曲をその場で、武道館で聴けるということはこの上ない幸福。続くリクエスト「PAUL」も堂々とハイクオリティの歌唱を響かせ、会場からの温かい拍手に包まれた。

 リクエストコーナーが終わると、ここで平井 堅は「とおりゃんせ」をアカペラで歌いながらゆっくりと歩いてメイン・ステージに戻る。この「とおりゃんせ」のアカペラが非常に味わい深く、歌手としての存在感を光らせていた。「ステージに戻る」という最中にもサービス精神を欠かさない平井 堅とその歌唱に大歓声が湧く。

 そして2人目のゲスト、平井 堅がシンガーソングライターとして早くから注目していたという、あいみょんが登場。あいみょんからラジオ越しに手紙を貰ったというエピソードも明かし、「愛を伝えたいだとか」を平井 堅とデュエット。情念溢れるあいみょんの歌声と平井 堅の透き通るようなボーカルのカクテルに、会場はうっとりと酔いしれるようだった。

これからも自分を壊して、未来の扉を開いていきたい

 更にこの日は新曲も披露。「いてもたっても」をパーカッション、ベース、ギター、ピアノの迫力十分な編成で大人のアンサンブルを響かせる。さて、そろそろKen’s Barも閉店の時間が迫ってきた。ラスト2曲は店長・平井の代表曲「KISS OF LIFE」「POP STAR」で締めくくりだ。

 「KISS OF LIFE」は2本仕立てのゴージャス構成。洗練されたアコースティック・アンサンブルでの歌唱を経て、平井 堅は一旦姿を消し、ステージではスペシャル・ミュージシャン達の演奏による怒濤のエンディング。次の曲「POP STAR」で再びステージ袖から表れた平井 堅は、これでもかというくらいなポップな、キラッキラの道化師のような姿で表れ、「僕の辞書から羞恥心という言葉を消しました」と言い放ち華麗に歌唱・ダンス、魔法使いが作り出した夢のような光景のフィナーレを展開させた。

 本編は終了したが、平井 堅はアンコールに1曲応えてくれた。先ほどとは別人のようなシックなスーツ姿で再び登場。「おかげさまで20歳、成人を迎えたKen’s Barですけど、これからも良い歌を歌える未来をつくっていくためにも、これからも自分を壊して未来の扉を開いていきたい」と、未発表の新曲を披露。まさかのレア過ぎる締めくくりだ。まだタイトルも決まっていないというこの曲は、平井 堅らしい優しい旋律の、みんなの心を温かく包み込むような歌だった。

 平井 堅はステージの端から端まで移動し、武道館の全ての角度に向かいファンへ謝意を示した。最後には肉声で「ありがとうございました!」と告げ、投げキッスで姿を消した。20周年を迎えたKen’s Barは、集まった老若男女紳士淑女へ最高のおもてなしを、シックでポップなステージを、染み入るような素敵な歌を、360度全方位に放ち、みんなを最高の気分にさせてくれた。これからもBarの常連となってしまいそうな、幸せそうな表情で観客が惜しみながら席を立つなか、『Ken’s Bar』はしめやかに幕を閉じた。次の開店日が待ち遠しい。

セットリスト

『Ken’s Bar 20th Anniversary Special !! vol.4』
5月22日@東京・日本武道館

ACT 1

01. half of me
02. 魔法って言っていいかな?
03. affair
04. カムフラージュ(竹内まりや)
05. Love Is Blind(Janis Ian)with 亀田誠治
06. かわいいの妖怪with 亀田誠治
07. 瞳をとじて

ACT 2

08. 哀歌(エレジー)
09. ガラスの十代(光GENJI)
10. 青空(リクエストコーナー)
11. PAUL(リクエストコーナー)
12. 鍵穴with あいみょん
13. 愛を伝えたいだとか(あいみょん)with あいみょん
14. いてもたっても
15. 告白
16. KISS OF LIFE
17. POP STAR

ENCORE

EN1. 未発表曲

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