KEMURIのVo. 伊藤ふみおが去る4月7日、東京・新代田FEVERでレコ発ソロライブ『“Fumio Ito show 2019 vol.1”』をおこなった。この日のセットリストは、6年半ぶりのソロ・アルバム 『FRIENDSHIP』全収録曲が次々と弾け、熱いステージを展開させた。伊藤ふみおの芯にあるパンク・スピリットが具現化したライブは終始ハッピーな空気を生み出し続け、オーディエンスを笑顔で恍惚とさせていた。その場にいるみんなが無意識で繋がったような、そんな心地良いフィーリングを、最小限のアンサンブルで最大限に、剥き出しのサウンドで生々しく出力された“血の通ったライブ”が披露された。【取材=平吉賢治】このライブについてのインタビューはこちら→(https://www.musicvoice.jp/news/201905300120459/

「この4人で出すグルーヴが凄く好き」

SKA PUNK ZOMBIES(撮影=TERUMI FUKANO)

 洗練された最小限のアンサンブルと、無意識を揺さぶるグルーヴが確かにある音楽。無駄は削ぎ落とし、たとえ雑味的なポイントであっても「必要」であれば意図的に残す。“人間”がサウンド化し、収録された作品。そんな伊藤ふみおのソロ・アルバム『FRIENDSHIP』を聴いてそれを直に体験しに、純粋に“今の伊藤ふみお”を楽しみに来たオーディエンスで、新代田FEVERは賑やかに埋め尽くされていた。

 絶妙な選曲のDJプレイでスカ・レゲエミュージックがしっぽりと鳴り響き、徐々に温まるフロア。KEMURIの掲げる「Positive Mental Attitude」というフレーズを背負ったシャツを着たファンや、『FRIENDSHIP』の盤を手に持つオーディエンスは、ゆらゆらと踊りながら、ハッピーな空気のなか伊藤ふみおShowのスタートを笑顔を揺らしながらスタンバイしていた。

THE REDEMPTION(撮影=TERUMI FUKANO)

 SKA PUNK ZOMBIES、そしてTHE REDEMPTIONらのエネルギッシュな演奏は、伊藤ふみお『FRIENDSHIP』レコ発のイベント前半を温めるには充分すぎるボルテージ。フレッシュな裏打ちビートに景気の良いサイケデリック・サウンドは、聴衆全員を準備万端といわんばかりに仕上げていた。

シンプルな編成で魅せる“FRIENDSHIP・アンサンブル”

伊藤ふみお(撮影=TERUMI FUKANO)

 ドラム・ベース・ギター。そして“ガイコツ・マイク”が三丁。伊藤ふみおのステージのセットはあまりにもシンプルなものだった。「アルバムは確かにシンプルで生々しいサウンドだったが、さすがにライブではもう1、2名のサポート演奏者が入るだろう」と、個人的に予想していたのだが、全編、基本的には4人編成の生演奏のみで『FRIENDSHIP』の楽曲らが演奏された。

 最小限の編成で最大限に、生きたサウンドのプレイが炸裂し、各メンバーの演奏の地力、そして生々しく血の通った音楽が体験できるライブだったのである。

 「究極に肉を削ぎ落とした楽曲」「音の密度が薄い音楽・グルーヴを作りたい」。インタビューで伊藤ふみおはそう述べていた。有言実行である。究極に削ぎ落とされたアンサンブルで、烈火の如き音の連なりをハッピーに展開し、“グルーヴが生み出す音の隙間と、言語化不能の快感”を、ライブ終了まで、延々と出力していた。「Rusty Nail」「Long Train Running」と、ライブ開始直後からクラウド・サーフィングが発生したことが、早々にそれを証明しているようだった。

具現化した“芯にあるパンク・スピリット”

伊藤ふみお(撮影=TERUMI FUKANO)

 「伊藤ふみおのTwitterアイコンのポーズ」と言ったら伝わるだろうか。体を反らし軽快にジャンプする姿からビンビンに伝わる気概。えもいえぬ逞しさの倍音がギラリと光る伊藤ふみおのボーカル・シャウト。山口美代子のダイナミズム&グルーヴ感ほどばしるプレイ。tatsuの縦横無尽な音使いのベースプレイ、凛とした物腰。テレキャスターのポテンシャルをこれでもかと引き出す、岡愛子の織りなす色鮮やかなサウンド捌き。

 とにかく、各パートの“プロッフェッショナル”をライブで浴びると、「4人編成ライブだと音がスッカスカなんじゃない?」などという懸念は明らかな間違いであったと思い知らされた。「『FRIENDSHIP』の楽曲は、この編成でライブをすることに意味がある」と、4人のプレイが物語っているようだった。

 伊藤ふみおボーカルは、真っすぐ、けたたましく、愛をもって全方位に飛散する。紳士的な所作にちょっぴりコミカルなパフォーマンスにノリノリのダンス。そして絶妙な“間”。エンターティナーに必要な要素を、呼吸するようにサラッと展開させるあたり、彼の“スタイルの芯”を垣間見たように感じられる。そしてそれは、いちスタイルとして固定するものではなく、パンク・スピリットをもって次々と変化・展開されるものだということを、『FRIENDSHIP』という作品、そしてこの日のライブで具現化させていた。

 レゲエ・チューン「POSITIVE」では理性を無視して勝手に腰が動く。心臓の鼓動が裏打ちに感じる。斉藤和義作曲の「Beautiful Dreams」のアコースティックプレイではみんなの魂が音に委ねられる。Mike Park作曲の「YOU」では、伊藤ふみおがMCで述べたように「君がいるからこの世界は最高だ」という気持ちに包まれる。伊藤ふみおと、その場にいる全員との対話なのだなと、“みんなが無意識で繋がった”そんな心地良いフィーリング。「ライブ」というのは、「生きる体験なのだ」と、もしかしたら当たり前なのかもしれないことだが、それを全身と精神と魂がポジティヴに肯定しているようだった。

「ピッツァ・マルゲリータ! YEEES!」

 ゲストの‘T’、コバヤシケンに加え、アルバムのレコーディングでコーラスで参加したTHE REDEMPTIONのメンバーがステージに揃い、「Brave Heart for Glory」が披露されると、オーディエンスは全員手を上げてコーラスを合唱。正に“FRIENDSHIP”な空気が充満するフロアは、誰が判断しても「レコ初ライブ大成功」という雰囲気を醸していた。

 「モッシュが見たいな…嫌いな人はごめんな!」と、漏らす伊藤ふみおの言葉に「待ってました」といわんばかりに即反応し、前列のオーディエンスはグルグルと半時計回りに全力サークル・モッシュ。鳴り響く最終曲は伊藤ふみおも今作でお気に入りという「Pizza Margherita」。わずか43秒で嵐のように去って潔く終了するという『FRIENDSHIP』のインパクト・チューンでの盛大なお祭り騒ぎを経て、本編は燃え尽きるように終了した。最後に伊藤ふみおは、『FRIENDSHIP』に関わるメンバー全員の名前を一人ずつ挙げ、熱く、丁寧に謝辞を伝えてステージを去った。

伊藤ふみおとサポートメンバー(撮影=TERUMI FUKANO)

 間髪入れずのアンコールの声が鳴り響くも、再びステージに表れた伊藤ふみおは「ガチでもうやる曲ないんだよね(笑)」と笑顔でお困りの様子。しかし、大盛況の本編を味わったオーディエンスは収まるわけがない。そこで「応援歌として、ラグビー・堀江翔太選手のために書き下ろした」という「Brave Heart for Glory」を、この日会場に訪れていた堀江選手もステージに上がり、THE REDEMPTIONメンバーも共に演奏するこの日限定の“FRIENDSHIP・ライブ・バージョン”で演奏し、文句無しの大団円を迎えた。

 堀江選手は公演後、「本当に嬉しかったし、光栄なことです」と、愛くるしい笑顔で述べていた。そして、「凄く楽しかった…やり切れてホッとしました」という伊藤ふみおの言葉と清爽な表情。会場を背にした電車内では、今夜のショーの内容を笑顔で語り合うオーディエンスの方々の声が終点まで鳴り響く――。『Fumio Ito show 2019 vol.1”』というライブがどうであったか、それは言うまでもないかもしれない。

セットリスト

Fumio Ito show 2019 vol.1 『FRIENDSHIP』
2019年4月7日@新代田FEVER

01. Rusty Nail
02. Long Train Running
03. Everybody needs some music
04. Silly Love Song
05. POSITIVE
06. Beautiful Dreams
07. LOVE
08. YOU
09. Shooting Star
10. Lonely Shadow
11. LOUD&PROUD
12. Brave Heart for Glory
13. Pizza Margherita
Closing Music. HOME

ENCORE
14. Brave Heart for Glory

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