その場で鳴っている音楽がどれくらい面白いものか
――そして、5枚目のフルアルバム『more humor』が完成しました。この作品を聴いて私は宇宙を感じてしまいました。
三澤勝洸 ありがとうございます。今作は面白いというのはなんぞや、というところから改めて見つめ直して出来たアルバムです。結成10年、ここに来てまた挑戦できているということが嬉しかったです。
――個人的な挑戦もありましたか。
三澤勝洸 もうほぼ挑戦だったんですけど、パッと聞いて新しいものを作りたかったので、僕個人としては手癖を使わないというところにこだわりました。自分の感覚の中で思う面白いものというのは今までも沢山ありましたけど、別の視点から見て面白いと思うものも沢山あると思うんです。そういうものを掻き集めた感じです。実験の繰り返しで本当に面白かったですし、楽しかったです。
露崎義邦 僕は普段エレキベースしか使ってこなかったんですけど、今回「ONE」という曲で、シンセベースを使ったことです。デモに入っている質感を大事にしました。この曲がリードにもなっていて、分かりやすく新しいものになったなと思います。
――露崎さんは鍵盤も弾けるんですか。
露崎義邦 半年ぐらい前からちょっとずつ弾き始めたところなので、まだ、あまり弾けないです。なので、ライブではエレキベースでやろうかなと思っていて、ライブはライブ、音源は音源という考え方をしています。ライブではこの曲の違った一面も見せられるんじゃないかなと思います。
――楽しみですね。成田さんは今回、面白さというところにフォーカスされましたが、取っ掛かりとしてはどんなところから始まったんですか。
成田ハネダ バンドというフォーマットを壊しにかかったと言いますか。バンドは続けていくとヒストリーやストーリーというものがセットに見られることが多くて、5年ぐらい前だったら、それらを大事にしても良いのかもしれないんですけど、今は「その場で鳴っている音楽がどれくらい面白いものであるか」というところにいっている気がしています。自分たちが持てる力を最大限に使うということだけじゃなくて、自分たちがやってこなかった「面白いことってなんだろう」と考えました。そこから全部ひっくり返して試してみたりすることが必要でした。
――改めて過去曲も聴いてみたり。
成田ハネダ もちろんしました。毎作出すたびに新しいことをやろうとは思っているんですけど、パスピエらしさを出すために、もうひとスパイス加えるために打ち込みにも挑戦してきたことが、今このタイミングで血となり肉となって出てきたなと感じています。打ち込みとバンド・サウンドを合わせたグループは沢山いますけど、他にはない組み合わせは何だろうというところ模索して作りました。
――そしてそれを『more humor』で具現化出来たと。大胡田さんはどんなアルバムになったと思いますか。
大胡田なつき いつもアルバムが完成した時は「良いのができちゃったなあ」と思いながらも、「次はこれを更新していくわけか」と考えるんです。それってすごく難しいんです。でも、新しいデモが届いたときに「これは更新出来てしまうかもしれない」と思い、結果更新できたので感動しました。
――更新し続けていくことは容易ではないですよね。
大胡田なつき そうなんです。なので、これからはまた自分から探したり、作業を増やして、知らないことにもどんどん手を出してみるべきだなと思っています。
――その中で現在興味がある事はありますか。
大胡田なつき 中国や韓国のカルチャーに興味があります。今世界では色んな発信のされ方があって、その中でも中国のカルチャーが日本とはまた違っていて面白いなと感じています。電子マネーとか結婚写真の撮り方なんかも独特なんです。
――それが歌詞にも反映される日が来るかも知れないですね。さて、成田さんのチャレンジ曲として敢えて一曲上げるとしたらどれですか。
成田ハネダ わかりやすいものだと「煙」です。この曲は自分が演奏するようなシンセフレーズを編集して聴かせ方にこだわりました。あと、ドラムをパーツ毎にレコーディングしていて、なるべく共鳴、反響させたくなかったんです。佐藤くんからは「こんな録り方したことない」と言われました(笑)。僕も実際どうなるかわからなかったんですけど、この録り方じゃないと生まれないサウンド感にはなりました。
――大胡田さんの今回のチャレンジは?
大胡田なつき 自分の声との親和性を意識しながら歌詞を書いて歌ったことです。特に「ONE」、「resonance」、「煙」、「waltz」、「始まりはいつも」など、アッパーではない曲で意識したところがあります。今までは言葉の響きが心地良かったり、古典から言葉を引っ張ってきたりすることが多かったんですけど、自分語りと言いますか、誰かとおしゃべりしているかのように歌えたら良いなと思いました。
――以前と大きく変わったところですね。
大胡田なつき 今までパスピエにキャラクター的なところを守られて来た感覚があって、10年やってきてパスピエのボーカルではあるんですけど、「大胡田なつき」という人間として歌うということを考えて、それを今回試してみました。
――自分をさらけ出した部分も?
大胡田なつき ちょっとさらけ出すとは違うんです。というのも、さらけ出すということは私はあまり良いことだとは思っていなくて…。それもあって声をエフェクティブにしたり、重ねたりしているところもあります。そのほうがより伝わると思っていて、その完成形というのもすごく意識しました。その中で意識したのが生活のなかにあるものや気持ちです。ファンタジーではなく、誰が聴いてもわかるものというところです。
三澤勝洸 今回の歌詞は特に変化があったと思います。いつも僕は歌詞を読んでみて、自分の中で完結してしまうことが多かったのですが、今作はより深く知りたくなってしまい「ここはどういう意味だろう?」と、大胡田に質問しました。
――その中で一番気になった歌詞はどこでしたか。
三澤勝洸 「ONE」です。どこの部分というよりは、全体の雰囲気でこの物語の主人公は後ろ向きなのか、もしくは肯定して強く生きているのかというところだったり。
――露崎さんは歌詞に対しては気になるポイントはありますか。
露崎義邦 僕の場合はライブに向けてやっているときに、サビはどういう心境なのかというところが気になります。バンドの演奏的にハイになっていても、歌詞の内容はダウナーだったりすることもあるので、ボーカルと温度差を感じるときがあります。技術的に成立していても、歌い手の世界観にハマっていなかったら、違ったところに行ってしまうんじゃないかなと思うので、そういうときは聞いたりします。