King Gnuの新曲「白日」のミュージックビデオ(MV)が、過去に発表したバンドのMV群のなかでも特に異彩を放っているとして話題だ。日本テレビ系ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』の主題歌にも起用されている同曲。MVを制作するのは、メンバーで作詞作曲を担当している常田大希(Gt.Vo)が代表を務める、クリエイター集団「PERIMETRON(ペリメトロン)」。彼らが作り出すMVは極彩色の色調と独特な世界観のアートワークが特徴的だが、「白日」では今までにないアプローチを見せている。同バンドにおいて、今までのMVと比べどのような点が異質なのだろうか。過去の代表作「Slumberland」「Tokyo Rendez-Vous」「Vinyl」を例に挙げ、その核心に迫りたい。

『白日』

 『白日』のMVの特徴的な点は、白黒に徹底された映像美だ。

 廃墟のような荒涼とした建物の中で演奏するメンバーの姿を、特別な演出もなくシンプルに映し出す映像。最低限の演出でミニマルに描き出される楽曲の世界は、寂寞感と切なさに満ちている。

 特に印象的なシーンと言えば、最初のシーンの白い衣装で歌う井口理(Vo.Key)の横顔だろう。白い背景に浮かび上がる井口の横顔は祈りのようであり、叫びのようでもある。狂おしい歌声を彩る「白」という色調は、歌詞の中で言及される「雪」、タイトルの「白日」といった言葉のイメージをいやがうえにも想起させてくる。

 無駄なものが徹底的に排除された映像世界に佇む井口の姿は、後悔だらけの人生を生きる人の、白日のもとに晒された「過ち」そのもののようで、象徴的だ。

『Slumberland』

 今年1月に公開された、アルバム『Sympa』リードトラック「Slumberland」のMV。「白日」と同じく今年公開されたものだが、その内容は非常に対照的だ。

 MVの舞台は、歌詞にも登場する「TVステーション」。常田が率いる、King Gnuのメンバーを含む集団がオンエア中のニュース番組に乱入し、“お祭り騒ぎ”を巻き起こす物語になっている。

 このMVの特徴は、とにかく登場人物が多く、派手な演出が多用されている点だ。極彩色のマペットが踊り狂ったり、キーボードを前にした井口が狂気じみた表情を浮かべたりと、戯画的で独特な演出が多い。拡声器を手に演説でもするように歌う常田の姿もインパクト大だ。

 物語性が高く、毒々しい世界観が印象的な「Slumberland」のMVは、言うならば“King Gnu×PERIMETRONタッグの真骨頂”。前作であるアルバム『Tokyo Rendez-Vous』の流れを汲んだ世界観の、一つの集大成と言えるだろう。

『Tokyo Rendez-Vous』

 King Gnuが現在の人気を集めるきっかけとなった、インディーズ時のアルバム『Tokyo Rendez-Vous』。そのリードトラックとなったのがこの楽曲だ。

 MVの世界観も、先述の「Slumberland」に近いものがあり、ジャンクでドープなイメージのロケーションが多い。拡声器を手にパンチラインを披露する常田が満員電車に乗り込むシーンと、メンバー4人が車に乗り込みクラブのような場所へ向かうシーンが好対照に描き出され、歌詞にあるワンフレーズ「混沌的東京」を暗に表現している。

 女性ダンサーやパフォーマー、電子工作ギャルユニット「ギャル電」も出演しており、メンバー4人以外にも登場人物が多いMVだが、「Slumberland」程の壮大さはない。そのため、「Slumberland」のMVで描かれる世界観の前日譚のようにも見える映像となっている。

 PERIMETRONが手掛けるKing GnuのMVの原点とも言える、カオティックなMVだ。

『Vinyl』

 「Tokyo Rendez-Vous」と並び、ライブでも定番のキラーチューンとして人気の「Vinyl」。この楽曲のMVは、King Gnu史上最高に映画的な物語性の高い映像に仕上がっている。

 印象的なのが、作中に登場する2人の女性。ミステリアスな雰囲気を全身にまとう女性モデルふたりの存在感が、MVの中の物語を示唆的なムードに満ちたものへと演出する。
また、舞台や映画での俳優経験を有する井口の本格的な演技にも注目だ。2人の女性の間で揺れ動くような、繊細で色気のある表情からミュージシャン離れした演技力が垣間見える。

 歌詞やタイトルにも登場する、“ビニール”を頭にかぶせられたまま演奏するメンバー、そして地下道のような場所で狂気じみた素振りで歌う井口の姿など、扇情的な表現を多用した映画的なストーリーは、歌謡曲風のセクシーな歌メロや歌詞の世界観を端的に表現している。

King Gnu「白日」

 King GnuのMV群は、世界観が相互にリンクし合い、高い物語性を有したものが多い。しかし、「白日」はその印象が薄く、それまでのMVとは一線を画す雰囲気になっているのがよくわかるだろう。その理由は、「白日」がドラマの主題歌として書き下ろされた楽曲であることに由来する。

 ドラマなど映像作品とのタイアップ楽曲というものは、1曲単体で物語を表現しなければならない。そのMVは、ドラマに寄り添うのか、それともかけ離れたものにするのか、見せ方も変わってくる。「白日」の場合、ドラマの世界観とKing GnuおよびPERIMETRONが有する世界観を合体させ、全く別の世界を構築させている。

 極彩色の色合いと独特の世界観が特徴だったKing Gnu、そしてPERIMETRONが、ドラマタイアップをきっかけに切り開いた新境地「白日」。今後のアートワークにも期待したくなる、奥深い作品だ。【五十嵐文章】

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