ユップ・ベヴィン「人と人とが繋がる重要な手段」音楽の真理へ向かう『ヘノシス』
INTERVIEW

ユップ・ベヴィン「人と人とが繋がる重要な手段」音楽の真理へ向かう『ヘノシス』


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年04月03日

読了時間:約8分

 “ジェントル・ジャイアント(フレンドリーな巨人)”と称される身長207センチのオランダのコンポーザー・ピアニストであるユップ・ベヴィンが4月5日、3rdアルバム『ヘノシス』をリリース。2015年に自費でリリースした前作『ソリプシズム』は個を、クラシックの老舗レーベルであるドイツ・グラモフォンと契約しリリースされた2017年の『プリへンション』は人間全体を意識、その3部作の完結編となる今作は、宇宙をテーマにした全22曲を収録した2枚組の大作。ピアノの他にシンセサイザーも使用し、壮大な宇宙を表現し前作とはまた違ったユップの世界観を作り出すことに成功した。儚くも美しい旋律と内側へと導いてくれる、深層心理に訴えかけるようなサウンドの秘密に迫った。【取材=村上順一/撮影=片山拓】

「ヘノシス」は自分の存在というところから解放される瞬間

――3月12日にお台場のデジタルアート ミュージアムで開催された『Yellow Lounge Tokyo 2019』に出演されましたが、あの空間での演奏はいかがでしたか。

 すごく特別な空間で非常に光栄です。あそこでやってしまったら次はどんなことをしたらいいのか、わからなくなってしまっています(笑)。

――ライブというところでお聞きしたかったことがありまして、ユップさんの作品はコンセプトがしっかりとあるのですが、ライブのセットリストはどのように考えていますか。

 今回の『Yellow Lounge Tokyo 2019』に関しては今作から3曲、残りの曲は自分が好きな曲を選びました。バランスを取るというのがすごく難しいんですけど、お客さんがずっと集中を保っていられるように、心掛けてセットリストを組んでいます。とても難しいですけどね。そこに一つのストーリーが出来上がっていなければいけなくて、その場のエネルギーがどのように繋がって行くのかを考えます。

――さて、今作『ヘノシス』はこの4年間の集大成、完結編とも言える作品が完成しましたが、今どのような心境ですか。

 恐いですね(笑)。次にどうしようという恐怖感もある反面、完結したことへの嬉しい気持ちももちろんあります。今後、自分の中でどんな新しい事が生まれてくるのか、そういったことも考えなければいけないと思っています。

――もともと3部作にしようと考えていたのでしょうか。

 考えてはいなかったです。1作目の『ソリプシズム』は個というものを意識して作りました。そして、2作目の『プリヘンション』は個から少し広がって人間全体を意識し、今作を作るにあたってさらに広げて、宇宙というものが見えてきました。なので、『プリヘンション』を作った時に3部作にしようという意識が生まれたんです。

――その宇宙という壮大なテーマがあるわけですが、ユップさんにとって宇宙とはどのような存在なのでしょうか。

 宇宙とは一つのもので、内側にあるものなのです。外にあるものは全て内に繋がっています。簡単に言うと私の中で宇宙というのは一つのまとまったものなんです。

――今まではピアノのみで構築されていましたが、今作ではシンセサイザーも積極的に使用されています。それは宇宙というものを表現するために取り入れたことが大きいでしょうか。

 もちろんピアノだけで宇宙を表現することも出来るかもしれません。より広がっていく、宇宙へ向かっていく旅を考えた時に、映画とかを観ていてもエレクトロニックなサウンドがあるので、一般の方たちがイメージしやすい、広大さを表現する手助けしてくれる音としてシンセサイザーを使用しました。

――今作を作るにあたりきっかけとなった一曲は?

 「イントゥ・ザ・ダーク・ブルー 」です。この曲でゆっくりと引き出しを開けていくような、ピアノとシンセサイザーのリンクを作っていくといったイメージでした。

――2枚組という大ボリュームの大作になりましたが、ここまで広がって行くことも想定されていましたか。

 全然想定していませんでした。でも、表現したいアイデアはたくさんあったんです。スタジオに行くとアイデアの引き出しを開けて、作っていくという作業を繰り返していたら、22曲出来てしまいました。デモが出来た時にレーベルの担当者に聴いてもらったら、「全て発表したらどうか」と言ってもらえました。それによってより深い部分まで旅をすることが出来たんじゃないかなと思います。結果的にとても良かったと思います。

――アイデアが溢れてきてしまったんですね。敢えて4部作にすることも出来たと思うのですが。

 4部作にしようという考えはなかったです(笑)。やっぱり3というのがまとまった形だと思います。ただ、明るい曲と暗い曲で分けて出そうという考えがなかったわけでもないんです。でも、リスナーの方にはひとつのまとまったものとして聴いてほしいというのがありました。最後まで聴いた後に満足感を得てもらえると思うので、結果的にこの曲数になったと思います。

――ちなみに曲順はある程度出来た順番通りだったりしますか。

 レーベルのスタッフと再構成しました。そして、僕の親しい友人にも聴いてもらって意見をもらったりもしました。

――2枚目に収録されている「ネブラ」という曲は今作の中でもシンセサイザーの印象が強く、壮大なスケール感に圧倒されました。この楽曲の制作背景はどのようなものだったのでしょうか。

 この曲と「アポフィス」はモジュラーシステム(※Moogなどに代表されるパッチケーブルを組み替えて音を作り出すシンセサイザー)を使用して、知り合いのチェリストと一緒に作っていきました。僕はエレクトロニックなものも大好きなので、どうやってミニマルなクラシック音楽と繋げられるかというテーマがありました。この曲がアルバムの最後の方に相応しい音楽だと思いましたし、実験的なところもあったんですけど、良い曲が出来て良かったです。

――ちなみに曲のタイトルはどのように付けているのでしょうか。

 タイトルはすごく考えます。インストゥルメンタルなので、リスナーに曲のイメージを伝える大切なものなんです。言葉というのはアイデアを伝えるための重要なものです。逆にリスナーがこれはどういった意味だろうと、その言葉を調べてもらって体験してもらうのも伝えるための一つの方法だと思っています。聴いた方にも想像力を持ってもらいたいという気持ちもあります。

 アルバムのタイトルは制作の最後の方だったのですが、友人と話しているなかで、あるところから始まって、長い旅路で「ヘノシス」に辿り着く。その「ヘノシス」とは何かというと、物質的な自己ではなくなる瞬間、自分の存在というところから解放される瞬間というのがこの言葉のひとつの意味に通じています。それもあって、「ヘノシス」という楽曲がこのアルバムの全てを表現しているのではないかとなったわけです。

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