おぼろげな夢をものにしたい、寿君 「大どんでん返し」にみる音楽観の変化
INTERVIEW

おぼろげな夢をものにしたい、寿君 「大どんでん返し」にみる音楽観の変化


記者:小池直也

撮影:

掲載:19年03月18日

読了時間:約14分

深夜ライブはセットリストが組めない

寿君

寿君

――作曲のクレジットはNAOKI-Tさんと、寿君さんとなっておりました。寿君さんはどの部分を作曲されたんでしょう?

 メロディが先に出てきて、それに歌詞を乗せることが多いです。最近この方法に変わったんですよ。今まで頭から聞いて、メロディもリリックも作っていったんですよね。そういう曲ももちろんありますが、それだとレゲエ風の今まで書いてきた感じになってしまって、訂正しづらいんです。「もう少しこういうテイストを入れてみたら?」という意見をもらっても、完結してしまっているので取り入れられなかったりして。

 先にメロディを出しつつ、歌詞を当てはめるスタイルにすると結構振れるですよ。「あ、こういうこと言ってなかったな」とか思っても対応できる。今も新曲を制作していますが、めっちゃ試行錯誤していますよ。1番のBメロだと思っていたものを、2番のBメロにしてみたりして。

――<海を知らずに井戸の中を/泳いでいた蛙も>という表現も印象的でした。

 レゲエ界ってそんなに広い世界ではないですが、僕は「レゲエ界の鉄板ボーイ」と呼ばれ続けていました。レゲエやブラックミュージック、ヒップホップを聴く人に問いかけていたんです。でも世の中のメジャーアーティストは1億人以上の人に対して音楽を発信していかなきゃいけない。それを肌で感じましたし、身に染みて理解しました。「めっちゃ井の中の蛙やんけ、俺って」とすごい思ったんです。それで、この歌詞が浮かんできました。

――オートチューン(ピッチ補正エフェクト)も強めにかけているのかなと感じましたが、その辺は?

 気分ですけど、確かにこの曲は強めてもらいました。「あー夏休み」は自分のなかで、弱めだった気がします。オートチューンのこだわりは特にないんですけど、基本好きです。「Voloco」「I Am T-Pain」というオートチューンの携帯アプリがあって、音をかけながら遊ぶんですよ。そのなかで気持ちいいラインを見つけて、メロが出てくる。オートチューンで遊ぶことが僕の作曲方法のひとつなんです。

――そういえば、SNSでオートチューンのエフェクターを腕に埋め込んだ人がいる、というフェイクニュースがバズっていました。

 オートチューンってキー(調性)を設定するとそこにない音がバイパスされてしまうんですよね。だからセブンスの音(調性のドレミファソラシドにない音)はバイパスされるんです。だから話していて「なんでやねん」の音が上がる「や」の部分とかがバイパスされたらめんどくさいので、そういう未来はこないと思います(笑)。ライブでは基本的にオートチューンは使いません。音源は気持ちいいなと思うんですけど、ライブは楽しさ重視で自分の魂を聴いてもらいたいので。

寿君

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――ミュージックビデオでは色々な写真が使われていました。

 写真集めが大変でした。ファンの方々からも募集して使わせてもらったり、自分の過去のiPhoneも二代前くらいのものまで全部復活させましたよ。なぜかパソコンにつなげられなかったので、手動で2000枚くらいをコピーしました(笑)。そこから使えそうなものと厳選して、映像監督をしてもらった友人のISSEIくんに投げて。内容は時系列で過去から今に進んでいくようなものになりました。

 先ほども話しましたが「過去にあったことも無駄じゃなかった」という曲にしたかったんです。遠回りじゃないよ、だとしても絶対無駄じゃないと。それも含めて「大どんでん返ししよう」という応援歌。なので、過去の写真をフラッシュバックさせる案にとても賛成でした。写真を見てるだけで「これでよくない?」って思うくらい(笑)。でも、そのセンターに立って歌わせてもらったりして、映像見てると泣きそうになります。色々な感情がこみ上げてきますよ。

――ご友人と組んで作品を作ることは結構ありますか?

 基本ISSEIくんと組むことが多かったですね。自分もよく着ている『High Life』というブランドの撮影チームとMVを撮った曲もありましたし。メジャーに来てからは、有名な方に作って頂くことも多いんですけど。インディーズ時代は周辺で、意見を言いやすい人と一緒にやってました。僕のことをよく知っている人たちなので、写真のセレクトもばっちりだったなと思います。

――コンスタントにライブを続けられていますが、夕方のライブと深夜のライブで違いなどあります?

 ありますね。夕方から夜にしかこないお客さんと、夜遊びしているお客さんの好きな音は全然違いますよ。一番聴いてもらいたい「大どんでん返し」にたどり着く流れも変わってきますから。夕方のお客さんの方が、求めているものがわかりやすいですね。夜中の方が難しい。熱狂的なファンがたくさん来ているという空間でもないですから。お酒が好きとか、出会いを求めてきたとか、そういう方もいい意味で音楽に巻き込んでいきたいんですよ。気持ちいいBGMでもありたいし。だから夜と深夜のライブは別物で考えてます。

 なので夕方のライブは「セットリスト、これでいくんで」と結構前から曲を提出できるんですけど、深夜だけは現場入りしないとわかりません。フロアの男女比とか情報が大事なので、マネージャーにステージの上からムービーを撮ってもらって、それを見ながら考えます。「結構パリピ多いなあ。これならアップテンポでジャンプさせた方がええなあ」とか(笑)。斜に構えてる、バッドボーイとかヒップホップ好きが多いところでは、ダンスホールレゲエの曲から切り込んでいったり。状況や現場の照明などを見て考えますね。空気を読めなかったら、だだスベってしまいますから。いきなりメジャー的な感じで入ると、ふさぎ込まれる場合もありますし。ファンの人が来ている場合もありますけど、その後ろにいる人たちもしっかり楽しめる様にしたいんです。

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寿君
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