4人組インストバンドのYasei Collectiveが11月24日、東京・LIVE HOUSE FEVERで全国ツアー『Yasei Collective Live Tour 2018 “stateSment”』の最終公演をおこなった。同ツアーは最新アルバム『stateSment』を引っ提げ10月5日の栃木・宇都宮studio baco公演から全国8カ所をめぐったもの。先日発表されていたが、この公演をもって別所和洋(Key)が脱退。松下マサナオ(Dr)が「別所がいてヤセイがありました」と語った様にツアーの集大成にして、4人の9年間の歩みの集大成となった、この夜の模様を以下にレポートする。【取材=小池直也】

今日という日を皆さんと共有していきたい

別所和洋(撮影=Kana Tarumi)

 期待と名残惜しさを感じる満員のフロア。エントランスにはLUNA SEAのSUGIZOから花も届いていた。幅広いフィールドでの活動を経てきた、彼らの広い人脈をうかがわせる。そして温かい歓声に迎えられた4人がステージに登場し、すぐ演奏体勢へ。ここからバンド9年の集大成となる演奏がスタート。

 1曲目は「Combination Nova」から。キーボードの変則リズムのリフで演奏が始まる。10拍の中で緊密なアンサンブルが展開され、初球にしてオーディエンスを釘付けにする。ときおり入るブレイクはさらに緊張感をあおっていた。松下マサナオの右手にあった口径の大きなシンバルも目に付く。そして「Okay」。いきなりポップに吹っ切る。音源でも美しかったシンセの音色はライブでも存在感を放っていた。機械的にボリュームを下げた様な効果を人力で生み出すアレンジも。エンディングのリズムを分割していく部分では、フロアからも声が上がっていた。

 さらに「radiotooth」の印象的なイントロでも歓声。紫と青の照明が演奏を引き立てていた。ライブならではのアレンジもみどころ。別所和洋の卒業で熱量が高いのを差し引いても、4人の技術の向上が感じられる演奏が展開されていく。

 ここで松下が「ツアーファイナル。今日で別所とお別れ。最後まで楽しんでいってください!」と短くMC。

松下マサナオ(撮影=Kana Tarumi)

 そして「The Golden Fox」。静かな雰囲気のなか、声のサンプリングが異質な空気を漂わせた。「Snow」では、斎藤拓郎(Gt、Voc、Synth)のぐにゃぐにゃしたメロディと持続音多めのバッキングのなかで、ドラムがラップするようにリズムを刻んでいた。

 最後は別所がセンスのいい和声で装飾した旋律を添えてエンディング。6曲目の「Goto」もメロディとビートの音数が対照的でクールだった。

 再び松下がマイクを取る。「天気もよかったし、来やすかったでしょう。色々言いたいことはあるけど、あくまでアルバムのツアーファイナルということで。今日という日を皆さんと共有していきたいと思います」。

 初期の楽曲だという「Alowari」は3拍子。リズムが変形しながら展開していく。キーボードのリングモジュレーターの音も印象に残った。4人で作った最後の新曲だという「OREVA」も5拍子×3という、これまた難しいリズム。

 最後まで、このメンバーでの曲作りは体育会系だったと言うほかない。しかし、次にポップな「Splash」を配置。少し踊りづらい曲の後に、バランスをとるかの様に観客を踊らせていた。

なんたって来年は10周年

斎藤拓郎(撮影=Kana Tarumi)

 演奏が終わると、松下は「楽しい」ともらした。「まだまだ4人でできるんじゃね?」とも話す。「いやいや、まだまだ4人でやってくれよ」観客はそう言いたいに違いないのだが、松下のその言葉に笑いで応答していた。

 その後「最高の形で彼を追い出すことができて、みなさんにも別所にも感謝しています」と述べた。そこからは、メロコアぽい2ビートとジャズぽさがいい塩梅で混ざった「Silver」、ファンキーなリズムに踊り出したくなる「African Doorz」と並べていった。

 ここで、別所が「『Lights』というアルバムに僕のソロが入ってるんですよ。それを演奏する機会をくれるということなので、遠慮なく演奏させて頂きたいと思います」とMC。
 さらに「今もやりながら『これで最後なんだな』と思いながら、ぐっとくるものがありました。話してると泣いちゃうと思うので、曲をやりたいと思います。俺が辞めても3人をよろしくね、みんな」と重ねた。演奏したのは「RhodesPhet」。電子音とエレピの音が溶け合う、美しい7拍子をひとりで弾き切った。オーディエンスからも温かい声援と拍手。

 他の3人が演奏に復帰して「Dream Journey」。中西道彦(Ba、Synth)の饒舌なベースソロ、ブルージーかつコードをずらしながら、編んでいくキーボードソロ。そして斎藤のギターのトレモロがいい音で響く。松下がハイハットを4回叩いて「Bong Bong Chin Chin」が陽気に始まった。長めなドラムソロも見もの。さらに「Chat-Low」は王道なサビでフロアを揺らした。そして、いきなり5/8拍子の際どいビートが投下される。「Trad」は考えながら聴いてしまうと難解ではあるが、何も考えず身を委ねると普通に聴ける。これが彼らの魅力でもある。

 本編最後は「I Won't Forget」、「Suzumebachi」と並べた。演奏は最終的に轟音に達してエンディング。大きな拍手に見送られメンバーが退場する。しかし、すぐに観客からはアンコールが。メンバーも間をあまり開けずに戻ってきた。

中西道彦(撮影=Kana Tarumi)

 まずは「MML」「Tabaco」という順番でプレイ。そして、松下。「3人でもちゃんと活動していきます」と言いきって。来年のライブの日程を発表。別所は「観に行くわ」とジョークを飛ばして笑いを取った。続いて、再度「別所9年間ありがとう! ごくろうさま。別所がいてYaseiがありました」と松下が感謝を表し、演奏再開。アンコール最後は「O.I.A.K.A」と「David」。斎藤の伸び伸びとしたギターソロで大団円を迎えた。

 でもまだ終わってほしくない。そう考えたであろうオーティエンスは再度アンコールで4人を呼ぶ。もう一度マイクを握る松下。「別所も僕らも個人個人も精一杯音楽やっていくのでサポートおねがいします。なんたって来年は10周年ですから」。次が本当に最後の演奏となる。「別所といったらこの曲。速くて、アガれるやつ」だという「Hello」。別所の入魂の早口シンセに心をつかまれた。花火の様に、華麗で、それでいて消え得る切なさを同時に感じさせる演奏だった。

 演奏後は大きな拍手がバンド、特に別所に贈られた。ツアーを重ねてきた集大成であり、4人の9年間の集大成はこうして幕を閉じた。バンドと別所のこれからの活動に期待したい。

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