高岩遼「スターにならなければいけない」母との約束果たした10年の軌跡
INTERVIEW

高岩遼「スターにならなければいけない」母との約束果たした10年の軌跡


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年11月22日

読了時間:約14分

「35歳で死ぬ」と占い師に言われた

——なぜ世代感の様なものにこだわるのでしょうか?

 ポッセ(仲間)というよりも個人の話ですね。自分が生まれてきた瞬間とか境遇、育った街、一緒につるんだダチ公を僕は誇りたいんです。「ボーン・イントゥ・ザ・90s」みたいな感じで。割と自然なことじゃないですか? 僕は1990年に生まれたんだよ、というのを声を大にしていくことは僕にとっては自然でした。それにしても、なぜでしょうね。

 「レペゼンゆとり教育」はSANABAGUN.で言っていたことで、ギャグとしてやっている部分もありますが、今回の「平成2年生まれ以下で固めたい」というので大事なのは、若気の至り感。今作ではシナトラの「Strangers In The Night」を歌っていて、みなさんも評価してくださるのですが、28歳でしかないという歌なんですよね。コクも何もない28歳のペーペーが歌った歌。でも逆にその瞬間でしかない歌。

 平成2年生まれ以下の奴らが集まったこのビッグバンドの音は、まだ深みがないかもしれないけど「それはそれで最高」という質感を大切にしたかったんです。そういう意味の『10』というか。18歳から28歳までの人生。28歳で生まれたこのアルバムが年を取って「いやあ、若いね」となる瞬間がきたら最高だなと。そういう意味で縛りを入れたかったのかもしれません。

——現在の自身の歌について、味がないと思われるということですが、それは人生経験?

 そうですね。特にジャズなんて、シナトラが生きていた、禁酒法の時代(1920年代)のシカゴやニューヨークの雰囲気だったり。言語も空気も顔立ちも違うものじゃないですか、ジャズって。時を経て、黄色人種の日本人で田舎坊主がジャズを歌うというのは絶対届かない何かがありますよね。ハンディキャップがあるんです。だからこそ、色々なものを経験しなきゃいけないし、日本人として誇っていないといけないと思います。本当にまだまだですね、僕の歌は。クソですね(笑)。

——今作でのリード曲は「ROMANTIC」ですね。

 僕が10年前上京してきた時にもし「ソロアルバムを出そう」となったら、この曲は絶対やらなかったと思います、ポップだから。「それはやらねえ」となったでしょうね。もっとジャズをやりたいというか「ダセえな、なんだよこの4つ打ち」みたいになったかもしれません。でも10年経って、色々な人と出会って活動してきた結果「格好いい!」と思ったんですよ。トラックもいいし、歌も日本語だし。「うわ、いいじゃん! ヒットソング狙っていけそうだね」という余裕がいつの間にか生まれたんです。

 「ROMANTIC」をリードにした理由は「高岩遼って、やっぱり愛を歌う人なんだね」となりそうな曲だからです。1番わかりやすい。自分でもそう思っているし、そういう良さが出ているんじゃないでしょうか。あとは「Try Again」も印象深いですね。「俺がいるから大丈夫」とか自分の悩みを音楽で打ち明けるというのはダサいと思っていたんですよ。それを仲間たちに初めて書いた曲なので。

——そういう意味で、10年を経て音楽的にも自由になれた?

 そうですね。ツッパリ方が変わったって感じです。以前は路上ライブをやっていたりして、みんなに「ナイフの様だった」と言われていました。今はなんですかね、そういうものを出さなくてよくなったというか。ナイフを出さずに、ただ持っている状態になれたなと。

——アルバム全体の歌い方などで気を付けた部分などはありましたか。

 Yaffleとも「これはボーカルスタイルの教則本だ」と話していて。歌い方のキャラクターがたくさんいるんですよ。これは僕が10年間で得た能力ですから。気にかけたことは曲ごとに違いますね。シナトラはシナトラだし、僕は僕で“声のGスポット”を大事にしなきゃなとは思ってはいました(笑)。僕の強みは声なので「このいい声を大事にする」というのが大前提。それを意識しつつ、かすれ気味だったり、強い、弱い、ジャズッぽい、太いという色々な属性を曲に合わせて選んでいくという作業でした。

 でも、自分では声がいいとは思っていないんです。『“10”interlude』でもあるように、周りの方が言ってくれるんですよ。需要があると言った方がよいかもしれません。なので『“10”interlude』はアンチテーゼの意味もあります。「僕は自分の声をよいとは思っていないし、もっと歌が上手くなって、いい声で歌いたい」という。そういう意味で常に葛藤はありますね。

——ボーカリストとして向上心は常にあると。

 ありますね。練習はもちろんしなくてはいけないことなんですけど、なによりも歌詞です。こればっかりは人生経験なので。どんなにいい声であっても、チャラチャラした奴だったら全然伝わってこないだろうし。そういう経験を積まないといけない。だから28歳なら、28歳の歌になりますし。まあ80歳くらいになったらちょうど良くなるんじゃないですか(笑)。ようやく「ここまで歩んできたな」と自分に自信が持てる様な気がします。

——「Till I Die (intro)」の歌詞にある「35歳で死ぬ」と占い師に言われたのは実話ですか?

 本当です。みんなから「短命だ」ってずっと言われていたんですよ。あとはTHE THROTTLEの路上ライブをやっている時とかも、そういうイメージで見られていて。「27歳で死ぬ代表格だ」みたいな(笑)。だから友達とかライブハウスの人や、先輩後輩が「長生きするんだよ」と言ってくれました。へえって感じでしたけど。

 占い師にそう言われた時は、銀座でボーイのアルバイトをしていた時でした。アルバイトやってバンド活動するって、非常に苦しい時期の話じゃないですか。こんな偉そうな奴が「響のハイボールです」なんてやって(笑)。そんな時に「35歳で死ぬ」と言われた僕の気持ちは「お前、マジで見てろよ。いつかてめえが俺のライブに来たいって頭下げてくる様にしてやる」というもので。それをチャーミングにネタにしているという感じです。そのインタールードの次にくるのが「I'm Gonna Live Till I Die」。ジョークですね。急きょ、こういう作り方になったんですよ。

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