日本の住宅事情ではある程度の音量で音楽をスピーカーで聴くということは厳しい。昼間ならまだしも夜中に大音量で聴ける人はごく少数だろう。一日中音楽を聴いていたい…。そんな音楽Loverたちの必須アイテムと言えばヘッドフォンやイヤフォンだ。ヘッドフォン女子というワードも生まれ、老若男女問わずヘッドフォンは人気で、現在進行系で数え切れないほどの製品が発売されている。10月6日に発売されたSONYのワイヤレスノイズキャンセリングヘッドセット「WH-1000XM3」は数あるなかでも期待値が高い製品といえる。昨年発売された「WH-1000XM2」の後継機種として登場した本機種を約1週間使用し、その特徴をレビューしたい。

 「WH-1000XM3」では新開発の「高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN1」を搭載し、業界最高クラスのノイズキャンセリングを実現している。前機種「WH-1000XM2」の4倍の信号処理が可能になったということで期待が高まる。

 ヘッドフォンを装着し、パワーをオンにするとサーと聞こえていた環境ノイズが一気に止まる。テレビなど音量が大きいものは微かに聞こえてはくるものの、かなりのノイズキャンセリング力には驚かされた。これで、音楽に集中する準備は万端といった感じだ。そして、音楽を再生すれば高性能DAC(デジタル・アナログコンバーター)の恩恵もありクリアな音質が耳に飛び込んでくる。ちょっと不安に思っていたBluetooth(ブルートゥース)接続による音痩せもほとんど感じられなかった。ワイヤレスだが満足できるクオリティだ。MP3などの圧縮音源をハイレゾ相当にアップスケーリングするDSEE HXという独自技術の恩恵もあるのだろう。(※DSEE HXとはウォークマンなどにも搭載されているソニー独自の高音質技術。MP3など圧縮で失われがちな高音域などの音を再現しハイレゾ相当の高音質で楽しめる)

ノイズキャンセリングの恩恵

「WH-1000XM3」

 WHO(世界保健機関)によると、世界で約4億7千万人が聴覚障害に苦しんでおり、2050年には9億人に達する可能性があると言われている。その原因の一つとして、イヤフォンやヘッドフォンによる大音量でのリスニングにあるという。それもあって直接耳に入れるタイプの音響機器を敬遠している人も多いのではないだろうか。今までもノイズキャンセリング機能は多くの機種が採用しているが、「WH-1000XM3」のノイズキャンセリング効果は絶大。音楽に集中させてくれるだけではなく、外音がうるさくても、不必要に音量をあげなくても良いため、耳にも優しいという恩恵もあるだろう。

 さらに音楽を聴くだけではなく、仕事や勉強など集中したいときにも恩恵がありそうだ。このヘッドフォンを装着すれば、静寂を手に入れることも出来るからだ。自然音などの音源を流せばリラックス出来る空間も作り出せるし、ノイズを遮断することで得られる没入感も増している。

スムーズな操作感と快適な装着感

 ボリュームや曲送りなど、普通はプレーヤー本体やリモコンでやることが多い操作も、ハウジング部分を触るジェスチャーでコントロール出来る。この操作感もストレスなく、なかなかスムーズでスマートフォンとの連携もなめらかに追従していた。

 そして、音も重要だが装着感もヘッドフォンを購入するに当たって重要な要素で、過去に筆者はいくつかヘッドフォンを使っていたが、メガネを使用していることもあって、長時間つけていると、こめかみが痛くなることが多々あった。それもあり、現在はイヤフォンを使用することが多いのだが、本機は255グラムという本体の軽さと、新たに採用した低反撥のウレタンを使用したイヤーパッドの付け心地も相まって、長時間装着していても、ほとんど痛みや不快感はなかった。このポイントは非常に高い。

ジャンルを選ばない音質

「浸り」

 肝心な音の印象はというと、特色がないことが特徴だと感じた。どちらかというとハイレンジよりも中低域にフォーカスした音質で、長時間聴いていても疲れにくい音質だった。どのジャンル向きという傾向は薄く、クラシックからクラブミュージックまでオールマイティに使用できるヘッドフォンだと感じた。

 強いて言えばロックにはもう少しエッジが欲しいと思ったが、これは専用アプリ「Headphones Connect」に搭載されているイコライザーで補える。400Hz、1kHz、2.5kHz、6.3kHz、16kHzの5バンドと、少しイジれる周波数帯が少ないのではと思ったが、使用してみるとすごくポイントが抑えられており、必要最低限で音質を好みの方向性に迷わずに調整できる。プリセットもバリエーションがあり楽しめるが、自身でカスタマイズするのもオススメだ。16kHzを上げれば空気感をプラスできるし、2.5kHzあたりでボーカルの存在感、音をすっきりさせたければ400Hzあたりを下げることで調整可能だ。

 更にこのアプリでは周囲の音の取り込み方好みのレベルに調整できる「外音コントロール」や、スマートフォンのセンサーを使い、ユーザーの行動に合わせてノイズキャンセリング機能や、周囲の音の取り込み方を自動で切り替える「アダプティブサウンドコントール」など痒いところに手が届く機能が付いているので、必須アプリだと思える。

 そして、ワイヤレスで気になることといえば、やはりバッテリーの持ちが心配だと思う。マニュアルにはフル充電で最大約30時間とあり1日は余裕で持つ。クイック充電性能も前よりも向上したことによって、10分間の充電でも約5時間駆動できる。筆者も1週間使用してみて、使う頻度にもよるがバッテリーに関しては全く気にせず、結果1度充電しただけだった。

 全体的にバランスがとても良く、良い意味で個性的ではないため、飽きずに長く使える一台だと思った。ちょっと価格が高めかも知れないが、それを補うだけの性能と装着性は非常に高いと感じた。

 ところで現在、名画の一つとして有名なエドヴァルド・ムンクの「叫び」が初来日中で、「WH-1000XM3」と異色のコラボが実現。ムンク美術館の許可を得て新たに描き起こされた「WH-1000XM3」を装着した「浸り」と名付けられた油彩画をキービジュアルとして公開した。この油彩画「浸り」が10月19日から12月24日まで全国のソニーストア 銀座・札幌・名古屋・大阪・福岡天神と順次展示中。『ムンク展共鳴する魂の叫び』も上野の東京都美術館で開催中ということもあり、ヘッドフォンで音楽を聴きながら、芸術の秋に触れるというのも一興ではないだろうか。【村上順一】

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