じんとは何か、自問自答を続けた5年半 譲れなかった本心
INTERVIEW

じんとは何か、自問自答を続けた5年半 譲れなかった本心


記者:木村武雄

撮影:

掲載:18年11月07日

読了時間:約16分

キーワードは「友達」、サウンドへのこだわり

――その中で出来た今作はどういったものでしょうか?

 「友達」というキーワードがある作品です。自分の友達に対する色んな考えみたいなものが入っているアルバムだと思います。友達といっても同い歳の友人という訳ではなくて、「対・大人」か、「対・過去の自分」、「対・好きな人」とか。相対する誰かに対しての考えというものを入れたアルバムです。もちろんわかりやすく、「一緒に遊んだりした友人は今元気か」という曲でもありますし、人との距離感がどうしても掴めないなということで悩む歌詞でもあります。この5年半は自分の人生にとってもの凄く辛かったし、自分が変わった期間だったなと思っていて。

 1stアルバムを創っていた頃に凄く信じていた人とかにきれいに裏切られたりとか。逆に言えば、これは僕が人を裏切ってしまったんじゃないかなと思ったりとか。人間って凄く難しいなと思ったんです。一番怖かったのは、悪意がなかったというか。多分向こうも悪意じゃないし、僕も悪意じゃないみたいな瞬間。人間と人間の距離感って、どうしても幸せになれない瞬間とかがあって、だからこそ、それについて自分が痛い思いをして悩んだということがあったので、今回アルバムのテーマにするに相応しいと思ったというのがあって。

 カゲロウプロジェクトというもの自体が友達というか、一人じゃないというのを推奨している作品なんですよね。自分は今でも正しいと思っているんですけど、一人じゃ生きていけないから、誰かというものに対して常に人は悩むし、何かしら常にアクションして答えを出し続けていくというのが多分人生なんだなと思うんですけど、聴いてくれる子たちに対してもそう言いたいし。

 今回それに5年半もの間、滅茶苦茶悩んで。「本当に人間と生きていけるのか」とか。難しいなと思うことがあったので、これぞテーマだなと感じて書いたんですけど。

――収録曲を過去の作品に関連性を持たせているというのは、それぞれの物語でテーマ性に合うものにリンクさせているような感じでしょうか?

 そうですね。特に二段構えみたいな感じになったかなと。多分カゲロウプロジェクトを知らない人が聴いてもある程度のエモーショナルを感じられるんじゃないかなと。歌詞だけを見ても何かしらを受け取ってもらえるようにというのはもちろんやりましたし。逆に過去の作品を知っている人は、掘っただけ面白いものが出てくるような風にはしているので。パッと見ても絵になっているし、引きで見ても絵になっているし、そんな感じの曲たちが多いかなと。

――サウンドがパワーアップしていますよね。凄く良いです。

 ありがとうございます。サウンドを褒められるのは滅茶苦茶嬉しいです。

――バンドを組んだ経験などが今の音楽の形になっているということもある?

 けっこう自分で正解と思っている音が頭の中にはあるんですけど、より表現できるようになったのは確かに色んなことを経験させて頂いたかなと。アニメの曲を書かせてもらったりとか、よりじっくり音楽を聴く時間とか。2ndアルバムのときもそういう時間が欲しかったんです、本当は。「自分の頭にある音を表現するためにはこういう方程式が必要なんだ、よしこれでやろう」と悩む時間すらなかったということの鬱憤晴らしもありますね。ほら見てみろ、今回のアルバムの方が音は良いだろうと。そういった野心もあって、良い音ですねと言ってもらえるように届いたのは嬉しいですね。

 計算とか経験とかと言うよりかは怒りだと思うんです。当時、悶々としていたものをここで晴らさないといけないというか、証明しなくちゃいけないというのがあったと思うので。じゃないと5年半無駄だったなとなっちゃうので(笑)。「当時とたいして変わらないじゃんこれ」と思われちゃったら嫌だなと。

 何でこの5年半が始まったんだと思ったときに「これを作るためだった」と思えるものにしなくちゃいけないと。だから始まった瞬間の「何で」と思った怒りみたいなのが多分サウンドには宿りましたね。

――アコースティックバージョンも凄くエモくて、その「怒り」が伝わってきます。

 怒ってますね(笑)。最近は圧倒的な怒りで創っていますね。

――芸術は怒りが原動力になることもありますからね。

 確かに。でも怒り散らしていても、誰かを倒したいとか思っている訳ではなくて。さっき言ったように、誰かが悪い訳ではなくて正義感が違うとか、そういったことによって人と上手く距離がとれないとか、わかり合うことができないとか。そういうことに対する怒りはやっぱり凄くあって。

 僕がいくら言葉を創ったり、気を遣って人間関係を上手くやろうと思ったってあまり意味がないというか。やっぱり圧倒的なこの世の仕組みの前では凄く小さいものだと思うんですけど、音楽って自分よりも大きく響いてくれると思うので、それに期待して色んな願いを託した曲たちになったと思います。「失想ワアド」とかもけっこう怒ってますよ。<不思議なことに この世界は「普通なこと」が難しくて>って凄い怒って書いたので。「普通なこと何でできないの?」って言われたときにこういうことが言いたくなったんです。不思議だなあと。「普通に」って、さも当然のように言われて「何で難しいの?」って。普通ってそもそも何なのかと。とにかく怒り散らしたところはあるんですけど、やっぱり衝動的ですかね。

――若い人達からしてみれば、代弁してくれていると思うかもしれないですね。

 そうだったらいいなと。僕はTHE BACK HORNが好きなんですけど、中学校のときに不登校になったことがあって、そのときに聴いて僕の言いたいことを全部言ってくれているようなバンドだったんです。「こんな星は爆弾で燃え尽きろ」みたいな曲があったんですけど「最高!」と思って。でも自分はTHE BACK HORNではないですし、彼らになろうとはしていないですけど、今は自分という正義感の中でそういうことができたらいいなと思って創った感はあります。

――そう考えると、今作は音楽性としてはだいぶ違うものかもしれないですね。

 そうですね。確かに違うなと。でも今までの音楽性の延長にあるものかなと。進んできた気がします。変わってレールを変えたのではなくて、ちゃんとレールを積んできてこの駅に着いたなという感じなんです。自分的には実は変わらない、でも違うものになっているというものとして創れたんじゃないかなと思います。

――「自分とは何ぞや」というのがこの期間で見つけ出せたということですもんね。

 できたと思いますね! 自分はこのアルバムを創れたのがやっぱり一番できたということかもしれません。

――そうなると強いですね。これからも楽しみです。

 僕も楽しみです。まだ怒り散らかしているので(笑)。自分の中にはまだ言わなきゃと思っていることがあるので良いものが創れるんじゃないかと。このアルバムもまず間違いなく自分が聴いてもらいたいと思っているものなので、聴いて頂いて何か感じてもらえたら嬉しいなと思いますね。

――楽曲の捉え方は人それぞれだと思うのですが、小説など色んなことが絡み合っていて、これまでと今までと違う楽しみ方を提示している気がします。初めて聴く方に対して、どのように楽しんでもらいたいということはありますか?

 今回アルバムを聴いてくださる方というのは、このアルバムを入り口にしてくださる方がもしいるなら、このアルバムで感動したポイントとか、歌詞とかで共感するなと思ってくれたところがもしあるなら、是非小説を読んでください。そうしたらまた違う楽しみが見つかるかもしれないと。別に感動しなかった人は別に大丈夫ですと。音楽は音楽で楽しみたいという人、好きなように聴いてもらえたらと。小説とか漫画とかは、同じような熱量というか、自分の想い、考え方というものをこのアルバムを創ったときの考え方と変わらず燃えているもので作っているので、興味を持った方は覗いてみてもらえると面白いかもしれないですね。

(おわり)

 ※なお、「VOCALOID(ボーカロイド)」ならびに「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標。

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