じんとは何か、自問自答を続けた5年半 譲れなかった本心
INTERVIEW

じんとは何か、自問自答を続けた5年半 譲れなかった本心


記者:木村武雄

撮影:

掲載:18年11月07日

読了時間:約16分

嘘はつけない

――今作は5年6カ月となりますが、その間作品をリリースしなかった理由は?

 僕が初めてニコニコ動画にボーカロイドの楽曲を投稿したのが19歳の頃でした。それが『カゲロウプロジェクト』です。そこからの2、3年は、何作も公開して、2ndアルバム(『メカクシティレコーズ』、2013年5月発売)を創るところまで駆け抜けていったような感じでした。それは、音楽を一緒に作っていく事務所に恵まれたことも大きかったです。

 だけど、自分のものを創って生きていく過程で、人間は変わっていくもので、「もっとこういう風にものを創ってみたい」と思うようになっていきました。それは、これまで一緒に創っていった人たちとの音楽的な相性が合わなくなってきたことも意味していました。僕はこういうものが正しいと思っている、彼らパートナーや周りの方々は、僕とは違うものが正しいと。

 これは、どちらも間違っているものではなくて、お互いに思う「正しいもの」が違ってきたということでした。そうしたなかでも、周りからは「(楽曲を)創った方がいいんじゃない?」と言ってくださって、もちろん僕も創りたいという気持ちがありました。でも、そこで、そういうものに乗って創ったとしても、それは嘘になってしまうと思ったんです。

 そういうところは聴く人は敏感で、そんなに騙されないというか、迷いながら創ったもので心が動いたり感動したりすることはないんじゃないかな、と今も思っていいます。そういうものを創る意味ってあまりない、とそのときに強く感じました。

 ではまず、気持ちが良いものが創れて、手に取ってくださる方に胸を張って「これは最高に良いです」と言えるようになるまでは、自分の人間としての生き方や、ものを創っていいくうえで色んな人の考えを知ることなどを見つける時間にしないといけないと思いました。たけど、それがまさか5年6ヶ月も出さないとは思ってはいませんでしたが(笑)。

 5年6カ月ぶりになったカゲロウプロジェクトというものは、やっぱり特にそういう思いが強くて。聴いてくださるのは僕より若い方、子どもたちが聴いてくれているということもありました。だから、その子たちが純粋に聴いてくれる以上はやっぱり嘘はつけない。僕が「辛い」と思っているのに「楽しい!」みたいな曲を書くというのは僕にできなかった。その時々の気持ちや「これは創りたい」と思ったことを正直に創りたいんです。

 でも、この期間はアルバムは出していませんが、アニメの曲などを書かせて頂くこともありました。そのなかで数年前、正にある意味自分の中で変革が起きていた時期というか、自分の「これだけは譲れない」ということが固まってきて、更に言えば周りで一緒に「この人とやりたいな」という人と、自分の名前を冠した作品を作ってみたいと思える状況になって。

 大事にというか、ショートカットはしないできた5年6カ月。良いものが創れると思えたので、こうしてアルバムを作りました。

――自分自身の素直になった作品を創りたいということですが、「譲れないもの」という話もありました。その「譲れないもの」は具体的には?

 5年半のなかで変わっていく気持ちというのがありました。例えば、人気者になりたいと思うこともあれば、有識者に褒められたいとか。著名な音楽評論家の人に褒められたいとか、凄い数字が欲しいとか、そういうことを思っていた時期がありました。でも振り返れれば、その期間を自分に何に使ったかなと。とにかくそれでも変われないものというか、絶対に負けないものを一個だけ持っておこうと考えて。

 それに気づいたときに何かが変わったんですよね。それと、誰かに負けて悔しいという考えは昔、凄くあったんですけどそれも全部消えていって。残ったのは「後悔しないものを創ることを続けたい」みたいな。「嘘をつきたくない」とか。過去2枚のアルバムを好きだと言ってくれる人もいるんですけど、「これでいいんだろうか」という煮え切らいなかで創った側面もあって。それも良さだとは思うし、人が良いと言ってくれるのがやっぱり大事な世界だと思うんですけど…。

 「それが普通だから」とか、「それが音楽制作だから」というところに、どうしても…。これが続くんだったら僕は続けられないなと思ったんですよね。

 今は別に誰に負けたくないもないし、有名になりたいみたいなのもないし、褒められたいというのも全然なくて、単純に自分がエモーショナルだとか、間違いなく今あなたに伝えるべきだと思っているというようなものだけが、今はヴィヴィッド(生き生きとしたさま)に見えている気がして。だからアルバムが創れるなと思ったんですよね。

 今回収録している曲というのは、正にこれは君に対して言いたいというテーマがもの凄く。今回は3枚目のアルバムなんですけど、当たり前だけど僕は3枚目のアルバムを創るのが初めてなんです。これが正解かどうかはもちろんわからないんですけど。滅茶苦茶手応えはあって、もうちょっとアルバムに対しての考え方というのはギラギラしているなと。

 今2曲ほど公開させて頂いているんですけど、反応とかをみると、刺さってくれているなとか、そんな感じで、人との距離とか、人に対してものを打つことの自分の目標みたいなのはハッキリできて、それによってアルバムを創ろうと思えた、それが今のモチベーションだし、3枚目はそういうアルバムかなと思っています。

――2014年にアニメ化されたことによって振り返ることができたとも語っています。今のお話がそれに繋がっているんですね。

 正にそうだと思います。

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