じんとは何か、自問自答を続けた5年半 譲れなかった本心
INTERVIEW

じんとは何か、自問自答を続けた5年半 譲れなかった本心


記者:木村武雄

撮影:

掲載:18年11月07日

読了時間:約16分

新たな一歩を踏み出すきっかけとなった小説

――一度音楽は置いて小説に力を注ぐという方向に向かったと。それによって作詞の方でも変わってきたとのことですが。

 そのときは色んな試行実験というか。小説のときはアニメが終わったときに、自分がストーリーを書くということに対して周りから「お前は下手そうだ」と言われたんですけど、自分でも確かにそうだなと思ったんです。自分はストーリーを書けるんだろうかということは…。自分では頑張って書いているんだけど、人には届かなかったり。だったら人が「上手だね」と言うことって何だろうと思ったんです。

 でも、そもそも上手になりたい訳でもないなと。まず文章にまつわることが音楽よりも先に目について。だからそのアニメが終わった後とかは何となく自分の感覚を信じてフラフラしていた感じはあって。でもちゃんと悩んでいた感じはしていて。じゃあまず小説を書いてみようと。これは間違いなく自分の文章の表現として、自分にしかいない世界だから、これで人に何かを届けるということができたら、きっとそれは自分にとっての価値、何か絶対大きな発見になると思って。3年間くらいはずっと軸に小説があった感じかな…。

 色んな本を読んだり、色んな表現を見たりとか、小説を書くたびに色んな人に「泣きました」とか言ってもらえたりとか。逆に「文章が面白くない」とか「ストーリーは面白い」とか言われたり、もうカオスなんですよね。正解というのがなくて色んなことを考えるようになって。

 そこから去年末に公開した「失想ワアド」という曲があるんですけど、あれの歌詞を書こうと思ったときに、テーマの浮かび方が今までと違って、原石みたいにちゃんとフォーカスが合った状態でテーマが出てきたんです。歌詞によって「これを伝えたい」というもの凄い原動力みたいなのが曲を創る前にちゃんとあるという。そこから音楽、メロディも出てきたし歌詞を書く時も強い言葉を使えるようになったなと。はっきりと大きい声で言えるようになった歌詞が書けるようになった気がしたんです。なぜ小説か、と言われたらあまり計算尽くではなかったんですけど。

――小説によって創作への意識変化が起きたんですね。その小説を書くことによって歌詞の言葉数も減らせるようになったとも話していましたが。

 それは凄くありましたね。小説って滅茶苦茶文字量が多いんですよね。ト書きもあるし。漫画の原作とかもあるんですけど、それにはト書きがないので。セリフだけになってきますし。歌詞になるともはやセリフなのか情景描写なのか、更に抽象的になる、ぼやけるというのがあって。

 フォーカスのヴィヴィッドさですかね。ヴィヴィッドなものから淡いものになっていくのが歌詞かなと思うんですけど。かと言って歌詞は日本語なので、もの凄いヴィヴィッドなことが出てくる瞬間と、ぼやっとするというか切り分けたり、少ない言葉数でどっちかというと、理性的というか感情的にとか、感覚的に言葉を楽しんでもらったり自分が楽しんだり。それができるようになったかなと。

 反対に小説があったからかなと思うんです。自分なりに練り込んで、どうやったら物語が伝えられるかとか、仕掛けをどうしようとかやっていたことから、言葉を使って自由にメロディで歌っていいよという状況は、バネもありますし。色んな違う視界は確かに見えて。ちょうどその曲ができたかできる前かくらいで、手応えが生まれてきたときです。

――これまで出している小説ですが、ストーリーはもともと終わりが見えて書いているのですか?

 そうですね。「ここで終わりたいな」というシーンはあって。でも色んなパターンがあります。小説は小説で書いてみると想像以上にこうなったなとか。書いてみて初めて、その視点に立って物語を進めていく訳じゃないですか? プロットの段階ではこういう風にしようと思ったけど、「人間はこうは思わないな」とか。例えば仲が悪くなるシーンがあって、「こんなことを言われたくらいじゃ仲が悪くならないな」とか、そういう友情が書かれているのだったら、ちょっとストーリーを変えたりします。

 どっちかというと終わりや始まりよりもテーマが大事かなと思います。読んだ人に「このキャラクターをどう思ってもらいたい」とか「何について考えてほしい」かとか。サイン会とかやらせてもらうんですけど、僕の方に小さな子がやってくると「もっとこの子とお話がしたいな」とか思うんですけど、そんな立場でもないので、自分にできることとしては、伝えるべきことを、いわゆるテーマを、と思っているんですけど。そういうものの方がヴィヴィッドだという感じかなと思います。

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