村上虹郎・広瀬アリス・武正晴監督、奥山和由氏

 俳優の村上虹郎が主演を務める映画『銃』が1日、東京・六本木で開催中の『第31回東京国際映画祭』で公開され、舞台挨拶に村上と、共演の広瀬アリス、武正晴監督、プロデューサーの奥山和由氏が登壇。映画制作への経緯や、撮影のエピソードなどを振り返った。

 映画『銃』は芥川賞作家・中村文則氏のデビュー作を原作とし、『百円の恋』などを手がけた武正晴監督がメガホンをとり制作された実写化作品。ある雨の日に河原で偶然拳銃を拾った一人の大学生が、その銃の魅力に取りつかれ、狂気に染まっていくさまを描いたストーリー。

 銃を拾い、その運命に翻弄される大学生、西川トオル役を村上が演じる。またそのトオルと一時心を通わせるヒロイン・ヨシカワユウコ役を広瀬アリス、殺人事件の現場で消えた拳銃を追うなかトオルにたどり着き、つきまとう刑事役をリリー・フランキーが担当と、インパクト十分なキャストが集結。

 トオルの軽薄な友人・ケイスケ役に岡山天音、トオルとワンナイトラブの関係となる、通称“トースト女”役にモデル・女優の日南響子、さらに元モーニング娘。の新垣里沙と、個性的な若手陣の面子が脇を固める。

 また、本作は『第31回東京国際映画祭』で日本映画スプラッシュ部門に出品されている。

作品化を願ったプロデューサーの執念が呼んだ奇跡 村上の出演は「宿命だなと」

 「3年前の『東京国際映画祭』の時、レッドカーペットにて“奥山さ~ん!”と横柄なタメ口で声を掛けられたのが最初だった」と、村上との出会いを振り返る奥山氏。しかし「その時、この『銃』の主人公が、ここにいると思った。(この作品は)まさに『東京国際映画祭』のレッドカーペットで成立した企画です」と、村上自身の印象が余りにも強かったと振り返る。

 一方奥山氏はかつて『SCORE』『GONIN』など自身が手がけた映画で、武監督が「凄惨な現場を随分、チーフ助監督として支えてくださった。アクションジャンルでは、阿吽の呼吸」と共によく仕事をし信頼関係で結ばれていたことを振り返りつつ「『銃』については、いずれ武監督に相談しようと思っていた」と再び仕事を共にすることに期待を寄せていたことを回想する。

村上虹郎

 一方、映画のキャスティングがほぼ決まった際に、武監督のスケジュールを確認したところ、2年先まで予定がいっぱいだという返答。そんな中、奥山氏は「だけど『銃』の原作を取りに行ったときにも、“もう原作権は他で決まっている”といわれたけど取れたから、武さんだし、(武さんの仕事も)必ず飛ぶよ、って」と運の流れを確信。すると翌日武監督の作品が一つ飛び、監督はあわてて奥山に連絡し、この作品の監督を手がけることが決定したという。

 また村上は4年ほど前に出演した舞台で、共演者に「虹郎に合う本がある」と言われて本を購入、その本がまさに『銃』だったという。そしてオファーを受け「奥山から電話が来て。驚くを超えて、宿命だなと」と実感。こうした奥山の映像化したいという執念が縁をつなぎ、作品制作に導かれたことを振り返った。

 そんな作品に対して武監督は「特にこの映画が、日本人ではない外国の方がこの映画を見たときに、どのような感想を持っていただけるかが、一番お聞きしたい。銃社会ではないこの日本でおこなわれるこの『銃』と、銃社会という場所が世界にはいろいろありますが、そこで生きている方がどんな感想をもたれるのか? 是非この『東京国際映画祭』を出発して世界へと少しでもこの映画を広げていければ」と作品に込めた思いを語った。

朝ドラの出演出番がない間にオファーを受けた広瀬

 今回、広瀬がキャスティングされたきっかけは、武監督がかつて手がけた映画『百円の恋』で脚本を担当した、脚本家の足立紳がかつて執筆した本によるドラマ『佐知とマユ』(NHK:2015年放送)を、武監督自身も見ていたことがきっかけで「こんなことができるんだ、という引き出しの深い感じがあったので。今回はヒロインということで年齢的にもジャストだし、と思って」と狙いを定めていたことを振り返る。

 そして駄目もとで声を掛けてもらうよう依頼したところ、ちょうど広瀬はNHKの連続テレビ小説『わろてんか』の出演中だったものの広瀬は「全然出番がなくて…ちょうどその時期だったんです」と回想。こちらもいいタイミングでのオファーが実を結んだことを振り返る。

 対して、作風からすると広瀬にとってはチャレンジになったのでは? とたずねられると「でも私の役は、この作品の中で唯一の天使のようなもので…」とコメント。武監督も「そうですよね。この人が出てこなかったら、辛いですよね」などと続け、笑いを誘う。

広瀬アリス

 その広瀬は、村上とは現場ではそれほど喋ることもなく、なかなか交流を持つことが出きなかったため、先日映画の取材を二人で応じたときに「喋ることがないな、って。現場で何かエピソードありますか? とたずねられても、何も無さ過ぎてすごく困った。でも取材ですごく喋るので“あ、すごく喋る人なんだな”とその時思いまして…」と撮影後に苦労した思い出を振り返る。

 一方で役者としての村上の印象に関して広瀬は、近寄りがたい雰囲気を感じながら「会うたびに目つきが全然違っていた」と役者然とした姿に強い印象を感じていたことを振り返る。さらに武監督は、村上が撮影に使用していた廃屋のアパートの、セットの部屋の中に撮影中はずっと住み込み、完全に24時間、“西川トオル”となっていたことを振り返っていた。【取材・撮影=桂 伸也】

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