こぼれてしまう要素丁寧に、蓮沼執太フィル 個性の活きる音楽
INTERVIEW

こぼれてしまう要素丁寧に、蓮沼執太フィル 個性の活きる音楽


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年10月12日

読了時間:約13分

全部理解できなくても、理解しようとする事

──他に今作でチャレンジングだった点はありますか。

蓮沼執太フィル(撮影=後藤武浩)

 フィルはそもそもライブをするために集うことがベースになっています。今作はライブでやった事がない曲ような新曲も入っています。初見で「Anthropocene - intro」、「4O」、「off-site」、「Bridge Suites」などをレコーディングしたということは、チャレンジのひとつですね。それから、バンドがそもそも僕が電子音楽的に作った生演奏でライブパフォーマンスするというコンセプトだったのですが、その方向性を敢えて逆にした、シンセサイザーやリズムマシンをフィルのアンサンブルに取り入れたことも挑戦でした。

 自分の経験の中で、今までやってきた事がないからやってみようという気持ちは当然あります。同じ事をやっていると飽きてしまう落ち着きの無いタイプなので、「あれもいいかも?これもいいかも?」という試したい気持ちが根底にあるのかもしれません。

──時代の音楽を参照する事は全くありませんか?

 もちろん毎日色々な音楽を聴いているので新しいものから古いものまで耳に入ってきますよね。でも自分が把握できる範囲というのは、たかが知れていると思うんです。「どうして自分がその音楽をやるのか?」と自問した時に、他人の音楽や文脈を参照するよりも、自分の歴史ややっている音楽の水脈というか、必然性というか、制作する意味を探す方が作るよりも大切かもしれません。今の流行の音楽を「これ格好いいな」と言って表層的に取り入れるという事ではなくて、もし気に入ったのであれば、どうしてそういう風になったのか、なぜこの音楽家はそうしたのかというところを考える方が重要だと感じます。

──「4O」はユニークなタイトルですね。

 サビで「お、お、お、お」と4回言っている箇所があるんですよ。だから「4O」と付けたんです。結構歌詞の内容が暗いので、あまり直接的な意味をタイトルに付けたくなくて。なので「なんだこのタイトルは?」という見せ方をしているんです。

 歌詞って書いていると、どうしても歌謡曲の歌詞みたいに「降ってくる」みたいな想像をされると思うんです。でも、今回僕はそういう作り方をしていません。展覧会を作るためのコンセプトなどを散文的に書き出したものが歌詞になっているんです。だから、そもそも歌詞でもないのかもしれません。言葉みたいな感じ。でも、環ROYや木下さんたちは言葉と音楽を扱うプロなので、大きな刺激を受けています。抽象的な作り方から具象へ変換させる方法など、まだまだ奥が深いし、答えなき世界ですよね。

──他に思い入れのある楽曲はありますか。

 やっぱり「Meeting Place」をリユニオン時に最初に作ったというのは大きかったですね。そこでフィルのメンバーに約2年ぶりに会って、これは可能性があるなというのを再確認したんです。そこから今回の活動が始まっているという感覚がすごくあります。

 それから「TIME」に関しては詩人の山田亮太さんが作った歌詞に、木下美紗都さんの作曲なんですね。2012年のシアターピースの舞台『TIME』(神奈川芸術劇場・KAAT)の一節で使われた音楽です。この作品が自分にとって大切だったんですね。大切にしすぎて自分のソロアルバム『メロディーズ』にも入れちゃいました(笑)。山田さんの詩も木下さんのメロディや歌声も素晴らしい。僕は現代詩から影響も大きく受けていると思うんですが、こんなふうに今の世界を表せたらいいなと単純に思うんです。

──「Juxtaposition with Tokyo」のMVも公開していますね。

 今年の1月に草月ホールで『東京ジャクスタ | Juxtaposition with Tokyo』というイベントをおこないました。この曲は、その時に来場者の方にプレゼントする音源として作ったものなんです。その時はフィルのニューアルバム作ろう!と決めていたので、のちのちアルバムに収録されるだろうなと、は思っていました。この曲も1つの事をフィルのメンバーが一丸となってやるダイナミクスを使うのではなくて、メンバーの存在が音として響くように作った曲です。

 映像はホンマタカシさんにお願いしたのですが、全然やりとりしてないです(笑)。「MVお願いしたいんです」とホンマさんに話したら「世界中で掃除している映像を撮りためている」と言われて。それを観たらすごい良かったんです。Juxtapositionは並列的という意味なので「音楽のリズムと掃除をしているリズムが合ってないからこそ、並列として存在している」と解説してくれました。ホンマさんってキャリアも素晴らしいですけど、ギターも弾けるんですよ。音楽的な感覚や嗅覚を持っている方なので、その辺もすごい信頼しています。

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