無意識に時代と符合した、ものんくる 幾重の再読み込みの果てに
INTERVIEW

無意識に時代と符合した、ものんくる 幾重の再読み込みの果てに


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年10月01日

読了時間:約15分

角田隆太が左脳で吉田沙良が右脳

ものんくる

――tofubeatsさんもリミックスで参加されていますね。

角田隆太 前作をリリースした時にSNSでリアクションを頂いて。その後にライブを2人で観に行って挨拶したんです。そこで「何か一緒にやりたいんです」というお話をして、今回のコラボレーションに繋がりました。

 とてもナイスな方でしたね。今の時代の音楽というものを本当に真剣に考えてストイックに制作しているんだけど、それでいてユーモアを常に忘れない。そういう姿勢がいつも格好いいなと。そういう人だからこそ、今回の「RELOADING CITY」のテーマに合うと考えてお誘いしました。リミックスだからといって、おまけにはしたくなかったので最後の曲にはしていません。

――今作はセルフプロデュースですが、それについてはいかがですか。

角田隆太 ものんくるは沙良が右脳で、僕が左脳という感じなんです。だから、意見が全く食い違う時が今回もありましたね。決定的に考えていることが違う瞬間があって。そういう時にプロデューサーがいると「どう思いますか?」とアドバイスをもらえるんですよ。

吉田沙良 大体そういう時は角田さんの意見が採用されるんですよね。

角田隆太 前作はそうでした(笑)。今回は意見がぶつかった時に、歯止めが効かずぶつかりまくったという感じはあります。

吉田沙良 確かに今回はとことん(意見が)別れましたね。右脳だと自分でも思うくらい、「道はこれしかない。上からインスピレーションが来てるんだ」と周りが見えなくなるので自分でも止められないんです(笑)。

角田隆太 沙良の意見は実際に盤になって聴いてみると、正しかったと思うこともあるんです。だから、この2人のバランス感覚だからこそ作れるいいものがあると思えますね。

――なるほど。各楽曲もシンプルで、音楽的に凝縮された方向性になったと感じました。

角田隆太 それは、これまでプロデュースをして頂いた菊地成孔さんから学んだことでもあります。セルフプロデュースになったら、それを全部捨てるなんてことはありません。価値のあることをたくさん教えて頂きましたし、それを活かしたいなと思って作った面もあります。

吉田沙良 それから最近、自分たちのスタジオを作ったのも大きいかも知れないですね。

角田隆太 確かにそこで自由にリハーサルができる様になったのは大きかったですね。バンドメンバーもすぐ集まってくれるし。歌もベースもそこで録りました。思いついた時にすぐ制作できるのがメリットなんですが、逆に歯止めが効かない面もあります。

吉田沙良 真夜中に初めて朝が来たとか、今回はざらにありました。ただ自分のタイミングで「今録ろう」とか「休もう」と決められると良いテイクが残りやすい。「そこで歌いたかった歌」が今作には詰まっていると思います。

――音楽制作も思いついた時にできる時代になりましたよね。

角田隆太 PCとオーディオインターフェイスがあればどこでもできますからね。とある記事で読んだんですけど、独創性って独りの時じゃないと育まれないそうです。毎日社交の場にいると独創的なアートは生まれない。だから独りでこもる時間が必要だと。それを最近は身に染みて感じています。

吉田沙良 情報過多の時代だから、オリジナリティが育ちにくいというのはありますよね。

角田隆太 毎日人のライブに遊びに行ったり、リハーサルスタジオに行くのにも人のなかに入っていくじゃないですか。それから自分のスタジオにこもることで、かなり自分の時間を取ることができる様になりました。面白いアイディアを試せる機会も増えましたね。

――そう考えるとSNSも社交場と捉えられるかもしれません。

角田隆太 だから制作で行き詰って、でも作らければ行けない時は携帯のアプリ消してます。ツイッターとかインスタグラムとか。SNS絶対見ないように(笑)。無駄に時間取られるし、何となくタイムラインを更新して面白い記事とかを見てると多分合計で1日に2時間くらいとられると思うんですよ。その2時間で曲を作らないとっていう。

吉田沙良 角田さんは携帯の待ち受け画面がやることリストなんですよ(笑)。逆に私は基本的に内にこもっている人間なので、そういうことを意識したことがないかもしれません。むしろ社交性を養いたいと思っています。自分から外に出て人と会ったり、遊んだりすることがあまりないので。

 テレビとかもあるとずっと観ちゃうから、持ってないんですよ。「あげる」という人が現れたり、お店に見に行ったりするのですが最後の一歩が踏み出せないで買えないんです。それは自分の独創性のバランスが変わってしまうことを、無意識的に気にしているのかも。SNSも同じで許容量を超えたら見ないようにしているかもしれません。

――これからやりたいことなどあれば教えてください。

角田隆太 先ほどお話した様な無意識のセンサーは大事にしたいなと思います。「次の時代に向けてこうしよう」とか「次はこれが流行る」「海外ではこれが人気だから、次は日本でも」ということもあまり考えていません。それさえも無意識のセンサーに任せています。ただ作品を重ねるごとに音楽的なバイアスとかコンプレックスがどんどん無くなって、オープンな状態になっていけてると思うんですよ。今はとにかく「新しいものを作りたい」という気持ちです。

吉田沙良 もう次作を作りたいと思っていますよ。

角田隆太 あとはバランス感。ただアーティストっぽく内にこもっていても、無意識のアンテナが鈍ることもあります。自分の好きなものに偏りすぎても、時代から外れていってしまう。大事なのは、時代にフィットしつつも自分の作品として制作していくこと。そのバランスの取り方は一概には説明できないんです。その時によって変わるし、1度見つけた方法も維持することができなかったり。だから常に両方を考え続けなければいけないんですよ。

――今作で、そのバランス感で難しさを感じたことはありましたか。

角田隆太 少し話しは逸れますが、僕らはセルフマネージメントで活動していて。今も事務所に入っていません。これまで事務的なことを自分でやっていましたし、その傍ら制作もしていました。前作は制作まで3年あったので、いいバランスで進められたんです。ただ、今回は完全に崩壊しました(笑)。制作期間は3カ月でしたし。だから自分がアーティスト的な内にこもる自分みたいになると、事務的な外方向にいけなくなってしまったんです。そのバランスが取れなくなりましたね。

吉田沙良 ただ手伝ってくれる人がたくさん現れて、今はとてもよい形でチームが動いています。とにかく角田さんが制作をしている時はあまり刺激をしない様に、事務連絡も私が全てやりとりをしたり(笑)。とにかく3カ月というスピード感は初めてで大変でした。

角田隆太 その結果、自分たちの想いが全ての箇所に詰め込まれているというものじゃなくなったんです。だから割と風通しのいいアルバムになったんじゃないかとも思います。

――そしてリリースツアー『RELOADING CITY release tour』も始まりますね。

角田隆太 今回は結構西の方まで行く予定になっています。ファイナルは恵比寿リキッドルーム。過去最大規模の場所でやります。コーラスもストリングスも入った豪華な編成でお届けする予定です。

吉田沙良 曲数は一番多いですね。

角田隆太 今までの楽曲も少しアレンジを変えています。ライブでも生音と打ち込みの音を上手く混ぜられればと思っていて。僕もサンプラーやシンセベースを多用しています。最近はエレキベースを持っていかない現場もあるくらいなんですよ(笑)。なので、ただのバンドサウンドじゃない、面白いサウンドになっていくんじゃないでしょうか。

吉田沙良 東京では2月以来のワンマンですし。私がコラボしたブランドの服も物販に置かれる予定です。

角田隆太 年々ワンマンの数も少なくなっているので、どっさり見れるのはここだけです。是非遊びに来てください。

(おわり)

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