無意識に時代と符合した、ものんくる 幾重の再読み込みの果てに
INTERVIEW

無意識に時代と符合した、ものんくる 幾重の再読み込みの果てに


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年10月01日

読了時間:約15分

 男女2人組ユニット・ものんくるが9月5日、新作『RELOADING CITY』をリリースした。前作『世界はここにしかないって上手に言って』から約1年ぶりとなる4thアルバム。2013年にジャズの文脈からデビューした彼らだが、もはやジャンルを感じさせることはなく、2018年のポップスとして完成されている。収録曲には、2020年の東京五輪を見据える渋谷の街から着想を得たという表題曲「RELOADING CITY」、さらにポルノグラフィティの「アポロ」の大胆なカバーも。今回は「無意識的なセンサーが時代と符合した」と話す今作の制作背景などについて、角田隆太と吉田沙良に話を聞いた。【取材・撮影=小池直也】

変化に着いて行けない人の為の音楽

――1年2カ月ぶりのリリースは割と早いペースではありませんか。

角田隆太 前作『世界はここにしかないって上手に言って』は3年待ってからのリリースでしたからね。それに比べたら早いペースです。前作のインタビューの最後でお話した「ギターロック」という構想とは結果的に全く違うものになりましたけどね(笑)。ギターも全曲入っているし、「夕立」もギターメインの曲ではありますけど、やはり作り出すと全然違うものになっていきました。

吉田沙良 今作は「RELOADING CITY」という曲がまず最初にあってスタートしました。その曲を聴いてくれた、今のレーベル担当の方が「この曲をメインにアルバムを作ろう」と言ってくださって。この曲を起点に全体が徐々に出来上がっていった感じです。

角田隆太 全体的にタイトルのイメージを何となく散りばめた曲が収録されているんじゃないかなと思います。

吉田沙良 「RELOADING CITY」という楽曲自体は2月のブルーノート公演でもう発表していたんですよ。

角田隆太 トラックから先に作っていきました。もともと完璧にPC(パソコン)の打ち込みで作った曲だったのですが、ものんくるらしく生演奏を混ぜたいなと。最終的に生演奏の比重が強い楽曲になりました。

――確かに前作とはサウンドの質感が違うなと感じました。

角田隆太 前作は空間をたっぷり使っていたんです。奥行きのあるアルバムだったのですが、今回は割と「音が近い」ものになったなと。前作はPCで作った音を作品に入れること自体が初めてで、若干の躊躇もありましたから。

吉田沙良 前作まではデモで打ち込んだ音は生楽器に置き換えて録音していました。なので打ち込みが採用された曲が少なかったですね。でも、今作は割とPCで作った部分もそのまま使っています。だから録音で入り込む空気の量も違うんだと思います。

角田隆太 よりベッドルームミュージックぽくなりましたね。

――「RELOADING CITY」という言葉はどこから?

角田隆太 着想を得たのは、東京五輪に向けて再開発されている渋谷の街です。クレーン車とか、その空を見ていて思い浮かんだんです。前作の流れもあるんですが「醒めたまま夢を見る」というのが、ものんくるの最近のテーマでもあって。ポジティブもネガティブも両方ある様な。街はどんどんリローディング(更新、再読み込み)されていくんだけど、人間の体をアップデートすることはできない。基本的に人間は器に縛られていて、すぐには変われないし、付いていけない。特に都会にいるとそのスピード感に追いつけないと感じる人もたくさんいると思うんです。

 『RELOADING CITY』はそういう人に重なるアルバムなのかもしれません。都会で生きていると自分を肯定できない局面が多いと思うんです。例えば「この人はこういう風に出来ているけど、自分はできてない」とか。特にSNSを使うと強く感じますよね。インスタ映えなんかもそうですけど「この人はこんな風に夏休みを謳歌しているのに、俺は毎日コンビニ飯を食べてるだけだ」とか。

 人生には輝かしい時もあれば、灰色に見える瞬間もある。その光が当たってない瞬間に向けて作ったとも言えるのかも。アポロの歌詞じゃないですけど、「愛する」ということはこの街がジャングルだった頃から変わらない。人間の根底の部分は変わらないから、そのことを忘れないでほしいという意味もあるかもしれません。

切羽詰まった中で起きたマジック

――今年は安室奈美恵さんの引退や、さくらももこさんの逝去など象徴的な出来事がたくさんありましたが、時代的にリロードが必要だと感じたのでしょうか。

角田隆太 それは常にそうなんだと思います。

吉田沙良 平成が終わるからとかは関係ないですね。

角田隆太 それは日本だけの話ですから。でも時代的な区切りに自分たちがこの作品をリリースしたということへのシンクロニシティはあったなと。そういう符号は大事にしたいし、無意識的に何かを感じ取って作品に結びついたんじゃないですか。

――個人的に「HOT CV」の歌の質感に、2018年夏の酷暑を連想しました。

吉田沙良 もともと角田さんのインストバンドの曲なんです。

角田隆太 そうそう。6月に行われた『TOKYO LAB』というイベントで書き下ろした曲で。

吉田沙良 ただアルバムに収録するか、しないかで悩んでいました。でも「あと2日後にマスタリングなのに、あと1曲できてない」という状況になったんですよ。角田さんは忙しさで機能停止してて(笑)。だから私がこもって、角田さんの書いた詞や私の昔書いた文章を英語にしたものを組み合わせて。それを家で適当に録ったものが採用になったんです。これは全部打ち込みで生楽器は入っていません。だから1番新しい感じですね。ものんくる感がないというか。

角田隆太 推したい曲ですね。僕がトラックと日本語の詞を作りましたが、他人にメロディを付けてもらうのが初めてで。他人が書いた詞で作曲するとか、誰かの曲に詞を付けるという作業はしたことがあるけど、こんなに面白いものなのかと。言葉が新鮮に響いて。ものんくる的には逆転の発想というか。

吉田沙良 切羽詰まった中で、マジックが起きましたね。同じ様なものを作りたいけど、またできるかどうかは正直わかりません。死にそうにならないとできないから(笑)。

――そういえば、ジャズピアニストの桑原あいさんがインタビューで「吉田沙良はレコーディングでやり直しをしない潔さが格好いい」と褒めていました。

吉田沙良 そうだったっけ(笑)。あいちゃんこそ「全テイク最高だね!」というスタンスで、自分の作品って耳が細かくなりがちなのに「3テイクどれも好き」って言えるのがすごいなと感じましたよ。

――吉田さんは客演以外にミュージカルへの挑戦もされていますね。

吉田沙良 直接的に「ここでこれを学んで、それをものんくるに活かそう」みたいなことは考えていないんですよ。結局自立みたいな、人間として成長するという意味では何かしらの影響はあるのかもしれないですけどね。基本的に家でゴロゴロしていたい人なので。「家にいていいよ」と言われれば、いつまでもいますから。活動の機会を周りから与えてもらえることが、すごく嬉しいです。前から「ものんくるってミュージカルみたいだね」と言われていて、それもあってやろうと思えたんです。自分の気付いていない可能性を見出してもらえるのはありがたいです。

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