ロックバンドのLACCO TOWERが7月15日・16日、東京・恵比寿LIQUIDROOMでワンマンライブイベント『LACCO TOWER結成16周年特別企画「黒白歌合戦(こくはくうたがっせん)」』をおこなった。15日は『「第4回黒白歌合戦」~白の日~』、16日は『「第5回黒白歌合戦」~黒の日~』と、今年は2Days開催となり大きくパワーアップし、濃密な構成を披露して観衆を魅了した。また、今回はライブ前に敢えて演目(演奏する楽曲)を、一部を除いて公開するなど、“記念ライブ”とも違う、このイベントに向けた様々な思惑や意気込みなども感じられる点が様々に見られた。今回は16日の「黒の日」の模様をレポートする。【取材=桂 伸也】

まるで当然のように“トチ狂う”人々

 昨年は15周年という節目でおこなわれたこのイベントだが、敢えて今年も「16周年」と続けたのは、バンドとしての軌跡を明確に刻んでいきたいという思いもあるのだろう。そこには単にがむしゃらに走り抜けていくより、自分たちが何をすべきかを常に意識しようとする意向も感じられる。

LACCO TOWER (撮影=Masanori Fujikawa)

 ステージは、開始を予定されていた18時きっかりにスタートした。こう改めて書くと不思議にも思えるが、まさしく時間通り。実は昨年おこなわれた「黒白歌合戦」も見ていたのだが、あの際にも時間はピッタリ開演時間に会場が暗転、ステージのスタートが示されていた。まさしく彼らのプロ意識が感じられる、そんな瞬間だった。薄暗い会場に飛び交う照明、やがて大きな光がステージのバックドロップに浮かび上がる「LACCO TOWER」の文字を照らす。いよいよ5人の登場だ。ステージに現れる重田雅俊(Dr)、塩崎啓示(Ba)、細川大介(Gt)、真一ジェット(Key)、そして松川ケイスケ(Vo)。

 真っ黒なジャケットにパンツ姿という、シックな姿で5人はステージに現れた。登場からいの一番に松川は、お立ち台に上がり両腕を大きく広げる。その姿に観衆は“大声を上げざるを得ない”とでも言わんばかりに大きな歓声と拍手を上げ、待ち構えていた時の到来に嬉しそうな表情を見せていた。「皆さま、トチ狂う準備はできておりますでしょうか!?」強い口調で、しかし妖しくも見えた松川の声に、観衆はさらに大きな反応を示しオープニングナンバーの「罪ノ罰」で荒々しいノリを全身で受け止めていた。

 文字通り“トチ狂う”ように、ライブを楽しむ観衆。大きく腕を振り上げ、リズムに合わせて揺らす。その様はまるで大きな嵐に揺れる人の森のよう。どちらかというとキャッチーなナンバーによる“白の日”に比べると、やはり“黒”は荒々しさ、激しさ、そして時に“不安”すら感じられる妖しげな空気を感じる。この“不安”すら、彼らのプレイにとっては曲のスパイスになり得る。不安の源泉となるのは、松川が詞の中に描いた、人の心の奥底をのぞいたような景色。そこには時に闇すら感じられることもあるが、それがライブで皆の心に打ち込まれることで、単なる不安や絶望といったイメージとはまた違う印象をもたらしていく。

 さらに「奇妙奇天烈摩訶不思議」で疾走感は止まらない。重田と塩崎の生み出す強靭なグルーヴに、まさしく“トチ狂った”印象を植え付ける真一ジェットと細川。そしてLACCO TOWERの世界観を決定付ける松川の歌。何処にも留まるところはないようにも見えるその盛り上がりと観衆の興奮は、真一ジェットの「開幕!」という開会宣言でさらに高まっていく。

 続いてマーチリズムのようなAメロの「純情狂騒曲」、疾走感抜群の「仮面」と、どれもサビに絶頂感を伴うキラーな、ある意味危険を伴う楽曲ばかり。そんな中でも松川は「ちょいと皆さん、元気が足らないんじゃないでしょうか?」などと観衆を煽り、目の覚めるような勢いの「蛹」をお見舞いする。

新たなチャレンジを見せたステージ

 中盤は、この日のセットでは珍しい「世界分之一人」、切なさも際立ったメロウな「橙」と、ワンテンポ変わった雰囲気を入れたナンバーを続ける。この日、本編では15曲を披露しているが、昨年おこなわれたイベントの「黒の部」と同じ楽曲は「蛹」「橙」「罪ノ罰」「苺」「怪人一面相」の5曲のみ。アルバムのリリースツアーがメインとなる近年のロックバンドの、新曲をメインとしたセットの組み方からすると異質にも考えられるが、ある意味ライブバンドとしては、これも一つの方向性としては無視できないものかもしれない。“黒”と“白”というテーマに従ったそれぞれの世界観に従ったライブステージ。彼らが作り上げてきたそれぞれの楽曲に対する思いの強さも、改めて感じられるところであろう。

ライブの模様(撮影=Masanori Fujikawa)

 途中、LACCO TOWERのステージではおなじみの、真一ジェットによる短いコーナーで和やかな笑いを誘うひと時も設けられながら、その次の瞬間には、それまでの何倍もの盛り上がりを見せてくる。そんなスキルも、LACCO TOWERが16年の歳月を掛けて育んできたものの一つといえるだろう。そしてステージはまさしくあっという間にラストの「林檎」まで、そして8月にリリースされるニューアルバムの楽曲「狂喜乱舞」を挟みラストナンバー「火花」まで、駆け抜けるように過ぎ去っていった。「もうすっからかん、何にも残ってへんわ! ありがとう! こんな5人ですけど、17年目も愛してやってください!」全力投球したバンドを代表し、松川がそう礼の言葉を継げ、この日のステージに幕を下ろした。

 この日のステージには、“16周年”という言葉も刻み込まれていたが、それは単に経験をしみじみと感じるものというよりは、むしろ彼らがさらに活動を続け、躍進していくという意思の現われのようにも見えた。確実に積み上げていた自分たちの姿を、この日披露したステージの形で披露し、その軌跡を確かめるかのように大きな盛り上がりを作っていく。単に長いキャリアを築いたバンドは、他にも沢山ある。だが、このイベントで見せた彼らの姿は、そのなかでも独自の走り方であり、まるで誰も見たことのない場所に向けた挑戦のようでもある。その場所を、是非とも見てみたいものだ。

(※塩崎啓示の“崎”の字は、正しくは山へんに立、可の異字体)

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