今年10月25日にレコードデビュー45周年を迎える、さだまさし。現在、それを記念したツアー『45周年記念コンサート Reborn~生まれたてのさだまさし~』の真っ只中にいる。その東京公演が7月6日に、東京国際フォーラム ホールAで開かれ、ニューアルバム『Reborn ~生まれたてのさだまさし~』を中心に、本編15曲を歌った。この日は、東京・原宿のAREA-Qにコラボカフェ『まさし茶屋』もオープン。7月29日までの期間限定で、さだまさしのこれまでの軌跡を振り返るパネルや愛用ギターの展示、楽曲にちなんだ料理などが提供される。MusicVoiceではそのカフェ、そして東京公演を取材した。【取材=木村陽仁】

まさし茶屋

 本編15曲と同じぐらいの量のMCが繰り広げられた東京公演。噺家のような滑らかなトーク運びで笑いを誘った後に届けられるバラード等の楽曲は観客の心を潤した。家に帰れば人の親だが、この日だけは青春期に帰り無邪気に笑い、心を躍らせ、涙した。東京公演は、トークをもって楽曲の世界観を引き立たせ、バックバンドの美しいサウンドとさだの心に染み入る歌声をもってそれを鮮明に映し出す。観客は無意識のうちに自身に重ね聴き浸っていた。

カウンター

 感動の渦に包まれた東京公演。その開演前の昼頃、会場から西に約7キロ離れた、原宿・AREA-Qに、コラボカフェ『まさし茶屋』がオープンした。45周年の記念企画だが、長らく支えてきたファンが集える場所を設けたいという感謝の意も込められている。オープンに先立ち、さだまさしは以下のメッセージを寄せている。

 「皆様に色々楽しんでいただけるように考えられております。僕も遊びに行きたいな、とも思っています。ご来店いただきましたら、アルバムを聞いてもらいながら、お茶屋さんとして楽しんでいただけると嬉しいです。『まさし茶屋』、わずか3週間しかやりませんので、ここは通い詰めていただきましょうか(笑)。是非、何回も足を運んでください」

 さだまさしも「遊びに行きたい」というコラボカフェには、レアなアイテムが展示されている。受付を済ませ、通路を抜けると左手にはさだ直筆の書が展示されている。その先には、1978年と現在のさだまさしの等身大パネル。更に、その先には本人使用機と同仕様のアコースティックギターが展示されている。

記念モデル

 このアコースティックギターは、45周年を記念して製作された記念モデルで、ギターネックのフラットが桜柄の「Terry’s Terry TJ-100 MS Sakura 45th Anniversary」(販売価格230万円)と、紅葉柄の「Terry’s Terry TJ-100 MS Momiji 45th Anniversary」(同230万円)、そして「T’sT Premium Terry PTJ-100 MS 45th Anniversary」(同60万円)の3種類がある。このうち展示されているのは最初に挙げた桜柄だ。

 さらに進むと、デジタルサイネージを使用した限定記念撮影スポット、書籍コーナーがある。限定記念撮影スポットは、ニューアルバム『Reborn ~生まれたてのさだまさし~』のジャケットワーク仕様のもの。書籍には『噺歌集』や『さだまさしのセイヤング』などの貴重な本などが並べてある。茶屋右手奥には、グレープ時代から現在までの貴重な写真やヒストリーボードなども展示されており、さだまさしの軌跡を振り返ることが出来る。

 壁面には大画面モニターも設置されており、同アルバム収録曲や歴代PV、最新のコンサート映像、さだまさしからのメッセージ映像が上映される。

 気になるのは、“さだ楽曲”をイメージしたドリンク・フードの数々だ。さだの曲名を冠したドリンクメニューは楽曲の世界観を彷彿とさせる鮮やかな色。スペシャルフードも楽曲に登場する言葉をイメージしたユニーク且つ味にもこだわったものがラインアップしている。

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スペシャルドリンク

▽スペシャルドリンク

◎ハーブレモンティー「魔法のピンク」=同名曲の<まほうのぴんくにそめちゃおう>という歌詞をイメージした混ぜるとピンク色に変化する、ハーブレモンティー。

◎グレープフルーツティ「つゆのあとさき」=同名曲の<トパーズ色の風は>という歌詞をイメージした柑橘系が爽やかなアイスティー。

◎はちみつレモン「檸檬」=同名曲をイメージした甘くて飲みやすい微炭酸のドリンク。

◎ブルーベリーラムネ「主人公」=同名曲をイメージした混ぜるとセピア色に変わる、昔懐かしいラムネを使ったドリンク。

◎アブリコットピア「風の篝火」=同名曲の歌詞出てくるワード「篝火」「夕間暮れ」「ホタル」の色をイメージしたビアカクテル。※アルコール

◎ライチブルー「青の季節」=同名曲の歌詞に出てくるワード「シャガール」「ブルー」をイメージしたカクテル。※アルコール

◎ほうじ茶ラテ「風に立つライオン」=同名曲の歌詞にある<キリマンジャロの白い雪>をイメージした生クリームをトッピングしたラテ。

◎シナモンティー「パンプキン・パイとシナモン・ティー」=同名曲の歌詞<シナモンティーにバラの形の角砂糖二つ>からにあるバラの角砂糖付きシナモンティー。

パンプキンパイケーキ=

▽スペシャルフード

◎飛梅セット=「飛梅」の歌詞に出てくる、梅の焼き印の入った粒あんの梅ケ枝餅、抹茶のセット。

◎パンプキンパイケーキ=「パンプキン・パイとシナモン・ティー」にちなんだ、かぼちゃペーストを使用したパイケーキ。

◎長崎名物皿うどん=さだまさしの出身地・長崎にちなんだ皿うどん。

 ◇

 このうち記者は、楽曲「パンプキン・パイとシナモン・ティー」をイメージした「パンプキンパイケーキ」と「シナモンティー」を試食。パイケーキはかぼちゃの程よい甘みが口に広がり、何とも言えない幸福感に包まれる。添えてあるナッツや生クリーム付き菓子パイを時折、間に挟みながら、パイケーキをマーマレードに付けて食べてみる。今度は香り豊かな風味が口に広がる。

長崎名物皿うどん

 バラのカタチをした角砂糖が添えてあるシナモンティー。シナモンを使ってゆっくりかき混ぜるとほのかにその香りが漂う。口にゆっくりと含むと先ほどのパンプキンパイの甘みが喉元に流れていく。楽曲にある甘い恋心の物語と相まって、大人のほろ苦さが感じられた。味に風味、そして物語に、楽曲の世界観を立体的に体験できる面白いひと時を過ごした。

 さて、「さだまさし茶屋」。この日も多くのファンが詰めかけていた。その表情は笑顔だった。

 今回の企画について関係者は「45周年を迎えようとしているなかで、長い間支えて下さったファンの皆様に楽しんでもらいたいと企画したのが今回の茶屋です。新しい事よりもこの長い年月を振り返って頂き、楽しんでもらうことを主に考えました。普段はテレビで、あるいはライブで楽しんでいるファンの方々が互いに語り合い楽しんでもらう機会になればと思っています」と語った。

 接客をする店員も笑顔だ。

音楽にトークに、感情を開放

 楽曲の“風味”を味わったところで迎えた東京公演。同アルバムの収録曲を中心に届けられたが、これまでのヒット曲を届けながらも、そこには最新の音楽もあった。

ツアーのもよう(提供写真)

 ピアノ・倉田信雄、ギター・田代耕一郎、ベース・平石カツミ、パーカッション・木村誠、オーボエ・庄司知史、ヴァイオリン・藤堂昌彦、チェロ・徳澤青弦によるバックバンド、通称「さだ工務店」プラス、45周年ツアーのためにエレキギター・原ゆうまとドラムス・島村英二を迎えて重厚さを増したバンドが奏でる美しきサウンドのなかで、さだまさしは時折、指揮者の役に就いたり、アコギやヴァイオリンを奏でる。楽曲の情景が旋律上に浮かび上がるようだ。

 そして、トーク、15曲分はあったであろうMC。噺家のような流ちょうな語り口で場内は何度も大きな笑いが起きていた。しかし、そのMCに次ぐバラード曲は、その人その人の人生に重なりどこか哀愁があった。自然と涙がこぼしていた観客も多かった。笑い声に満ちたトークは実はその後に続く楽曲を際立たせる呼び水であることに気付く。そして、笑い声からすすり泣きにエスコートするのは、イントロのヴァイオリンやピアノ、ギターなどの楽器隊であり、それ迎えるのはさだまさしの歌声だった。

 若手ミュージシャンからも慕われ、さだまさしチルドレンと自称する人も多い。さだまさしはこのライブで「俺の知っていることは全て話したい。前の世代からちゃんと受け継いだものを渡す。これが僕らの責任」とも語っていた。そして、時の移ろいを、上京後葛飾区に下宿していた当時の思い出を明かしながらこう述べていた。

 「朝になるとあさりの売り声が聞こえてきた。『あさり~しじみ』と。その声にグッときました。昔は、生活音は雑音ではなかった。石焼いもも今ではテープ(を流すこと)が多い。昔は自分で言っていたからね」

 45周年を迎えてもなお新しい音楽に挑み続けているさだまさしに普遍的なものがあるならば、飽くなき探求心もその一つにあるだろう。そして、もう一つ、楽曲に宿す人の温もりも“不変”と言える。「パンプキン・パイとシナモン・ティー」を食した時に口に広がった柔らかい甘み。このライブを聞いて心に染みわたった温もり。この茶屋とライブを通して肌で感じたものだ。

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