4人組ロックバンドのKANA-BOONが5月30日、東京・台場のZepp Tokyoで、対バンツアー『KANA-BOONのGO!GO!5周年!シーズン2 東名阪対バンツアー「Let’s go TAI-BAAN!!」』の東京公演を開催した。ミニアルバム『アスター』のリリース日であり、ツアーの初日となったこの日の対バン相手は、KANA-BOONのデビューのきっかけを作ったASIAN KUNG-FU GENERATION。KANA-BOONの谷口鮪(Vo&G)は「長年の夢が叶った」と語り、5周年という区切りのスペシャルな共演に達成感をにじませた。【取材=榑林史章】

懐かしのナンバーに鮪も爆泣き

 まず登場したアジカン。SEもなくメンバーが登場しておもむろに楽器を構え、静かなムードで1曲目の「サイレン」をスタートさせた。ゆったりとしたサウンドが醸し出す世界観にグイグイと引き込まれて、気づけば自然と揺れている体。チカチカと瞬くライティングが、トリップ感をよりいっそう引き立てた。続けてスケールの大きなサウンドの「Re:Re:」では、イントロのギターリフが延々と繰り返される。観客は、その音にただ心酔するようにステージに手を伸ばしながら波打った。カッカッカッと、ドラムスティックのカウントで始まった「リライト」。イントロのギターが鳴り響くと、ドワッ!といった感じで歓声が沸く。観客はビートやギターに合わせてクラップし、<消してリライトして>というサビでは会場が一体となっての大合唱が巻き起こった。

ASIAN KUNG-FU GENERATION(撮影=山川哲矢)

 「新しい曲を聴いてください」と、3月にリリースしたベスト盤に収録された、約1年ぶりの新曲「生者のマーチ」も演奏。ミディアムテンポのバンドサウンドで、切なさとどことない温かさが溢れるナンバー。生きることや日常の尊さを歌った大きなラブソングで、エモーショナルに響くサビメロに合わせて、観客はゆっくりと手を揺らして世界観に浸った。会場がさらに一体感を増したのは、「エントランス」だ。2003年の発表から、15年かけて少しずつ変化を遂げてきた楽曲の一つ。心躍るような楽しげなバンドサウンドの中で、サビでは後藤がピンスポットを浴びながら歌う場面もあり、観客は手をユラユラとさせながら声を合わせて歌った。

 「今日はすっかり立場も逆転してね、でもすごくうれしいです。同じレーベルなんですけど、KANA-BOONが売れたお金で僕らは細々とアルバムを作ってます」と、大きく育った後輩の存在について、ユーモアを交えながら嬉しそうに話した後藤。「鮪くんっていつもメガネしてた? 今日ずっとかけてて、俺のコスプレしてるのかな? って(笑)」という楽屋エピソードも披露して、会場には笑いもこぼれた。

 「いいね、音楽は。世代を超えるというか。自分たちが好きで作った曲をコピーしてくれたり、それがきっかけでギターを始めてくれたり…でも嬉しさ半分、傷つき半分でもあって。『中学の時に聴いてました』とか言われると、ちょっとね」と、自分たちのキャリアがそこまで達していることについて、どこか感慨深げに語る場面もあった。

 「リライト」や「Re:Re:」など古くから人気のナンバーもあれば、各時代を代表する楽曲、そして最新の曲まで。9曲と短かったものの、アジカンの歴史を感じさせるセットリストで、裏で観ていたKANA-BOONもきっと歓喜したはずだ。

「ゴッチが褒めてくれた曲」も披露

 後半戦、KANA-BOONは、いきなり人気ナンバー「シルエット」でスタート。クラップが響く中で<いくぞ〜!>と、観客にさらにはっぱをかける谷口。サビでは会場が一つになっての大合唱になった。<KANA-BOONです。よろしく〜!>と挨拶もそこそこに、ノンストップのドラムが、アルバム『NAMiDA』の1曲目を飾る「ディストラクションビートミュージック」へと繋ぐ。アグレッシブなビートにソリッドなギターが絡み、サビでは観客が手を挙げてジャンプした。昨年のシングル「Fighter」では、アッパーのサウンドに乗せて会場がさらに沸き立った。谷口の<ギター!>のかけ声で、ギターが焦燥感をあおるようなソロを奏でると、<オオオ〜オオオ〜>と観客のコーラスがそれに続いた。

KANA-BOONのステージ(撮影=山川哲矢)

 この日にリリースしたミニアルバム『アスター』から、「アスター」と「彷徨う日々とファンファーレ」も披露した。「アスター」はどこかユーモアも感じさせるポップナンバー。ダダッダッというキメのフレーズは、どこか懐かしのディスコナンバー風。ダンサブルなビートとキャッチーなサビメロに、観客の表情はさらに笑顔になった。「彷徨う日々とファンファーレ」は、「胸キュンの作品に仕上がった」と、ミニアルバムの紹介と共に披露。MVでは出演者がダンスをするシーンも話題のポップな楽曲で、<ランララン>と歌うメロディに合わせて、会場にはパンパパンと手拍子が響く。つい口に出したくなるキャッチーなサビメロは、全員で一緒に歌って一つになった。

 また「ゴッチが褒めてくれた曲」と、「Wake up」を演奏した。日常的な風景を歌った歌詞から一転、力強いギターのカッティングやドコドコと鳴るドラムがスケールの大きな情景を魅せてくれる。ハイトーン気味のボーカルも心地よく、観客もグッと惹きつけられていた。

 さらに、3rdシングルでドライブ感満点の「フルドライブ」も演奏した。キレのあるギターと早口のボーカルが秀逸な、アッパービートのナンバー。「余力を残すなよ!」という谷口の声に、観客は手を挙げて体を揺らす。サビでは「声を聴かせてくれ!」との問いかけに、観客はクラップと共に渾身の大合唱で応えた。

 MCでは、「長年の夢が叶いました」と、実に嬉しそうに話した谷口。後藤の「俺のコスプレ」発言に対しても、「僕がゴッチのコスプレしてるって? 単に視力がゴッチなだけです!」と笑いで返し、すかさず「怒られるで!」と、飯田祐馬が茶々を入れる。そんなやりとりからも、気持ちがハイになっていることが伺えた。また「アジカンのファンって、初期が好きがちじゃん(笑)? だから「エントランス」では爆泣きした。でも最近のアジカンが、一番格好いいと思っていて。最新が一番格好いいって言うのは、僕らも見習わないとなって」と、生粋のアジカンファンであればこその発言も。

泣かず飛ばずだった時代もアジカンに励まされた

 そしてアンコールでは、「せっかくの共演で、俺もコスプレしていることだし、呼んでみましょう」と、後藤を招き入れる。後藤は「俺も魚っぽい芸名にすれば良かったな。鰯とか(笑)」と笑ってふざけ合う、両者の良好な関係に観ているこちらも嬉しくなった。

KANA-BOONのステージに後藤正文も登場(撮影=山川哲矢)

 そのアンコールでは、「俺たちが高校時代に一番コピーした曲をやります」と、後藤を交えてアジカンの「君という花」のカバーを披露した。まずは後藤がギターを弾きながら歌い、2番を谷口が歌う。コピーしまくっていただけあって、さすがの完コピ具合。間奏では後藤と谷口が向かい合ってギターを弾き、2人とも実に楽しそうに笑顔をほころばせていた。

 KANA-BOONは、高校の軽音楽部時代にアジカンのコピーをしていた経験があり、2012年にキューンミュージックが開催したオーディションで4000組からグランプリに選ばれ、アジカンのライブでオープニングアクトを務めて話題を集め、翌年にアルバム『DOPPEL』でメジャーデビューした。メンバー全員が憧れのバンドとしてアジカンの名前を挙げている。

 最後に「泣かず飛ばずだったライブハウス時代も、アジカンを聴いて励まされていた。昔の僕らが聞いたら、きっと腰を抜かすと思う。アジカンには、長く続けているバンドの持つ格好良さがある。僕らも長く続けたいです。まだ5年だけど。今日を支えにして、今日を糧にして頑張ります」と谷口。

 夢と憧れを現実に変えた両者の対バンは、KANA-BOONファンにとっても夢の共演。記念すべきこの日を見逃すまいと駆けつけた、会場を埋め尽くしたファン。音楽が繋いだ世代を超えた共演に、両バンドのファンも一つになって、この日限りのライブを楽しんだ。

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