上段:宮藤、渋川、東出、村上、若葉、下段:石井監督、永瀬、綾野、北川、浅野、国村、染谷

 綾野剛が主演を務める映画『パンク侍、斬られて候』が6月30日に公開初日を迎え、都内でおこなわれた舞台挨拶に、綾野と共演の浅野忠信が登場、強烈な印象を残した撮影の様子を振り返った。この日は共演の北川景子、永瀬正敏、東出昌大、染谷将太、國村隼、若葉竜也、村上淳、渋川清彦と、メガホンをとった石井岳龍監督に脚本を担当した宮藤官九郎が登壇した。

 映画『パンク侍、斬られて候』は、芥川賞作家の町田康による、江戸時代が舞台の人気小説を原作として実写化した映画作品。規格外の能力を持つ一方で、いいかげんな性格の侍・掛十之進が、自らがまいた種で起こる騒動に振り回されるさまを描く。主人公の掛十之進を綾野が演じる。また主題歌には、セックス・ピストルズの「アナーキー・イン・ザ・UK」を起用、さらにエンディングテーマとして感覚ピエロの「夜のスピード」が起用されている。

「主役じゃない」と、石井監督のオファーを一度断った浅野

綾野剛

 綾野は本作に対して「革命だと思ってますね。浅野さんもインタビューで答えられていましたが、虚構であること、前提であることを全部壊していけばいいということをおっしゃっていて。なかなか現実の世界ではできないことを、我々は映画を通して表現していますが、だからこそスクリーンからはみ出ることをしていけばいいということを、この作品を通して改めて結実したというか。本当に役者としてまた1回生まれ直したという感じがありますね。感謝しています」と新境地を見出した撮影を振り返る。

 一方「本当にカオス状態。わけがわからなくて」とハチャメチャな現場に悪戦苦闘したことも回想しながら「でも、みんな向かうベクトルのゴールは一緒で、どういう道に向かってそこのゴールにたどり着くのかは、いろいろあっていいと改めて思えました」と新たな発見があったことも明かす。

 そんな現場で、綾野が一番手こずった相手として挙げたのが、浅野。綾野は浅野の最初の登場シーンを振り返り「いきなりタックルされて。でも僕はセリフを言わなければいけないし、横で染谷が冷静にセリフを言っているし。それを石井監督はニコニコしながら『OK!』って。何がOKなのかって」とまさしくカオスな現場であったことを回想。

浅野忠信

 浅野の務める茶山半郎は、ある組織の極悪非道な元幹部で、二人の付き人(黒子)に自分の言葉を代弁させるという役柄だが、浅野は今回のオファーに関して、“主役じゃないと出ない”と、石井監督に対して一度断ったことを告白。

 「若い頃には結構、石井監督にはお世話になっていたので、絶対今度はまた主役で監督の作品に出るんだと、心に決めていたんです。そうしたら今回の役がきて、これはできないと監督に図々しく応えたら『ダメです』って言われて」とその経緯を語り、笑いを誘う一方で、「一応そう言われる可能性もあるかとじっくり(本を)読んでいて、それで“僕はこの役は、セリフは言うべきではないと思います”ということを伝えたんです」と茶山の“喋らない”という設定を提案していたことを明かした。

 その提案話を一度持ち帰りにし、宮藤と相談した上でその設定を決定したという石井監督は「結果的にすごくよかったよね」と振り返る。宮藤も「確かに喋らない方がいいなと思いました。(浅野さんはアドリブで)ベラベラ喋っていたけど」と同調、一方で綾野は「黒子二人の言葉って、浅野さんの役の言葉ですよね? と聞いたら『違う!』って言われて。本当に、ひっでえ現場だったな」などと回想し、会場は笑いが止まらない状態に。さらに「最高の現場だった」と撮影現場を振り返る渋川も「浅野さんとシーンをやったとき、自分はなんて普通の人なんだと思いました」と追い討ちを掛けていた。

綾野との対決は3回目の村上、現場での奇想天外なエピソード

北川景子

 そんな現場の中、原作にもある下ネタ技で、劇中で綾野とハチャメチャな対決を展開する村上は、その死闘の中で「僕も結構役に入りきったけど、“あの技”になりきったとき、綾野くんの股間がすごくいい匂いがして。“これ、役に集中できない”と思ったんです。夏を告げる石鹸のような。それで撮影を中断してもらいまして…」と、奇想天外なエピソードを告白、会場を沸かせる。

 一方、映画の劇中で綾野と対決シーンにて共演するのは、今回で3回目となる村上は、実の息子である俳優の村上虹郎が、先立って映画『武曲 MUKOKU』で綾野と共演した後に、綾野から「今回ちゃんとやったから、好きなギターを買ってやるよ」と言われたという話を聞いたことを明かしながら「僕は3回も戦っているのに、なぜ言われないのか?」などとコメント、笑いを誘っていた。

 また綾野は、ラストシーンでの北川の演技にも言及し「すっごい高笑いしてたもんね、俺は刺されながら聞いていて。ほんとに素晴らしい高笑いで、もう俺ダメだと。見たことなかったですね、あんな北川さんは」と驚きとも絶賛ともとれるコメント。北川は自身の務めた、茶山の身の回りの世話をする、ろんという役柄に対して「自分の信じた道にしか生きていない女性だと思うのと、すごく芯の強い女性だったので、そういう部分は似ているというか、非常に共感しました」とそのキャラクターに対する思いを語る。

 石井監督はそんな役者陣の表情を眺めつつ「映画を大事にしてくれている俳優さん、スタッフさんたちもそうですが、そんな方々が今回こんなに沢山出ていただいて、しかも映画の中のご本人たちとこんなにも違うんだというすごいところも出していただいて。(この方々は)毎回すごい役をやられていたりするけど、そういう方と一緒に映画作りをすることができた、こんな人たちと一緒にこんな面白い映画を作れたということに、感謝しています」と感慨深く語った。【取材・撮影=桂 伸也】

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