「今年は、顔ぶれが分からない面子が1位争いだな…」AKB48をよく知らないという知人が、ボソッとつぶやいた。

 第10回という節目の開催となった2018年の『AKB48選抜総選挙』。今年は開催地の公募をおこなう方式となり、場所はSKE48の本拠地である愛知県名古屋市のナゴヤドームが選ばれ、名古屋の街中はその雰囲気で盛り上がっていたようにも感じられた。とり分け栄の街中は、あちこちに諸々のグループのメンバーを擁した宣伝のポスターが貼られ、場所によっては立候補者の選挙ポスターを、まさしく選挙運動宜しく掲示されている場所も。折りしもロシアでのサッカー・ワールドカップが近づいていたこともあり、栄の街の夜は“サッカーか総選挙か?”とばかりににぎわっている。地下鉄の中刷り広告にも総選挙開催の告知が並び、世の注目もかなり大きいだろうと感じた矢先の、知人の反応である。

 今更ながら前田敦子、大島優子らを初めとした、先人の築き上げた金字塔、さらに指原莉乃3連覇、そこに果敢に挑んだ渡辺麻友という“怪物”の隆盛を大きなものと感じる。第十回の開催は、ある意味そんな“嵐”が去った後のイベントという印象も、人々は抱いたに違いない。同時に「国民的アイドル」といわれた48全グループの、現在の印象はまさに知人の言葉がそのままを象徴しているといってもいいだろう。

 しかし総選挙の中では、グループのメンバーの中にはそんな一大イベントでの賞賛の言葉に甘んじてばかりではない、状況をしっかり受け止めて新しい道を目指す、そんな意向を感じられる場面もあった。そんな中、新たなアイドルの姿を感じる場面もあった。

厳しい状況が取り巻く その今を実感する言葉

 今回第二位と大きく躍進したSKE48の須田亜香里は、その喜びと共にこんなコメントを残した。「メディアに出演させていただく中で、感じたこと、気づいたことがあります。それは世間の皆さんは、私達が思っている以上に、48グループに興味が無いということです」この言葉は、今現在の彼女らを見る世間の目を、スナップショット的に切り取った印象とも感じられる。今回地元開催ということもあり、さらにワンツーフィニッシュという快挙を成し遂げた一方で、彼女がこのように客観的な視点からのコメントを残したことには、大きな意味も感じられる。

 そしてトップに輝いた松井珠理奈は、その言葉に続けるように「まだ私達が戦わないといけないところ、ありますよね。私は本気で、48グループを1位にしないと気がすまない」というコメントをした。これは逆にかつて「国民的アイドル」と呼ばれた印象からの乖離を実感してのことか、あるいは自身の思い描く48グループの姿からかけ離れているというイメージなのか、いずれにせよ、AKB48グループの現在の姿に対し、今のままではいけないという思いのあらわれ、と捉えられる。

 今回神セブン入りを果たしたAKB48総監督の横山由衣は、コメントの際その余りの喜びにうずくまってしまう一面を見せた半面で「最近AKB48は勢いが無いといわれてしまうことがあって、先輩達が作ってくださったこのグループをそう思わせてしまうのが申し訳なくて、悔しい気持ちでいっぱいだった」とコメント。入賞の喜びの一方で、自身の重責への苦悩とも、今後の48グループの課題提起とも取れる発言を行っている。熾烈なトップ争いの狭間で、ランカーそれぞれの思いの中に、48グループの枠を超えた意思が垣間見られる。

厳しい現状に、果敢に立ち向かおうとする姿

 また今回100位以内に最も多くのメンバーをランクインさせたのはAKB48グループだった。しかしSKE48グループは松井を筆頭に、グループ内で名前を呼ばれたなら、誰でも抱きしめてやろうとばかりに大きな盛り上がりを見せており、HKT48グループにも同様の光景が見られたのに対し、AKB48グループのメンバーの発表では、どちらかというとドライな感じとも取れる様相。呼ばれるたびに一人、また一人と、淡々とステージ中央に向かう印象があった。全グループの中でも最も古くから存在していることからも、グループの中では中心にあるべきとも見えるAKB48グループだが、ある意味全グループが抱える厳しい状況を示しているようにも感じられた。参考に100位以内にランクインしたグループ毎のメンバー人数を示す。

 AKB48 30人
 SKE48 24人
 HKT48 19人
 NGT48 14人
 NMB48 9人
 BNK48 2人
 STU48 2人

(※STU48リーダー兼任の岡田奈々は、AKB48グループメンバーとして換算)

 しかしそんな中、5位にランクインした岡田奈々は「これからのAKB48を守っていくため、STU48を引っ張っていくため、自分に何ができるのか考えてきました。私にできることは今あるAKB人生を全力で生き抜くことです」と積極的なリード宣言。13位の向井地美音の「AKB48のためにと考えた時に新しい夢を見つけました。私はいつかAKB48の総監督になりたいです」という思いは、グループ内、スタッフやファンなども含め、皆頼もしさを感じたことだろう。グループ間の争いの中ではふるわなかったNMB48だが、グループ内最高位14位となった吉田朱里も「総選挙では毎年『NMB48は弱いね』と言われるのがすごく悔しいので、もっともっと戦えるグループにしたいと思っています」と巻き返しを積極に狙う。

 そしてSKE48グループの松井は「お互いが信じあえば、また48グループはアイドル界にトップになれます。なりたいんじゃダメなんですよ、なるんです」と、グループ内の関係を超えた目標を示唆している。「今こそ、メンバー一人ひとりが自分の個性を武器にして、個性を出していって、48グループの旗を掲げて戦っていく時だと思います。メンバー一人ひとり、自分の個性を出すことを恐れずに、弱いところを恐れずに頑張っていけたらいいなと」松井に続く須田もまた、自立した自身の思いを強く主張している。

 ふと感じられたことだが、これまでアイドルという存在は、どちらかというと“まさに今、そこにある場所”“用意された地位”を目指すものという決まりきった法則に縛られる傾向にあったようにも感じられる。過去の栄光には及ばない、そのジレンマを脱するには、48グループそのものという枠組みを壊していかなければいけない。そんな意思をメンバー自身が強く持ち、そして一歩を踏みしめようとしている。もしそれが本当に実現できたとしたら、また新たな景色も見えてくるかもしれない。それはまた新たなアイドル論が議論される可能性もあるのではないか、と痛快にも感じられる。ぜひその新たな景色を見てみたいものだと、願わずにはいられない次第である。【桂 伸也】

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