より自由に――、“タガ”を外した真逆の感情
INTERVIEW

THE ORAL CIGARETTES

THE ORAL CIGARETTES


記者:村上順一

撮影:

掲載:18年06月22日

読了時間:約16分

 4人組ロックバンドのTHE ORAL CIGARETTES(略=オーラル)が6月13日に、通算4枚目となる1年4カ月ぶりのフルアルバム『Kisses and Kills』をリリース。昨年は日本武道館、今年2月には大阪城ホールでワンマンライブを開催。年末にはアリーナツアーも控えていて、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いを見せる。そのなかでリリースされる今作はどのような作品になったのだろうか。鍵を握るのは「ReI」だ。メンバーが訪れた福島での光景を目の当たりにし「光を見失わないように」という思いで制作した曲。昨年のツアー『唇ワンマン2017 AUTUMN「Diver In the BLACK Tour 」』で発表された当時、情報は非公開。制作から無料配信という形でリリースされるまで2年間かけて温めてきた大事な曲だ。ただ、今作への収録に至っては「悩んだ」という。それはなぜだろうか。そして成長を遂げていくなかで変化している意識。前作『UNOFFICIAL』から今日に至るまでにどのような変化があったのか、話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

バランス感覚が変わった

山中拓也(撮影=冨田味我)

――『Kisses and Kills』を聴いてびっくりしました。4作目で音楽の振り幅が想像を超えてきたと言いますか、次元がまた一つ変わったという感覚があって。

山中拓也 聴き手に対してあまり気を遣わなくなりました。ファンのおかげでそういう状況にさせてもらっているというところも正直あるんですけど。もう好きにやっていいゾーンには入っていると思っていて。前作『UNOFFICIAL』では新しいスタンダードを提示して、オーラルってこういうのが根本にあるバンドなんだよということをそこで証明できたので。

 (※編注=17年02月14日既報「シーンから抜け出したい、THE ORAL CIGARETTES 未来繋ぐ“非公式”:インタビュー」http://www.musicvoice.jp/news/20170214058407/)

――人との出会いが変わってきたということを前回インタビューで話していました。

 (※編注=17年09月29日既報「成長させてくれる原動力 THE ORAL CIGARETTES 黒である意味:インタビュー」http://www.musicvoice.jp/news/20170929075629/)

山中拓也 そうです。去年1年間、色んなジャンルのクリエーターと付き合うことが多くて。そこで恥ずかしい作品を絶対出したくないというのが根本にあって。音楽というものに対して彼らにも認めてもらわないと意味ないなというのもありましたし。それを納得させられるようにするには、今まで「こうした方がいいかな?」とバランスをとっていた部分も考え直さないといけないんじゃないか、もうちょっとエゴでやっていいかもなと。

――前作『UNOFFICIAL』も私の中ではわりと自由にやっていた印象がありましたけど…。

山中拓也 自分のなかではバランスをとっていました。『UNOFFICIAL』はそのときのロックシーンのスタンダードというところではなかった気がします。ハイトーンボイスが多い中で僕らはミドルレンジで歌うとか。その後ろで鳴っているサウンドとのギャップとか。それはオーラルのバンドというところでの個性なだけであって、その個性を全面的に活かしたという作品が『UNOFFICIAL』だったなと。その中の楽曲の中で「ここはこうしたい」とか、そういうバランス感覚はかなりとっていて。今回に関してはライブがどうというより「より自由に」というところをテーマとして作っていったので、それが如実に出てきているのかなと。

――メンバーみんなの意識も変わった?

あきらかにあきら 変わりました。『UNOFFICIAL』のときのテーマは“歌心”だったり、僕達のメロディに懸ける想いとか、それに寄り添うアレンジという感じだったんですけど、今回はどっちかというと曲調より今まで僕らがやったことのないジャンルもやってみようというところから始まっていたので、それを自分が演奏すると思うと、今までやったことのない試みが多かったです。そういう意味でも新しいフィールドに拓也は行こうとしているなとデモの段階で感じましたから。

――チャレンジだらけになりそうだなと。鈴木さんもそういった感覚を受けた?

鈴木重伸 そうですね。受け取りもそうですし、僕自身も音源というものに対して今まではライブのことが頭をかすめていました。それがけっこう分離できていたなというのが自分もこのタイミングでわかって。音源だからできることってやっぱりあって、そこに対してそういう考え方で挑むとこれだけ違う形になるんだなと。

――鈴木さんはライブ大好き人間ですからね。それを分離できたのは新たな発見ですね。

鈴木重伸 そうなんです。後、送られてきたデモを聴いて純粋に楽しかったです。“タガを外しましょう”じゃなくて、外してもらって自由に楽しませてもらったなという感覚があって、そこに対して今までの自分らの公式に則るとかそういうのを考えずに、純粋に曲をみんなで制作している段階が凄く楽しかったです。

中西雅哉 前までは、刀を鞘から半分出して威嚇していた、みたいな感覚がありました。今回はスッと刀を全部出せた感覚の曲もあって、新しい音を出すというよりかは、今まであったものの中で、それを更に研ぎ澄ませて出すという部分も感じました。

――山中さんはSNSで「最近、音楽が凄く楽しくなってきた」ということを発信していましたが、そういう発言が出るということは、実は楽しくない時期も?

山中拓也 楽しくないというか、音楽に対して“なあなあ”になってしまう時が、これだけやっているとあるので…。何で音楽をやっているのか、音楽が何で好きなのかというところです。ライブはライブ、仕事は仕事、そこがごちゃごちゃになるときがけっこうありました。それが去年の年末くらいから「何でも良くない?」みたいなモードになって。

 よりもっと僕らが音楽というものを楽しんでいる姿を見せていることが、お客さんにとっては幸せなんじゃないかなというのを思いました。僕らが一番楽しんでいないとお客さんも楽しめないと思うし。フェスなどで頭一個抜けるということを考えたときに、今まで通りの自分達じゃ駄目で「肩の力抜こう」みたいな。

中西雅哉 年末にかけてライブやフェスをやっていく中で、ライブの中でも拓也のそういう発言が出始めていて。もっと自由にやろうぜ、みたいな。「何なら誰が今日一番楽しめるか」みたいなことをライブ前の円陣を組むときに言ったりとかしてました。

 今まで一番そういうところをシビアに考えていた拓也がそういう意識になったというのは、バンドとしての自信と、ファンに対しての信頼度が一番強いのかなと。今のタイミングはどう動くべきかと頭を使っていたのを、みんなそれを意識的に外して音楽の楽しさという本質の部分に戻ってみてもいいのかなという考えになったんです。

――今年1月に新木場STUDIO COASTでおこわれた『MASHROOM 2018』のときはみんなそういったモチベーションだった?

 (※編注=18年01月27日既報「オーラルやフレデリック、個性溢れるMASH A&R6組で魅せた新木場:レポート」http://www.musicvoice.jp/news/20180127085804/)

山中拓也 あのときはヤバかった(笑)。その考えの最たるものが出ていたライブでした。逆に2月の大阪城ホールは冷静というか意外と客観的に出来たライブだと思っていて。「ReI」という楽曲がデリケートなことを歌っているので、アンコールで「ReI」をやるタイミングまで自分の中では気を張っていた感じがあって、本編はほぼ覚えていないんです。でもやっているときはパフォーマンスもいつも通り安定しているし、「いけるいける」っていう記憶だけがあって。

――大阪城ホール公演を観覧しましたけど、確かに『MASHROOM』とはまた違ったベクトルのパフォーマンスではありましたね。

 (※編注=18年02月19日既報「THE ORAL CIGARETTES 「光を見失わないように」万感の大阪公演:レポート」http://www.musicvoice.jp/news/20180219087617/)

鈴木重伸(撮影=冨田味我)

山中拓也 そうなんです。凄い幸せだったのは覚えているんですけど、「ReI」に意識が行きすぎて。ライブ中にタガが外れておかしくなる瞬間みたいなのが本編中はなくて。自分らの強みってリミッターが外れたときの爆発力みたいなところをフェスで感じていたので、それがもう少し欲しかったなとその時は思ったんですけど。でも「ReI」に重きをおいて、そこで凄い感動をもらったし、「ReI」1曲だけでも充分すぎるくらいの力強さを感じたので、大阪城ホールでやりたかったこととしては達成できました。

――その「ReI」はメンバーで訪れた福島の光景がきっかけとなり生まれた曲なんですよね。流行りじゃなく、伝えたいメッセージは何なのかと自問自答し、長い年月をかけて作った曲だとお聞きしたんですが、ここまで温めた理由は?

山中拓也 楽曲というものを、野放しにすることが全ていいことではないなと思っていて、まず本当に僕らのことをわかってくれているファンから、この楽曲の意図を説明していくことが大事だと思いました。やっぱり「ReI」という楽曲は「一本通っている光を見失わないように、残されたもので未来へ繋げて欲しい」ということを歌っているので、直接歌わないとわからないなと思ったんです。

――「ReI」発表当時はライブでしかこの楽曲の意図を話さないなど、すごく閉鎖的でした。

あきらかにあきら 「ReI」の配信について今ここに来ているファン以外には伝えないで下さいというスタンスでした。

山中拓也 例えばSNSなどで発信して「こういう曲なんです」と発信しても絶対に勘違いが生まれると思ったので…。そうではなく、しっかりと自分の口から直接説明してこの曲をやることに意味があると思いました。

――確かに伝言ゲームのように各々の解釈で別の意味に変わっていってしまう可能性は否めませんよね。そのしっかりと楽曲の在り方や意図を伝えていく『ReIプロジェクト』に関しては山中さんから提案?

山中拓也 はい。まず「ReI」のデモを聴いたマネジャーが良い反応をしてくれて。すぐにでもリリースしようという話になったんですけど、僕はそういう思いで書いてなかったので…。曲をもっともっと温めないと伝わらないというのもあったし。じゃあ1年間かけて『ReI project』というプロジェクトを立ち上げてゆっくり伝えていきましょうと。

あきらかにあきら 色々と僕らも初めてのことが多かったし。無料ダウンロードが本当にいいのかとか。それに至るまでに、ライブハウスで目の前にいる人にMCと一緒に、想いと一緒に曲を届けて、その人達はストリーミングで聴けるとか、制限をかけて聴いてもらったり、まずはファンクラブから解禁したりと、何が正解かはわからなくて…。

――みなさんにとっては初めてのことですからね。

あきらかにあきら でもそれらをやったことで、曲に対する僕達が大事にしている想いは一人でも多くの人に届いたかなと思うし、無料ダウンロードを発表したときも今までの楽曲以上に反響があったので、メンバー以外にもそういう想いがしっかりと生まれていったのは自信にもなりました。音楽の力を信じられる、改めて音楽って凄いなと実感しました。

山中拓也 でも「ReI」はアルバムに入れるかどうか悩みました。『ReI project』で「ReI」を無料配信して、そこでアルバムに入れるということは結果お金が発生してしまうので、そこに「ReI」を入れるという矛盾はないのかと。でも、アルバムって僕らの今を詰めるものだから、「ReI」をそこから外すというのは一番ありえないことなんじゃないかなと考えが生まれて。それに対して賛否両論あると思いますけど、結果的に入れられて良かったと今思っています。

――アルバムはその時の活動の集大成のような感覚もありますからね。さて、「ReI」の綴りのeだけが小文字というのが意味深で気になったのですが、このタイトルにはどのような想いが?

山中拓也 零(レイ)という意味なんです。ゼロは何もないという意味だけど、零はわずかながらも残っているというところから零という文字になって。そのわずかでも残っている希望とか人の想いに当てはまるなと思いました。「零」という漢字は「雨」にお辞儀をして神様にお願いする様子の「令」という2つの漢字で構成されていて、それが天災などにも通じていると感じました。

 零という漢字を人の名前に入れる時って「ゼロではなく少しあるところから積み上げていって欲しい」という思いを込めたいときに入れることが多いみたいで、僕らの考えていることにぴったりだし「漢字で『零』にしよう」と思いました。でも、漢字の近寄りがたさみたいなものを感じてしまって…。英語でどの綴りにしようかというときに、シゲが「REIって“Re I”に見える」と言ってくれて。「私をもう一回奮起させる、繰り返すという意味の“Re I”」というのが凄くいいなと思って、最終的にこの綴りになりました。

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