松岡茉優「チャプター１が終わった」転機実感「10年がギュッと」

　女優の松岡茉優（23）と映画監督の是枝裕和監督（55）が２日、東京・新宿の早稲田大学でおこなわれたトークショーイベント『マスター・オブ・シネマ』に登場。このなかで松岡は、先日閉幕した『第71回カンヌ映画祭』のコンペティション部門で、最高賞パルムドールを受賞した映画『万引き家族』で新たな演技を手にすることができたと語るとともに、三谷幸喜監督と是枝監督作品に出演したことで「チャプター１が終わったと思いました」と大きな転機を迎えたことを明らかにした。

　映画『万引き家族』は、生計を立てるために家族ぐるみで万引きを重ねる、東京の下町に暮らす一家が、ある事件をきっかけに家族がバラバラとなるとともに、それぞれが抱えていた秘密と思いが明らかになっていく様を描いた。是枝監督がメガホンをとり、松岡も劇中の家族の中で、安藤サクラが演じる妻・信代の妹・亜紀役として出演している。

　松岡この日、イベントの終了間近にサプライズで登場。「是枝監督、パルムドールおめでとうございます！」と祝福するとともに、是枝監督とハグしてその喜びを分かち合った。昨年は、映画『勝手にふるえてろ』の主演でも大いに話題を呼んでいる松岡だが、両作それぞれでの演技設計を是枝監督から尋ねられると、まず「“不遇の子役時代”から“不遇の女子高校生時代”に、苦虫なんかを噛みまくっていたけど…」と自身の役者人生の中で、注目を浴びるまでの間の期間を振り返った。

　そして「芝居に対してのジンクスとか、“ここはこうしていくべきだ”という固い考えが、わたしの中にめぐっていたんですが、その最終形を現したのが『勝手にふるえてろ』の演技。でも『万引き家族』ではそれがOKが出なくて」と本作で壁にぶち当たったことを振り返りながら「ちょっとでも作為的な演技をしたら、OKを出してもらえなかったんです。だから全てジンクスも、経験もなかったことにして、私本体でその場にいた。するとOKが出たんです」と両作品で全く正反対のアプローチを試みていたことを回想した。

　そのうえで、本作撮影へのトライを改めて「私はずっとこれをやりたいあれをやりたいと思いながらも、現場に恵まれなかった間にずっと三谷幸喜さんと是枝監督の現場に入りたいという夢を持っていたんです。それが、去年の12月から３月まで夢見ていた10年がギュッとなって。その時に人生のチャプター１が終わったと思いました」と『万引き家族』に続き、三谷が手がけた今年３月の舞台公演『江戸は燃えているか』に出演したことで、一つの大きな転機を迎えた様子を振り返りながら『勝手にふるえてろ』で見せた演技と合わせて自身の可能性を感じた上で、現在自身の人生のチャプター２にいることを改めて語った。

　一方の是枝監督は本作制作のコンセプトについて「各世代の一番巧い役者を集める、というコンセプトで作った」とキャスティングのポリシーを振り返ると、松岡はマスコミ関係者に向けて「これは絶対書いておいてくださいよ！」と念押し、笑いを誘う。

　そして松岡と共演した安藤サクラ、樹木希林という松岡との共演者について「何をもって巧さを判断するか？　希林さん、安藤さんってそれこそ相当だと思う。自分だけだとうまい、という人は完全に見透かされるし、（共演者との）関係の中で巧さを見せる人じゃないと」とコメント、松岡もそれに共感する一方で「（樹木さんから）“あなたの顔は覚えにくいわね。明日会っても忘れているかもしれない”って言われまして」というエピソードを明かし、笑いを誘った。

　他方で、撮影がスタートする間際まで松岡はドラマ『コウノドリ』（TBS系）に出演、緊迫した病院のシーンなどの演技より、切り替えの気持ちが懸念される中でも「背中から感じられるにおいから、甘えられると思いましたし、人間の関係性というか、確実にそのにおいを感じたし、その瞬間に孫になりました」と大きな影響を受けた模様。

　また安藤についても、カンヌ国際映画祭で共にレッドカーペットを歩いたひと時を振り返りながら「誤解を恐れずに言うと、全女優にとって絶望的というか。映画では『嘘でしょ!?』ともいえるほど素晴らしいお芝居をしています。サクラさんとは年齢が10くらいしか違わないけど、10年後にはサクラさんのレベルに達しているのかなって…あの赤い絨毯を歩く時に、この方と同じ笑顔で歩けないと思ったんです。だから10年、20年に、私も同じ笑顔でカンヌのレッドカーペットを歩きたいと思いました」と忘れられないほどの大きな衝撃を受け、大きな目標となったことを振り返った。【取材・撮影＝桂 伸也】