「これからも歌い続けていきます」。ライブの終盤、板野友美はそう力強く宣言した。視線の先には、観客で埋め尽くされたホールが広がる。歌をしっかり届けようと、ダンスパフォーマンスは封印。生バンドによるグルーヴィーなサウンドのなかで、彼女は活き活きと歌っていた。

生バンドツアー実施の背景

 板野友美の全国ツアー『板野友美 LIVE TOUR 2018 〜Just as I am〜』ファイナル公演が12日、東京・マイナビBLITZ赤坂であった。意外にも生バンドによるツアーはソロ7年で初めて。裏を返せば、これまで以上に音楽と向き合う彼女の決意の表れを感じさせる。そして、このツアーでの体験は彼女のパフォーマンス力を更に押し上げることだろう。新たな可能性を広げた一夜だった。

 最近は、女優としても活躍の場を広げている彼女だが、音楽活動でも新たな局面を迎えている。幼少期はSPEEDに憧れてダンスに目覚め、ダンススクールに通うようになった。AKB48加入前、『第54回NHK紅白歌合戦』でEXILEのバックダンサーを務めたほどだ。そうしたこともあってダンスミュージックは彼女の軸にある。そのためか、これまではダンスを駆使した“見せるライブ”が中心にあったように思える。

板野友美

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 それまでもそうしたパフォーマンスで魅了してきた。このまま続けるということも既定路線にはあったはずだが、あえて生バンドに挑戦した。それは彼女がこのライブのMCでも言っていた「新たな挑戦に億劫になっていた」ことからの脱却だったのかもしれない。

 「もともと生バンドでのライブはやりたかった」と語っていた。ダンスミュージックに生の音が入れば音像は立体的になる。グルーヴも変わり、歌だけでなく、ダンスパフォーマンスにも良い影響を与える。彼女自身バンドでの歌唱は、番組やイベントでの企画でおこなったことはあった。しかし、しっかりと組んだのは2017年夏のファンイベントだった。ここではアコースティックギターとパーカッションのシンプルなものだったが、演り終えた板野は「音楽も生きているなと感じました」と手ごたえ。「今後はバンドを伴ったライブもやりたいですし、最終的には一つのライブでダンスパフォーマンスもバンドもやれたら良いですね」という言葉を口にしていた。その目は輝いていた。

 その2カ月前の5月にリリースした9枚目シングル「#いいね!」は、それまでのクールなダンスミュージックから一線を画すポップチューンだった。この時すでに音楽への変化が見られていた。そして、今年2月に迎えた節目となる10枚目シングル「Just as I am」。今後の方向性の指標となる節目のシングルということもあって注目が集まっていた。このシングルは、写真集『Wanderer』との作品連動プロジェクトとして、それぞれが「自分らしさ」というコンセプトを共有した作品だ。歌詞に挑戦した板野はここで自分と向き合うために手紙をしたためた。そのなかで気付いたのは「これまでの選択は間違いではなかった」。そして「これからの選択も不安にならずに自信をもっていこう、自分自身も含めて背中を押せるような楽曲になったらいい」という思いだった。その歌詞を伝えるためにはどうすれば良いか、そこで選んだのは、アコースティックギターがイントロで映えるミディアムバラード。ポップな曲調の「#いいね!」とはまた異なる新たな試みだった。

セットリストの半分がバラード

 バンド編成によるツアーは必然的な流れだった。「自分らしさ」を強調するようにツアータイトルもその名がつけられた。全国5カ所を共にするバンドメンバーは、バンマスの大古晴菜(Key)を中心に橋本賢(G)、伊藤千明(B)、エノマサフミ(Dr)。ダンスミュージックが多い板野の楽曲の世界観を引き上げてくれる頼もしい布陣だった。実際に、彼らが奏でるサウンドはファンキーでグルーヴィー。重厚でいて軽快だった。

板野友美

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 そして、ツアーファイナル本編。16曲中、半分がバラードだった。しかも「曲の良さを感じて欲しいのでダンスは封印しました」といい、アレンジは極力加えず原曲をそのまま生かすという内容だった。これまで届けてきた楽曲に新たな息吹を与えるとともに、“見栄え”だけでなく、“歌”と向き合ってほしいという思いがうかがえるセットリストだった。そして、それを再現させたのは様々な音色を奏でた、大古のキーボード、エノマサフミのドラムだったともいえる。その軸のなかで、ギターやベースがファンキーに奏でていた。

 ずっとやりたいと思っていた生バンド。その結果はどうだったのか。板野は序盤こそ緊張感があったものの、高低や緩急をしっかりと使い分け、単調にならずにその世界観を広げて見せた。歌声が際立つバラードを、声に様々な表情を付けて歌い上げていく。そして、囁くようなセリフパートはドキッとさせられた。バラードという土台がしっかりすれば、おのずとアッパーな曲は映えてくる。

 終盤「Dear J」からの盛り上がりは凄かった。そのまま終えるという流れもできたはずだが、最後はその「Just as I am」をしっかりと届けた。それまでの凄まじい盛り上がりなら、観客はその余韻に引っ張られ、浮足だってしまうこともあるが、それは一切なく、彼女の歌声に酔いしれていた。ダンスをしている彼女も魅力的だが、マイクをもってしっかり歌い上げる彼女の姿も絵になる。

板野友美

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 更に、アンコールで披露したのは、生バンドで演奏することを視野に、もはやこのツアーのために用意したともいえるゴリゴリのロックナンバー「Show time」。バンドと観客の一体感は凄まじく、その後に次いだ「#いいね!」との組み合わせもバッチリ。バンド編成ではこの流れが定番になるのではないかと思うほどぴったりとはまった。そして、この日新曲が初披露された。7月28日公開の映画『イマジネーションゲーム』の同名主題歌だ。原曲がどのようになるかは分からないが、ダークな印象が漂うロックナンバー。「Show time」の流れを汲んでいるように見えた。ダンスミュージックというイメージが強い彼女が立て続けに見せるロックテイストな楽曲は新たな板野の音楽性を広げようとしている。

 さて、このツアーで板野は何を残したのか。それはシンガーとして、ライブとしての可能性だ。これまでは打ち込みが多かったが、生バンドによってより映えることが証明された。それは板野自身が身をもって体感したはずだ。心の底から溢れる高揚感とサウンドや歌詞に込める思い。バンドによって板野のボーカル力も更に引き出されていた。

 改めて思うのは「やっぱり良い曲だ」ということだ。今回は5カ所を巡るツアーだったが十数カ所も廻ってきたような一体感を見せていた。公演数をもっと重ねていたらどんなことになっていたんだろう、そして、ここにダンスパフォーマンスが加わったら…という期待が膨らんだ。「これからも歌い続けていきます」。新たな体験をもって自信を得た彼女は今後、音楽面でも新たな魅力を広げてくれるだろう。歌手としても今後がますます楽しみになってきた。

 なお、7月1日に、東京・EX THEATER ROPPONGIで、イベント『板野友美 SUMMER PARTY! ~カムパリ改めサマパリ~』がおこなわれる。前半はトーク、後半はライブの構成となる。7月3日に27歳の誕生日を、さらに7月28日には映画『イマジネーションゲーム』の公開を控える、板野友美の今が語られるようだ。【木村陽仁】

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