歌手の五木ひろしが3月29日、東京・明治座で『五木ひろし特別公演 特別出演坂本冬美』をおこなった。公演は2月23日から3月29日の千穐楽まで全46公演をおこなうというもの。舞台は2部構成で1部は松竹新喜劇十八番よりお芝居「紺屋と高尾」、2部3部を「ビッグショー」と題し「九頭竜川」や「居酒屋」などヒット曲、さらに五木と坂本による歌謡浪曲「一本刀土俵入り」や森山愛子が「おんな節」、坂本は「夜桜お七」とバラエティに富んだ曲目で届け、アンコールでは翌日が誕生日であった坂本のバースデーも祝福。約4時間を超えるボリュームで訪れた観客を魅了した。

紺屋と高尾

「紺屋と高尾」

 松竹新喜劇の名作『紺屋と高尾』は、吉原で見た花魁道中から仕事も手に付かないほどの恋煩いを追ってしまった久造(五木ひろし)と花魁・高尾太夫(坂本冬美)との恋模様を描いた作品。天井の高い会場の二回席には千穐楽おめでとうの幕が掛けられていた。

 会場後方から五木ひろしが登場すると、盛大な拍手で迎えられる。そして、花魁道中の坂本冬美が艶やかな着物姿で登場すると、会場からも「綺麗だよ!」と声が掛けられるほどの美しさ。芝居全体では、ベテランの役者たちによる演技も五木たちの芝居を盛り立てていた。時折入る平昌オリンピックで活躍した女子カーリング選手たちの「そだね~」の方言など時事ネタも会場の笑いを誘っていた。

 場面は変わり、森山愛子も妹役として登場。46公演目ということもあり、五木との共演も見事にこなし、舞台に華を添えていた。物語も佳境に迫るにつれ五木の三枚目のキャラクターと、坂本の初の花魁役のコンビネーションは観るものを惹きつけていく。歌手ならではの演技、セリフを歌うかのように伝えていく様は、他の演者たちとの調和を意識したものだった。

 紺屋と花魁という浮世離れした恋物語は観客の心をグッと掴み、最初から最後まで目の離せない展開に釘付けの観客の姿。ハッピーエンドは多くの人の心を癒し、拍手の大きさがその満足感を表していた。

『ビッグショー』

坂本冬美

 第2部は『ビッグショー』と題したステージを届ける。アクティブ・フェローズによる豪華な生バンドの演奏に導かれる様に五木が上手(かみて)からステージに登場。2012年にリリースされた「夜明けのブルース」で幕は開けた。観客もリズムに合わせ手拍子、サビでは歌の合間に“ひろしコール”を挟み、双方向でライブを楽しむ姿も。五木と共にダンサーも登場し楽曲を視覚的にも彩った。

 ステージの後方の壁には星空をイメージした電飾が美しく輝くなか「夜空」を披露。客席ではグリーンのペンライトをリズムに合わせ振る観客。「語るように唄う」という五木の姿勢が会場を包み込んでいくような感覚。そして、「九頭竜川」の雄大さをダイナミックな歌声で紡いでいく姿はキャリアを感じさせる圧巻のパフォーマンスは多くの人を惹きつけた。1971年に五木ひろしとして再デビューを決めたシングル「よこはま・たそがれ」では、五木はグランドピアノを弾きながらの歌唱。ピアノの優しい音色が歌に寄り添うように至福の時間を与えてくれた。

 そして、ゴールドのゴージャスな衣装を身に纏った坂本冬美がステージに。五木のピアノ伴奏でビリー・バンバンのカバー「また君に恋してる」を届ける。五木と坂本によるスペシャルなコラボレーションは、まさに特別な空間を作り出し観客を魅了していく。歌唱後のMCでは五木が坂本へ「凜とした素晴らしい高尾太夫でした」と話すと坂本も「五木さんの長ゼリフを胸をキュンキュンさせながら聞いていました」と返した。

 歌手は「歌との出会いが全て。良い歌と出会えるかどうかです」と話し、2人が椅子に座りながらのパフォーマンスへ。五木はエレキギターを手に艶やかなメロディを奏でると、坂本はその演奏する五木の音をバックに「北の宿から」と「酒よ」を歌唱。存在感のある低音から透き通った高音まで幅広い音域の歌声で楽曲を表現していく。続いて、デュエットでニューアレンジで生まれ変わった「居酒屋」を届ける。ジャジーなアレンジに乗って、2人の極上のハーモニーを響かせ『ビッグショー』を終了した。

歌謡浪曲「一本刀土俵入り」

森山愛子

 暫しの休憩の後、第3部へ。五木のお気に入りの歌謡浪曲「一本刀土俵入り」を坂本と共に披露。曲師・沢村豊子の三味線と会話するかのように、通常の歌とは一味違ったニュアンスを魅せる2人の唄に舌鼓。そこに情景を映し出すかのように物語を紡いでいく。

 声の持つ可能性を存分に味あわせてくれた後は、森山愛子のステージへ。お芝居からテレビのリポーターまで様々な活躍を見せる彼女は、2004年にリリースされたデビューシングル「おんな節」。現代女性の強さを表現したかのような、エネルギーに満ちた歌声を明治座に響かせると、「今年で15年目。たくさんのお客さんに支えられてきました」と感謝を述べた。客席から投げかけられる声援に笑顔で返す森山は続いて、もう1曲、昨年リリースされた「会津追分」を披露。自身初のご当地ソングで15年というキャリアを経て、円熟味が増してきた歌声で純愛をまっすぐに届けた。

 再び五木がステージに登場し「長良川艶歌」「わすれ宿」と踊り手も登場し楽曲を彩る。「細雪」では和傘を持った女性と芝居をするかのようなステージ。桜の花びらが舞い散るなか、歌と言葉でその楽曲の世界観へいざなっていく。切ない眼差しを残しながら奈落へ下がる五木。そして、大地を揺るがすような和太鼓によるダイナミックなサウンドに導かれるかのように坂本が奈落から登場し、届けられたのは「あばれ太鼓」。そのサウンドにも負けない空気のうねりを感じさせる存在感のある歌声は圧巻。

 続いて、代表曲「夜桜お七」ではステージ後方に桜の木が堂々と生い茂り、桜の花びらが舞うなか、坂本の歌もセクションによって大きく表情を変えながらの歌唱。多くの人がその歌声にうっとりと耳を傾けていた。白いタキシードに衣装をチェンジした五木がステージに登場し「ほとめきの風」を歌唱。“ほとめき”とは九州弁で“もてなし”の意味を持つ。まさにここにいる人たちを“もてなす”かのような歌声に酔いしれ、本編最後はリリースしたばかりの坂本とのデュエットソング「雨の別れ道」と「ラストダンス」の2曲。

 松井五郎が作詞し、現在“放牧中”のいきものがかり・水野良樹が作曲した「雨の別れ道」はしっとりと心を込め歌い上げ、水野が作詞・作曲した「ラストダンス」の振り付けをレクチャーし、会場全体で一体感を高めていく。軽快なリズムと回転するミラーボールが光を反射させ、観客も2人とシンクロした振り付けはコンサートならではの臨場感を与え、ステージ後方を彩るアーチドレープした布が優雅に華を添えるなか、至高のハーモニーが明治座を包み込み、ステージの幕が降りた。

 アンコールに応え、再び幕が上がると、そこには本日の出演者フルラインアップ。五木が「みなさんのパワーを頂いて無事に千穐楽を迎えられました」と感謝を述べた。そして、翌日の3月30日は坂本冬美の誕生日ということもあり、バースデーを祝福。生バンドの演奏で「ハッピーバースデー」を歌い上げ、坂本は「忘れられない1日になりました」と感慨深くコメント。「最後にもう一曲」と五木が投げかけ、「別れの鐘の音」を披露。名残惜しい空気感のなか46公演を完走。五木は共演者の高田次郎や沢村豊子の快活な姿に感化され「私もまずは80歳まで頑張ります」と意気込みを話すと、坂本も「付いて参ります」と、久造と高尾太夫がそこに思い浮かぶかのような空気感のなかフィナーレを迎えた。

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