ドラムとダンス、小柳友×服部彩加 2人だからこそ出せた即興感
INTERVIEW

ドラムとダンス、小柳友×服部彩加 2人だからこそ出せた即興感


記者:桂 伸也

撮影:

掲載:18年03月30日

読了時間:約11分

 新進女優の服部彩加を主演、俳優・小柳友を共演に迎えた映画『ANIMAを撃て!』が3月31日に、全国公開となる。幼い頃からクラシックバレエを習い、大学時代には競技ダンスに勤しんでいた服部と、元ロックバンドのドラマーという経歴を持つ小柳。劇中ではダンスとドラムという個性的な組み合わせでのセッションを披露する場面もあり、興味深い要素を見せている。今回はこの映画で企画、脚本も手がけた堀江貴大監督にも加わってもらい、3人に本作のテーマ構想から、撮影にいたるまでの経緯などを聞いた。【取材=桂 伸也/撮影=大西 基】

はじめに

 映画『ANIMAを撃て!』は、自己の表現に苦しむ一人のバレエダンサーと、昔ドラムをプレーしていた一人の施設職員の男性が、あるきっかけで出会い、恋に悩みながら、ドラムとダンスという異色のセッションを探求していく中で、新たな道を切り開いていく姿を描いた作品。

小柳友×服部彩加×堀江貴大

小柳友×服部彩加×堀江貴大

 主人公のダンサー・呉田果穂役を演じる服部は、幼少からクラッシックバレエを習い、中学時代には新体操、大学進学とともに競技ダンスに勤しむなどの経験を持つ。本作が映画初出演で初主演となる。一方、果穂の、ダンスの新たな表現を作り出す手助けをする男性・伊藤瑛役を務める小柳は、バンドでドラマーを務めていたという経歴の持ち主。

 またこの作品で監督・脚本を担当した堀江監督は、文化庁委託事業『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2015』に参加し、短編映画『はなくじらちち』で監督を務めた。新進の映画監督だが初の長編映画『いたくても いたくても』が『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016』のコンペティション部門にノミネート、『第16回TAMA NEW WAVEコンペティション』でグランプリ、ベスト男優賞、ベスト女優賞を受賞と、その作品では高い評価を得ており、今後が期待される若手映画監督の一人でもある。

 本作は、堀江監督が温めていた、ある一人のバレエダンサーの姿を描いた中編映画企画『ANIMA!』を元に、長編映画として構想を練り直した作品で、商業映画デビュー作品となる。「ダンスとドラムのセッション」というアイデアは、ある日堀江監督が、ダンサー/振付家の北川結と、ドラマー/トラックメーカーの守道健太郎の、2人によるセッションを目にする機会を得て、その姿に触発されたことで生まれたという。また北川、守道は堀江監督からの呼びかけに賛同、セッション部分の構成、および技術指導として作品の制作にも参加している。

偶然にも境遇が重なった出演者と役柄

――2年ほど前に『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016』で披露された堀江監督の映画『いたくても いたくても』を見る機会があり、本作も興味をもって見させていただきました。まず、映画のテーマの着想についておうかがいしたいと思います。今回の企画は、堀江監督が元々お持ちになっていた企画『ANIMA!』を発展させたものということですが、堀江監督の持たれている印象の中で、元から変わらないイメージというものが、ずっとあったということでしょうか?

堀江貴大 ありました。ただ、『ANIMA!』の時点ではドラマーがストーリーに登場する案はありませんでした。女性のコンテンポラリー・ダンサーが主人公ということは決まっていて、ダンサーとその姉との姉妹を中心とした物語でした。

それは中編映画の企画だったのですが、長編映画にすることを考えたときに「音楽」という要素が出てきて、「男性ドラマーと女性コンテンポラリー・ダンサーのボーイ・ミーツ・ガール」の物語になっていきました。

服部彩加

服部彩加

――その元々の企画というのは、何か自分の中にあったものが、ダンスを見たときに「これだ!」と気づいたという感じのものなのでしょうか? ダンサーという部分が劇中ではフィーチャーされていますが、実は自分自身を投影している、というような…。

堀江貴大 ダンスの中でもコンテンポラリー・ダンサーは、特にゼロからモノを作り出すという点は、共感できる部分があり、そういった意味では自分を投影しているかもしれません。

――服部さんと小柳さんも、表現者という立場からするとかなり共感できた部分もありましたか?

小柳友 かなりありましたね。モノを作る作業というか、特に今回のこの映画では毎秒のように“作っている”という感覚がありましたし、それは改めて“役者“の面白さを感じさせてくれる作品だと思いました。

服部彩加 私もそうですね。ただ私は本当にわからないことばかりだったし、それを優しく導いていただいた感じです。現場では ほんとそんな感じでした。

堀江貴大 お二人の今の状態と、映画の役が重なる部分があると思います。小柳さんは実際にドラムをやっていたけれど、今はドラマーを職業としてやっていないという点では、伊藤という役と重なる部分があると思います。また服部さんも、競技ダンスをやっているけれど、コンテンポラリー・ダンスを踊るのは初めてという点で、果穂と重なっています。重なる部分があるということは良かったことだと思います。

――本当に登場人物と重なっていますね。確かに役柄を理解する上では、かなりのプラスになっている感じもあります。服部さんは今回が映画初出演ということですが…。

服部彩加 そうです。お芝居の全てが初です。

――かなり感性が試される役柄とも見えましたが、女優として初出演で「いきなりこんなこと…」みたいな、ちょっと難しそうだというイメージを感じられたりはしませんでしたか?

服部彩加 確かに初めてでしたが、自分の中では特に苦しいという思いもなく、元々ダンスもずっとやりながら大学生活を送っていたので、その意味では、それほど苦労や大変という気持ちはありませんでした。それよりは新しいことの連続で、楽しかったという感じでした。

――ドラムとダンスだけというのは、なかなか斬新なセッションではないかと思いました。またジャズ的なアプローチというよりは、どちらかというとわりとロック的なパターンをベースにした感じも斬新で。服部さんとしては、これ挑戦するということは、面白そうだという気持ちの方が強かったですか?

服部彩加 そうですね。実際にドラムをプレーされているところを拝見するまでは想像できなかったのですが、いざ映像で見たらドラムのリズムと足のリズムを合わせることで、2人でセッションしている感じみたいなものが見えたり、とても楽しかったです。

小柳友

小柳友

――小柳さんも「これは面白いな」という気持ちは、最初からありましたか?

小柳友 そうですね。僕らの先生、北川さんと守道さんがセッションをされている映像とか、スタジオで生のセッションを拝見したときには、本当に感動しましたし、“こういう表現の方法があるんだ”という新しい発見もあったので、僕自身これは面白いと思いました。

――曲という単位になるのかがわからないのですが、今回の作品の中で披露されるそれぞれのパートの構成は、今回参加された北川さんと守道さんにほぼお任せということだったのでしょうか?

堀江貴大 そうですね。北川さんと守道さんの二人が、スタジオに入って曲作りをしていきました。守道さんが即興でドラムを叩いて、同時に北川さんはそれを聞きながら踊りを探るという作業をする中で、北川さんが守道さんに対して「今のフレーズ良いね!」というやりとりを経て曲が出来上がっていきました。

――ただ北川さんは、たとえばバレエダンスのくるくる回転するような技など、本格的なバレエの素養はもたれていなかったそうですが、その意味では服部さんも曲を構築する部分では、かなり関わられたところもあるのではないでしょうか?

堀江貴大 楽曲の構築には関わらなかったのですが、振り付けということに関して言えば最初はバレエダンスのような振りはそれほど無くて、北川さんが服部さんと稽古をしていく中で“服部さん的”な振りが出てきました服部さんならではの、服部さんが魅力的に見える踊りを、北川さんはいっぱい取り込んでいきました。たとえばその回転する振り付けの部分なども、振り付けの練習をする中で出てきたものでしたね。

あと、服部さんが北川さんによく質問をしていたことを覚えています。服部さんにとって、北川さんは一番身近にいた本物のコンテンポラリー・ダンサーだったので、服部さんは役作りをする上で気になったことは北川さんに質問していたと思います。

――ではそういう風に小柳さんもいろいろとクリエイティブな部分で意見を出されたりと…。

小柳友 そうですね。勝手にやっちゃうと画と音が合わなくなるところも出てくるし、それは一番嫌だったので気をつけてました。そのために提案もさせていただきましたし、僕のわがままを聞いていただいたというか(笑)

長く時間をかけた準備での練習、その成果を発揮したセッションシーン

――そもそもお2人をオファーしたというのは、やはりダンス、ドラムがそれぞれできるというところが一番大きな要素だったのでしょうか?

堀江貴大 もちろんそれもあります。お芝居をする上でダンスができる、ドラムができるというところは、プラスに働くモノがあるし、ダンサーはこうだから、ドラマーはこうだから、という提案をしていただけたのは、小柳さんが言われたように、コミュニケーションができるというところですごく大きいところでもありました。

堀江貴大

――極端な話ですが、できない人がいたとしても、やれたかもしれないというところもあるのでしょうか?

堀江貴大 いや、それはどうでしょう(笑)。1年かけてもうどうだろうか…。

小柳友 練習したからできるということと、滲み出てくることってなかなか違ったりしますから、難しいかもしれませんね。でも、それを短い期間で見出すことのできる人が、素晴らしい俳優さんなんですね…きっと。

――やっぱりそうですよね(笑)。また劇中のプレーですが、あれは全部書き譜のような感じで、最初から最後まできっちり決まった振りではなく、ジャズのコール&レスポンス的に、相手のタイミングを見ながらプレーされているのでしょうか?

小柳友 モノによりますね。基本的には、撮影の前に録音をして、その音に合わせてドラムを叩く芝居をしていました。本当に即興でやっているというわけではないんです。もし即興でやろうとすると、後の編集作業が大変になるという話が最初にありまして。

堀江貴大 即興のように見える、ということを目指しました。

――そうなんですか? その意味では大成功ですね。最後のシーンは本当に緊張感がある中で、お2人が互いを意識して合わせている感じが見られました。

堀江貴大 そう言っていただけると、本当にすごく嬉しいですね。リズム自体も決まった形というより、複雑なリズムが多いこともあって、そういう風に見えて、聞こえているのかもしれないです。

小柳友 僕たちみんな、曲をまるごと覚えちゃったくらい練習しましたから、嬉しいです。

――でも、逆に準備がかなり大変だった感じもありますね。撮影よりも練習の方がかなり長かったのでしょうか?

小柳友 そうですね。かなり長かったです。

服部彩加 1カ月半から、2カ月くらいかかったかな。

――長いですね…それで撮影は?

小柳友 8日ぐらいですね(笑)。それくらいの期間で撮れちゃうんですね。

――それもそうですが、準備が1カ月半でできたというのもすごいですね…。

小柳友 最初に会ったときから最後の出来上がりまで、この期間の変化ってすごかったですよね、いい意味で(笑)。

堀江貴大 実際に撮影に入ってみないとわからないところもたくさんあったので、いろいろ試行錯誤しながらやっていました。

――一番の見所は、やはり最後のセッションの箇所かと思いますが、特にアピールしたいポイントはというと、どんなところでしょう? やっぱり小柳さん的には、セッションのときにタイミング良くふっと入る口笛の部分ではないかと思いました。劇中では他にもふっと前振りのように口笛を吹くところがありますが…。

小柳友 そう! やっぱりわかってくださっている!(笑)。ポイントというか、元々最後のダンスのところで、守道さんと北川さんが口笛を入れたいという話をされていたので、その伏線として芝居のどこかに入れようと思って無理くりで入れてみたんです。だからあの口笛は自分的にも思い入れがあるというか。見所とまではいえませんが(笑)。

――いや~、かなり注意しないと見逃すポイントでもありますが(笑)、伏線という意味では本当に印象的なシーンになっていると思います。服部さんはいかがでしょう?

服部彩加 私は、最後の踊りの、前半部分ですね。言われないと、なかなかわからないと思うんですけど、あの踊りの中で、役柄の名前“呉田果穂”という字を手でなぞっているんです、自分のダンスの中で。まあそれは隠れポイントということで(笑)。

――初出演でもかなり突っ込んできていますね(笑)。堀江監督としても、あのシーンはかなり印象強いところではありますか?

小柳友×服部彩加×堀江貴大

堀江貴大 そうですね。最後の踊りでいうと、ドラムが静かに鳴らされる部分があるんですけど、そこで服部さんが四つんばいで耳を澄ますようなポーズがあって、そこを僕らは“イグアナ”と呼んでいたんですけど(笑)、僕はそこがすごい好きです。それまで鳴っていた音が静かになって、そこに二人だけの時間が出来上がっている感じがしたんです。

――通してみてもかなりいろんな見所がありますが、かなりのこだわりや遊びも感じられますね。この作品の総合的な自己評価というと、それぞれどんな感じでしょう?

小柳友 僕は、やりきりました(笑)。『伊藤』になることを本当に楽しめたし、自分の中では満足のいく撮影でした。

服部彩加 初めてのお芝居でしたが、今持てる全てを出せたので、良いものになったと思います。

堀江貴大 僕は今回の一番のテーマとして、お客さんに楽しんでもらえる作品を作りたい、という思いがありました。今までは、ちょっとひねった設定にしがちで、それはそれで自分としては理由があってやっていたことなんですけど、今回の自分のテーマは特にひねらずに、ストレートにダンスとドラムのセッションの感動をお客さんに伝えることを目指しました。ストレートを投げるということに関しては、出来たと思っています。それを、お客さんがどういう風に見ていただけるかがすごく楽しみですので、是非見ていただけると嬉しいです!

(おわり)

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