ACIDMAN、集大成「Λ」に映った大木の真意 枠を超えて繋がる心
INTERVIEW

ACIDMAN、集大成「Λ」に映った大木の真意 枠を超えて繋がる心


記者:木村武雄

撮影:

掲載:18年03月20日

読了時間:約17分

ダークマター、たった4%…

――「ダークマター」、いわゆる観測できない正体不明の物質ですね。凄く広い話ですよね。これに絡めて人間とは、あるいは宇宙とはこういうものだよ、と感じてほしいものはありますか。

 宇宙を、化学的なものでわかっていることを伝えたいという思いは凄くあるけど…。やっぱり僕は人間の嘆きというか悲しみというか、結局いつか誰もが死んでしまうというこの圧倒的な悲しさとか、そこを共有したいというか。そして、なぜ我々は生まれて、なぜ生命が生まれて、なぜ宇宙が生まれてというところの根源を知りたいという欲望を持っていますね。

 なんだろう、楽しいんですよね。生きるということは何なのかを考えるのが。非常に不思議なものに挑んでいるという感じもあって。凄く高い山に挑んでいる気持ちがあるんです。それをみんなと共有したいなって。せっかく生まれてきたんだから、数十年しか生きられないんだったら、そういう心理を追及する旅に出る事はとても意味のある事だと思うんですよね。もちろん、それぞれで良いと思いますけど。

――リスナーによって意識は様々だと思うんですよね。まだ経験していない人もいれば経験して学んでいる人もいたり。まだ気づいていない人たちに、楽曲を通じて知ってほしいというのはありますか?

 それはあります。ACIDMANに関してじゃないですけど、単純に「ダークマターってこうだよ」と。ダークマターなんて歌にする人なんていないと思いますしね。でも、曲に出てきたら「ダークマターってなんだ?」ってみんな思うじゃないですか。なんとなくダース・ベイダーやスター・ウォーズに出てくる悪役の人かなって感じだけど、このインタビューを通じて「実はダークマターっていうのはこの世界のダークマター、ダークエネルギー二つ合わせて96%が観測出来ていないものなんだよ」と知れるだけで「え、そうなの?」となるじゃないですか。

 僕の体も4%しか分かっていないし、この水もたった4%しか分かっていなくて。残りの96%は未知の観測もできない謎の物質で出来ているというのが事実であるというのが、天文学者が見つけた事だったりすると、この人生はたった4%で、僕たちは喜怒哀楽を表現したり、戦争したり、愛し合ったりしているんだって気づくだけで、だいぶ考え方が変わってくると思うんですよね。価値観が。「あ、そうか4%か!」「あの太陽見ても、この宇宙も全部合わせても4%しかまだ理解出来ていないんだ、我々は」って。

――たった4%なのに太陽風に影響されるという。

 太陽風の仕組みだって全部、分かっているじゃないですか。だけどそれも全体の4%。「え!っ」というところ。信じられないですよね。

――どうでもよくなってきますよね。

 そう、どうでもよくなる。

――そう考えると、意識的な面では、固定概念という概念自体が正しいかもわからないですね。本当はいらないものかもしれないという。

 いらないかもしれないですね。感覚的に。たぶん、生命というのは本来感覚的に生きるべきだと思うんですよ。でも僕らは感覚ではなくて。知性が生まれたからその感覚を、知性を補うように生きてきたので、その感覚が鈍ってきたんだと思うんですよ。誰しもが本能的に上手く生きられるはずなんですよ。でもその中で僕らは集団で社会を作って。地球上で生存していこうというものがあるから、今、そこのバランスが崩れているだけであって、きっとそれは視野を広げれば変わってくると思うんですよ。どんどん星を辿っていくと面白いですから。地球だけで考えている事であって、もしかしたらこの世界じゃない裏側の世界があるかもしれないし、そういう所に広がっていく準備段階なんだろうなとは思いますけどね。

小林武史の存在

――人間は元来、未知なものに恐怖を抱く生き物だと思うんですよね。でも逆に未知な部分を楽しもうよっていう。

 僕は知りたいという欲が強いですね。たぶん死んだら気づくと思うんですけど、死んだら次の楽しみがあると思うと死もちょっと怖くなくなるというか。

――運命を受け入れられるというか。

 死後の世界は絶対あると信じているんで。でも、死ぬのは絶対に嫌だし、怖い。けどちょっとは楽になれるというか。死ぬ瞬間0点何%の可能性を感じながら死ねるというか。もしかしたらあるかもしれないと考えていたら、死が少し楽になってきたなって考え方があるし。だけど、自ら命を絶つのはダメですけどね。

――そのことはこれまでの曲にも反映されていますよね。「愛を両手に」を最後に持ってきた理由は?

 これは小林(武史)さんのおかげでもあるんです。小林さんの最後のキーボード、シンセの音が本当神々しくて。最初はどこに入れようかと迷っていたんですけど、アルバム制作の後半に考え付いたんです。最後に入れてのが一番合うなと。全部を通して聴いた時に物凄く集中して聴けた。一つの映画を見るように、大音量で聴いて。最後の「パー」という音が鳴った瞬間に全ての答えが出てくるというか。召される瞬間というか。全てを愛で包んでくれているような。その直前で凄く嘆いているので、「なぜ僕たちは生きていくんだ」「この祈りで何が見えるんだ」「なんで生きているんだよ」と歌っていて、それで最後に「ふわー」となるから、何か神様に抱きしめられるような感じが凄く描けた。そのおかげだと思います。

――収録曲順が凄く絶妙ですよね。

 そうですね。良かった。よくハマったなって思いますね。

――この曲は小林武史さんプロデュースです。どうでしたか?

 いやもう最高でした。本当に感覚が似ている人だなと思っていて。お会いさせて頂いてお酒を呑むことによって、どんどん似ている人だなって思っていて。感覚的な人だし、だけどどこかしらで実業家の面もあるし。なんか規模が、僕は足元にも及ばないけど、でも凄くリンクする人です。この曲のほとんどをアレンジをしてくれたわけではなくて、僕が作った原曲にピアノとストリングスのアレンジを加えてくれただけなんですけど、それで何か俺自身もそれで良かったと思っていたし、小林さんも聴いた瞬間に「あんまりやらない方がいいと思うよ」と言ってくれて。これはほぼホーリーなイメージだけを加えたいと。「この曲はホーリーだよね、大木くん」とその確認だけで電話をくれて。まさにその通りだなと思って。それをあまり言葉を交わさずに分かってくれる人というのが凄く強かったですね。

――収録曲すべてがシンプルで。シンプルということは音の空間があると思うんですけど、その空間で感じてもらいたいものはありますか?

 それは音以外の言葉もそうだし、言葉も含め音もそうだし、凄く思いますね。空間が自分と向き合う瞬間だったりするので。だからある種、瞑想に近く聴けると思うんですよね。自分と向き合いつつ、音楽とともに何かいい方に流れていくというか、良い循環を作れるアルバムになったかなと思いますね。

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