スリーピースロックバンドのACIDMANが21日、配信ライブ『ACIDMAN ニューアルバム配信ライブ』を開催した。今秋発売予定の12枚目のオリジナルアルバム収録予定曲を初披露するというもの。ライブは全面LEDを使用し「灰色の街」や「Rebirth」を含む全8曲をパフォーマンス。音と映像の融合で相乗効果を生み出していたこの配信ライブの模様を以下にレポートする。【取材=村上順一】

新たな音楽の届け方を提案できれば

大木伸夫(撮影=Taka"nekoze)

 アルバムリリース前に新曲を披露するというなんとも稀有なライブで、ほとんどの楽曲への予備知識なしというスリリングな企画だ。いよいよ開演時刻が訪れ、SEの音に合わせ白と黒にスタジオが瞬く中、浦山一悟(Dr)と佐藤雅俊(Ba)、そして、大木伸夫(Vo.Gt)の順番で登場し定位置へとつくと、ドラムフィル、ベースのスラップ奏法が印象的に響き、“訪問者”の意味を持つ同曲は軽快なリズムに絶妙な熱量を感じさせた「Visitor」でライブの幕は開けた。ここで注目したいのがLEDを使用した新感覚の映像演出だ。人間は視覚から得ている情報量の大きさというのも改めて感じさせてくれた。もちろん音だけでも充分な説得力と感動はあるが、そこに映像効果が加わることで、楽曲の世界観をより立体的にし、高揚感をさらに押し上げてくれると、このステージを観て感じた。この日の会場となった新宿にオープンしたばかりのスタジオ・BLACKBOX3(ブラックボックス)の特色である全面LEDをふんだんに使用し、音と光のマリアージュで非日常的な空間を届けた。

ACIDMAN(撮影=Taka"nekoze)

 続いて、一悟の景気の良いカウントから「歪んだ光」へ。ソリッドなギターリフと、Bセクションでの3人によるシャウトが高揚感を高める1曲だ。見えない何かに怒りにもにた感情をぶつけるような鬼気迫るパフォーマンスにロックバンドとしての矜持をみた。

 このライブを観てくれている人たちへの感謝を伝える大木。このコロナ禍でスケジュールが白紙になってしまったことを明かし、その中で何がベストなのかを考え、「新曲をみんなに届けたい、配信(ライブ)をもう一度やろう」と思ったという。そして、8割方完成しているニューアルバムの曲のみで構成するライブを行うことにした理由に、「新たな音楽の届け方を提案できれば」と、このライブを開催した意図を話した。

 大木は「画面越しではありますが、最後まで楽しんでください」と投げかけ、人気アニメ『あひるの空』(テレビ東京)のオープニング曲「Rebirth」でACIDMANのグルーヴィーな演奏を堪能。この3人でのコンビネーション、ダイナミクスは唯一無二だと感じさせてくれた。そして、偶然にもこのコロナ禍という状況に寄り添うような一曲になったミディアムナンバー「灰色の街」を届けた。画面も楽曲の灰色というテーマに寄り添いモノクロに変化。静と動を感じさせるサウンドは、聴くものの心を浄化していくように時にクールに、時に熱く展開していく。楽曲後半では灰色だった世界に色が付き、希望を感じさせるような演出が印象的だった。

佐藤雅俊(撮影=Taka"nekoze)

 足元に設置されたギターエフェクターを切り替える大木の所作もカメラが捉えていく。まずルーパーと呼ばれる機器にギター演奏を録音し印象的なループを作り、大木がエレピを奏でたインストナンバー「Link」はこのライブのインタールードの役割を果たしているかのようだった。そして、再びギターを手に取り「ALE」をパフォーマンス。「ALE」(エール)とは人工流れ星プロジェクトを行なっている企業のことで、このプロジェクトに大木は挑戦へのスピリットを感じ、心が震え感動したという。その感動を楽曲にしたと「ALE」制作の経緯を明かした。満天の星空、流れ星の映像をバックに演奏された「ALE」は力強さもありながら儚さもあわせ持っており、聴くものの背中を押すかのような感覚もあった。

大木伸夫(撮影=Taka"nekoze)

 そして、アルバムリリースより先にライブで楽曲を披露することについて言及。コロナ禍でガラッと考え方が変わったこと、昔のように楽曲が完成してライブを行う、その音をいつでも聴けるようにレコードにしていくというスタイルに戻ったと説明。いわば音楽の在り方の原点回帰のようなこの考えは以前からあり、「これはチャンスだと思った。ベストな形でお客さんに聴いてもらえたら」と、今回のライブへの想いを述べた。

もっと世界は美しくなる

 ライブは後半戦へ。届けられたのは「素晴らしき世界」。大木はエレキギターからアコースティックギターに楽器を変え、オーガニックなサウンドで展開。同曲からバンドの音楽性の振り幅を感じさせ、ライブのフックになっていた。LEDを使用し山や鳥、この地球の自然が次々と投影されていたのも、この楽曲の世界観をより濃くしていた。

大木伸夫(撮影=Taka"nekoze)

 ここでニューアルバムのタイトルをサプライズ発表した。その発表方法はネタバレになるので詳細は控えるが、ACIDMANらしいものだった、ということを伝えておこう。ニューアルバムは今回披露した曲に加え、あと2曲から3曲ほど追加されることを報告。まだ納得がいく形になっていないと話す大木の言葉から音楽制作へのこだわりを感じ、アルバムへの期待感がより高まった。「形は変われども音楽を届けていくという行為は続けていきたい。心の奥底に光を当てることは出来ると思います。それは感動だったり歓びだったり、いろんな感情、心を動かすことは出来る」と音楽活動への姿勢を述べた。

 「綺麗事を歌い続ければもっと世界は美しくなるんじゃないかなという祈りを込めて--」とラストは「innocence」を披露。メッセージ性の強い壮大なミディアムナンバー。宇宙空間の中でパフォーマンスするかのような映像を駆使したステージ。ACIDMANの楽曲には宙が似合う。それは彼らの意志の強さが楽曲のスケール感に繋がりそうさせるのだろう。もっと純真無垢、クリアになっていきたいという想いが音として放たれているようだ。そして、最後は純真無垢な真っ白な空間、虚無の世界へと戻って行くかのようだった。

浦山一悟(撮影=Taka"nekoze)

 最後に大木は「今度こそリアルな目の前のライブでお会いしましょう」と新しい試みをふんだんに取り入れた『ACIDMAN ニューアルバム配信ライブ』の幕は閉じた。

 ほぼ新曲というワクワク感、映像とのコラボレーションで音だけではなく視覚でも楽しめるという最新の技術とともに届けたライブはアルバムリリースへの期待感をより高めたのは言うまでもないだろう。きっと未来もACIDMANの進化を感じさせてくれるはずだ。

 配信ライブの醍醐味が詰まったこのステージの模様は各種プラットフォームでアーカイブ配信中。期間中であれば何度でもこの興奮と感動を味わえる。

セットリスト

1.Visitor
2.歪んだ光
3.Rebirth
4.灰色の街
5.Link
6.ALE
7.素晴らしき世界
8.innocence

ACIDMAN ニューアルバム配信ライブ
配信日:2021年5月21日(金)
時 間:OPEN 18:30/START 19:00
アーカイブ配信:本配信終了後~2021年5月31日(月)23:59(※)
※「Streaming+」のみ、2021年5月27日(木)23:59まで

特設サイト

ACIDMAN ニューアルバム配信ライブ

この記事の写真

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)