ロックバンドHYのボーカリスト・新里英之が2日、東京・渋谷Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREでソロライブツアー『Hide’s Music Story 〜prologue〜』の追加公演をおこなった。結成から18年を迎えるHYの数あるナンバーの中で、新里自身が作り上げたものを中心にギターの弾き語りでその世界観を描き出す演出で全13曲を披露。ドラマーの名嘉俊のサプライズ登場もあったこの日の模様を以下にレポートする。【取材=桂 伸也】

物語を紡ぐようなステージ

新里英之

 今年で結成18年という歴史を持つHYは、その歴史の中で一度もメンバーチェンジをおこなわず、常に音楽に対して前向きに自身の求める音を追求してきた。その中心となるボーカリスト、新里は「メンバーに会うことが嬉しくてたまらない」とこの日のステージで語っていた。長きにわたる活動で、バンドが同じメンバーとともにずっと同じ方向を見つめその人生を歩んでいくことは、ある意味困難なことであるが、その新里の言葉は彼らがさらにバンドとして躍進を続ける大きな可能性を示すものであるようにも思えた。

 この日のステージは、HYの数あるナンバーの中で、新里自身が作り上げたものを中心に披露、ギターとその歌だけでその世界観を描き出すという趣旨のもの。ソロのステージというよりは、バンドとしての今後を改めて考えるための一環としておこなわれたもので、彼がバンド活動を続ける意義、そして音楽活動を続ける意味を強く表すステージとなった。

 定刻から少し過ぎた頃、不意に会場は真っ暗になり、ステージに一筋のスポットライトが当てられた。そして温かい拍手に迎えられ新里がステージに登場した。決して絶えることのない満面の笑みで、この日の観客との対面を心から喜んでいる様子を見せる。ギターを抱え、観客の気持ちに向けて、手を振る新里。「東京の皆さん! 今日は一緒に、素敵な物語を作っていきましょう!」そんな語り掛けとともに、ステージは「この物語」でスタートした。

 勢いよくかき鳴らされるギターと、心地よく響く新里の声で、会場の空気が徐々に暖まっていく。「いつもと勝手が違うから、皆さん緊張しているでしょう? でも、皆さんの笑顔が大好きだから、大丈夫!」そんな声に励まされて、観客はますます表情をほころばせていく。何で自分が音楽をやっているのか? 誰のためにやっているのか? 近年はその答えがようやくわかってきたという新里。

 そんな思いが、歌の中に時々浮き上がってくる力強さに現れているようにも見えた。人懐っこい笑顔と、親しみやすさを感じさせる沖縄訛り。そしてショーマンシップあふれるステージ。その楽曲には、奇をてらった仕掛けなど全くないが、シンプルながら流れのあるメロディが、まさしく一曲の中に物語をしっかりと描いており、皆そのストーリーの一つひとつに、しっかりと耳を傾けながら感じ取っていた。

 この日のライブのタイトル『Hide’s Music Story』のまま、ステージは物語をつむぐように進んでいく。バラードの「レール」を奏でたかと思うと、続いて気持ちを高ぶらせてくるような楽曲「オーレ」へ。「すごいね! 当時に一瞬で戻れちゃうんだね!」新里がそう驚いてしまうくらいに、楽曲が醸し出す雰囲気が人々を、発表時の新鮮な気持ちへと人々をいざなっていく。

 さらに、楽曲制作当時を思い出しながら「家族をテーマにして書いた」と振り返る「HAPPY SHOWER」へと続き、誰もが温かくなっていく気持ちを感じる楽しいステージは、物語をたどるように進んでいった。

名嘉俊のサプライズ登場

名嘉俊もサプライズ登場

 ステージは、「NIJIKAN TRIP」から「AM11:00」へ。心地よいリズムで気持ちをアゲてくるナンバーで、観客の気持ちをぐっと引き寄せ、さらに本当に会話しているようなコール&レスポンスで、フロアとステージの距離をさらに近づけていく。

 新里もさらにステージを盛り上げ、ついにはステージを降りてフロアの観客のそばに歩み寄る。大喜びの表情を見せる観客に囲まれて、さらに会場は熱気を増す。そして、観客の背中を押すような応援ソング「エール」へと続き、止まぬ手拍子とともに「弱虫」で本編を終えた。

 新里が去って静かになった会場だったが、鳴り止まぬ「英之」コールに彼は押され、再びステージに登場した。そして、この日のステージへの感謝を告げながら、“風”をキーワードに皆を思いながら書き上げたという、今新里が「一番好き」だと語る新曲「始まり」を披露。その想いたっぷりの楽曲に、新里自身も、そして会場の観客みんなも笑顔があふれる。やがて、ステージは満面の笑みでフィニッシュを迎えようとしていた。

 そのとき「もう1曲! もう1曲!」と叫びながら、ジャンベを抱えステージに近づく人の影が。HYのドラマー、名嘉俊のサプライズ登場だ。突然の彼の出現に会場の観客も、また新里自身も大喜び。ラストは新里のギター、ボーカルと名嘉のジャンベ、そして観客の手拍子による、HYの代表的ナンバーの一つでもある「ホワイトビーチ」へ。

 そして、HYの変わらぬ躍進を誓うとともに「今日は本当に良い日でした! 皆さん本当にありがとうございました」と観客に深く一例をささげ、鳴り止まぬ拍手の中新里はステージを下りた。

 一曲一曲を丁寧に、そして育てるように歌い続ける。それこそがHYの音楽の、最大の強みともいえる。この日会場を訪れた観客が、新里の奏でる音楽にとても気持ちよさそうな表情を見せ、その音自体を体に染み渡らせて、新里自身とともにステージを楽しんでいたことが、その大きな証明といえるだろう。

 不動のメンバーで、自身の表現したいものに常に真剣に向き合ってきたHY。今後の彼らのステージは、彼ら自身の思いを、さらに強くしたものになる。この日見せた新里のステージは、そんな予感を醸し出していた。

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