生身の音楽とDJは別物
――『Repro』(2008年)に収録されていた楽曲のセルフカバー「Meguru - 2017 version」も収録されています。こちらは、クラブジャズ風味だったオリジナルとは違い、オーセンティックでジャズ寄りな仕上がりですね。
やっぱり演奏する人たちが「ビッグバンドでやる」という認識をしっかり持っているので、奏法も変わりますよね。サックスも1人で飛び抜けてしまう様な吹き方をしてしまうと、アンサンブルしなくなってしまうので。特に僕が何を言わずとも自然にこういう感じで皆演奏してくれました。
音楽に限らず、物を売る時に売りづらいから誰かがジャンル分けをすると思うんですけど、難しいですよね。僕も物を探す時はジャンル分けされている方が探しやすいですけど、自分がジャンル分けされているのを見ると「そうじゃないのにな」と思う事もあります。
――ボーカル曲もありますが、工夫された点などは。
バンドの人数が多いので、そんじょそこらの声量のボーカリストだと負けちゃうんです。なので、サウンドに負けずに前に出てくるパワーと、スキルを持ち合わせている人じゃないと駄目だなというのがありました。その点でElianaとAISHAの2人はパワーもスキルもバッチリです。
今回収録した新曲「Spotlight」については、英語詞にしたいというのがありました。聴いてくれる人の数が圧倒的に増えるんですよ。今はサブスクリプションサービスで世界中の人々が聴く時代です。僕は日本語詞であることにこだわりを持っている人間ではないですし、ElianaとAISHAも英語の方が歌いやすいという事もありました。それでAISHAがこの楽曲の詞を全編英語で書いてきてくれたんですよ。
――さらに今年はクラシックの室内楽的サウンドを打ち出した『野崎良太 with GOODPEOPLE』のデビューアルバム発表もありましたね。
そうですね。今年は生身の人間が演奏する音楽に力を入れた1年でした。仕事では打ち込みもやっていたんですけど、Jazztronikなど、僕が中心でやる様な物に関しては、そういう流れになりました。自分がプレイヤーなので、そこは大切にしたいなと。
あと、凄く乱暴な言い方をすると、今の時代、ダンスミュージックならドラッグ&ドロップで誰でも曲を作れるんですよ。そういうカルチャーも面白いと思うのですが、誰でも出来る事だったら、僕はやらなくていい。それなら、誰もできない事をやりたいなと思っています。時代に合っていなくても、自分が今やりたい事をやりたいと考えた時に、それが今年は人間的な物だったということですね。
生演奏は、良い意味で妥協しなきゃいけない事も出てくるんです。どうやっても演奏できない、この音が出ないとか。そういうところで頭を使って、アレンジを仕上げるのが面白い。それに皆で演奏する時は、毎回違うものが出来上がったりしますし。単純に楽しいんですよね。それが1番。
1人でコツコツ作る物とは種類が違うんです。譜面を書いて、それを演奏して貰った事のある人しかわからないかもしれませんが、それがある程度自分の思ったイメージ通りに完成した時、喜びは凄く大きいです。それを一度知るとやめられないですね。
――今回のビッグバンドやクラシック、ダンスミュージックなど色々な方法論で表現されていますが、頭の中でスイッチの切り替えがあるんですか。
その質問は昔からよくされます。でも、切り替えとかはないんですよ。僕の中では色々な音楽が同じ線上に感じられるんです。だから、物凄くハードなテクノを聴いた後に、クラシックを聴いていても何とも思わない。家でダンスミュージックを聴いていて、データ変換に5分かかるという時間でピアノを練習したり(笑)。僕が意識していないだけで、自然と切り替わっているかもしれませんけど。ただ、意識して切り替えたりはしていないです。
――ちなみにピアノの練習はどれくらいされます?
やっぱり筋肉なので、もし1週間、指の練習をしなくなると2カ月分くらい退化してしまうんです。だから、なるべく時間のある時に少しでもやろうと思っています。年を取れば取るほど動かなくなっていくので。
――先日、野崎さんが長年続けているクラブイベント『JAZZTRONICA!!』を今年初めて開催されましたが、久しぶりにDJをされた感触はどうでしたか?
忙しくて、今年は中々出来なかったんですよね。その時、DJはDJで楽しいなと思いました。でも、生演奏とは全く別物です。結局そこで盛り上がっても僕の曲じゃなかったりしますし。結局、今年はそれまで1回も出来なかったので、もはや「今年買い集めた曲をひたすら好きな様にかける」という回になりました。個人的には凄く楽しかったです。
一緒にやっている若い子がもっとやりたそうにしていたので、来年はもっと開催しようと思います。ただ、朝までいると少しだけ疲れるんですよ(笑)。色々な人が来て、お酒を飲んだりしてしまうし。昔はそれで良かったんですけど、今は他にやる事が沢山出てきてしまったので、程よい時間帯に良い具合に出来る感じの枠を見つけてやりたいですね。長時間やるのは好きなんですけど、次の日に何にもやりたくなくなってしまうので。そこをどう解消するかが課題です。





