宇多田ヒカル「あなた」のサビにおける音楽と文学の高密度な結晶
12年ぶりに国内ツアーをおこなう宇多田ヒカル
<記者コラム:オトゴト>
宇多田ヒカルさんが8日に配信シングル「あなた」をドロップ。ロンドンで撮影されたというミュージックビデオも公開され、そのメイキング映像も解禁しています。
この動画に出てくるミュージシャンも強者揃いです。特にクリス・デイヴさんというドラマーはアメリカのジャズやヒップホップ、R&Bの第一線で活動している人物。現代ジャズファンで、この人選に驚いた人も多い事でしょう。
そして。この「あなた」の歌詞にも注目したいと思います。近頃は文学的な一面に注目される事も多い宇多田ヒカルの歌詞世界ですが、この楽曲のサビはイメージ喚起もさることながら、大変リズミカルな韻で構成されています。
<あなた以外なんにもいらない(あい)
大概の問題は取るに足らない
多くは望まない 神様お願い(あい)
代り映えしない明日をください>
※(あい)は節回し。
<anata igai nannimo iranai (ai)
taigai no mondai wa toru ni taranai
ooku ha nozomanai kamisama onegai (ai)
kawaribae shinai ashita wo kudasai>
まず気づくのは、各行の語尾が「ai」で韻を踏んでいる事。それから全体的に散りばめられた「i」が効いている点。まるでラップの様です。特に「大概の問題」という言葉は、ドラムの様なリズム的切れ味を持ちつつ、意味のニュアンスや視覚の面でもクールで非の打ちどころがありません。このリリックがハネたリズムのメロディに浮かぶ事によって、より彩度を増すのです。
昨年発表したアルバム『Fantome』でも「忘却 featuring KOHH」や「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」を始めとして、多くの楽曲のサビで脚韻(語尾の韻)が意識されていた様子でしたが、「あなた」のサビで音楽/文学のより高密度な結晶を作り上げたと言えるのではないでしょうか。
世界観を維持しながら、ヒップホップと親和性のあるミュージシャンの起用、歌詞の並べ方を意識していると思われる彼女。来年に発売予定というニューアルバムにも期待が高まります。【小池直也】
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