<記者コラム:オトゴト>
 NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』が17日、最終回を迎えた。徳川四天王の一人に数えられた井伊直政を育てた、遠州井伊谷の女領主・井伊直虎の生涯を描いた。演じたのは柴咲コウさん。ドラマには、無用な戦を避け、手を取り合って領地を守った直虎の姿があった。終了後にはネット上に終了を惜しむ「直虎ロス」の声が広がっているとか。

 希代の戦国武将を個性あふれる俳優陣が演じた。どれもグッときたが、私のなかで印象に残っているのは、榊原康政を演じた尾美としのりさんや山県昌景の山本龍二さん。そして、今川氏真を演じた尾上松也さんだ。その尾上さん演じた今川氏真。そもそも直虎自体が知る人ぞ知る人物だが、今川家滅亡後の氏真の姿が長く描かれたドラマも珍しい。

 氏真は、大大名の今川義元の嫡男として生まれたが、戦が下手で優柔不断、娯楽におぼれて今川家を滅亡させたものとして描かれることが多い。もっとも、父・義元が、織田信長にまさかの大敗を喫し、自身だけでなく多くの重鎮を亡くしたなかで家督を継いだという不運があったことは忘れてはならない。しかし、その後、離反者続出の憂き目にあって地盤が揺らぎ、体制を立て直すことができないままに崩れた。

 そんな氏真だが文化人としての評価が高く、和歌・連歌・蹴鞠などの技芸に通じた。生まれた時代が違っていれば…という話も聞かれる。このドラマでは、氏真の家督を継いだ後の姿だけでなく、徳川家の軍門に下ったあとの姿も描かれているところが興味深く、明智光秀の謀反企てにのっていたところも面白かった。氏真が迷いなく、かつての家臣である家康に「殿!」と言っている姿も、戦国時代では当たり前だが、どこか氏真っぽくも感じられた。

 また、音楽的観点からすれば、雅楽器の「笙」(しょう)と思われるものを吹く姿もあった。ちなみに、「笙」の楽譜は通称、カナ譜と呼ばれており、演奏方法としての唱歌と指使いを表す記号で構成されているという。

 さて、ドラマでは、滅亡後は“文化人”として、徳川家の外交事に関わっていた点なども見られた氏真。戦国時代、外交事などで能が披露されたり、茶文化が発達したり、戦乱の世にも文化は栄えた。この時代を描いたドラマでもこうした描写は見られるが、それを象徴する武将の一人、氏真の生涯をここまで描いたのは珍しい。また、氏真を演じた歌舞伎俳優・尾上松也さんの演技力も手伝って氏真の人柄が表れていた。断片的ではあるが、氏真を通じて改めてこの時代の文化に触れた気がした。【木村陽仁】

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