<記者コラム:オトゴト>
 「ロックシーンを代表するリズムギタリスト」マルコム・ヤングさんをそう表現して決して差し支えはないだろう。オーストラリアのロックバンド・AC/DCのギタリスト、マルコム・ヤングさんが18日に永眠した。64歳。この訃報を受け、オジー・オズボーンやガンズ・アンド・ローゼズのアクセル・ローズ、エドワード・ヴァン・ヘイレンなどのロックの重鎮、そして世界中のファンから追悼の声が相次いでいる。

 “裏方に徹したプレイスタイル”そして“バッキング職人”、“リフの名手”など、マルコムさんを形容するいぶし銀のフレーズは多々ある。ソロやリードなどの花形プレイは、同バンドのギタリストであり2つ年下の弟アンガス・ヤングに一任し、マルコムさんは徹底したバッキングの職人芸を貫いた。惜しくもこの世を去ったマルコムさんの名プレイの数々は「ロックの礎」と言っても過言ではない。

■AC/DC - Back In Black

 マルコムさんはロックギターにおける「リフ」「バッキング」について世界屈指のプレイヤーだった。決して派手に目立つ存在ではない、“リズムギター”、“サイドギター”というポジションで、彼ほど脚光を浴びるプレイヤーはあまりにも希有である。

 一定のシンプルなフレーズをリフレインさせて演奏する「リフ」は、“ロックの入り口”のようなもの。リフを一発弾けば「ああ、その曲聴いたことある」といった感じで、その曲の主題を一発で掴むことができる役割すら担っている。マルコムさんが在籍していたAC/DCの楽曲は「名リフの宝庫」。ロックという分野にとどまらず、サンプリングネタとしてもDJたちに愛されているのだ。

 AC/DCのサウンドの特徴として、「徹底的に無駄が削ぎ落とされたリズムセクションの上で淡々と刻まれるリフ」という点がある。ハードロックでありながら、ある種のダンスミュージックのようなグルーヴ。マルコム&アンガス兄弟のストレートで無添加サウンドのギターアンサンブル。このスタイルは、AC/DCの結成から今に至るまで、全くブレることなく貫かれているのだ。

 そして、そのブレのないサウンドの中心に居るのが、紛れもなくマルコム・ヤングさんのプレイ。日本では椎名林檎や浅井健一が愛用するギターとしても知られる、グレッチ製のギターをメインに刻まれるバッキングは、短パンでSGギターを振り回す弟・アンガスの花形プレイとは対比するものだ。そして、ヤング兄弟のギターアンサンブルこそがAC/DCの中核。AC/DCのギターアンサンブルの構成を“お手本”としたロックミュージシャンは世界中に存在する。

 マルコムさんは、あくまで裏方としてのプレイに徹していた“バッキング職人”だ。その一貫したプレイスタイルは決して目立たない部分でありながら、世界中から評価され、ロックの礎となった。彼が残した珠玉のギターアンサンブル、そして数々の名リフ。マルコムさんの職人技は、普遍的なロックギターのスタイルとして永遠に刻まれ続けるだろう。【平吉賢治】

この記事の写真

ありません

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)