<記者コラム:オトゴト>
 先日、三味線奏者の吉田兄弟が映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(トラヴィス・ナイト監督、18日公開)完成披露試写会に登場。演奏披露した際の取材の時に気が付いたのだが、弟の健一は楽器のチューナーとしてBOSSのTU-12という機種を使用していた。

 これに気が付いたのは、実は私が高校のころギターを始めた際に購入したのが、色違いの同機種だったことからなのだが。思えばもう30年以上前になる。実際に発売開始されたのは、もっと前だろう。近年は小型でかつ圧電素子により直接楽器の振動を取り込みデジタル表示をするクリップオンチューナーや、多彩な機能を持ったものなど、多くの製品が存在する。

 対してTU-12はアナログで、針によるチューニング表示をおこなうなど、そういった時代の流れに逆行している部分もある。しかし、意外にこの機種は未だにあちこちの現場で見かけることがある。この機種ならではのということもあるのだろう。そういえば電気工作で使用するテスターも、近年は安価なデジタル製品が多く出回る一方で、針によるアナログ表示が欠かせない現場もあり、あえてアナログのものが重宝されることもある。

 毎日のように大量のタイトルがリリースされる今日の音楽業界。同じように楽器も様々な技術の進歩で、今までは考えられなかったコンセプトを持ったものが続々と発売されている。その一方でこのように長く愛され続けるものが、未だに生き残っているのも事実だ。
 
 聞いた話だが、三味線はギターなどとは違い、楽器がそれほど長く存在することができないため、ビンテージ物と呼ばれる個体は無いのだという。その音楽としての歴史は長いものではあるが、楽器奏者としては時に自分の楽器を取り換えなければいけない。それゆえに、それ以外のものについては、自身の好きなものにこだわり、使い続けたいという思いもあったのかもしれない。

 特に新たなことに挑戦しながらも、一方で自身のルーツである三味線の音楽の要素を刻み続ける彼らなら、なおさらではないか。などと想像を巡らせながら、例えば音楽も同じで、古い新しいなどは関係なく、何かそこに必要とされる要素があるかないかで、その音楽が支持されるかどうかは決まる、そういった音楽は必ず存在するのではないか、などと改めて思いにふけった次第である。【桂 伸也】

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