4人組バンドのフレデリックが18日に、ミニアルバム『TOGENKYO』をリリースする。8月にリリースされた2ndシングル「かなしいうれしい」から約2カ月というスパンでのリリース。表題曲の「TOGENKYO」はフレデリックらしさを残しながらも、今までとは違った趣を醸し出した楽曲。2018年1月13日と14日には『フレデリズムツアー リリリピート公演〜みんなのTOGENKYO〜』と題した新木場STUDIO COASTでの2デイズ、さらに4月30日にはバンド初のアリーナ公演となる神戸ワールド記念ホールライブも決定。今作についてメンバーも自信に満ちた表情で、神戸ワールド記念ホールを決断したきっかけは、「TOGENKYO」が出来たことが大きかったという。さらに同曲と同じくらい重要な楽曲になったという「たりないeye」についてや、各々が持つ桃源郷のイメージなど4人に話を聞いた。
ライブには信頼感がある
――メジャーデビューをして3年が経ちましたね。夏フェスも終了して、最近のフェスについてはどのように感じますか?
三原健司 今年はメジャー3年目ということもあって、色んなフェスに呼んで頂いた先でも、常連バンドみたいな感じで迎え入れてもらうことができました。そこは自分達の理想でした。フレデリックのライブには信頼感があるという一体感は勝ち取っていると思うんです。
だから夏フェスはフレデリックのペースのままで一体感は作りつつも、少し提案ができたらいいかなという目標を立てて、どの箇所でもステージが40分だったらMCなしでぶっ通しでやったり。セットリストも盛り上がる曲もあれば、ワンマンでやっているような、「フレデリックってこんな曲もあるんだ」という曲をはさんだりしています。
――アルバムやカップリングなど、コアな曲をはさんだ方が良い?
三原健司 それはさじ加減だと思っています。ライブの流れの中でそういった曲をひとつ差し込むことで成り立つものだと思っていて。フェスはたくさんの人に見てもらえる分、自分達を知ってもらえる一番広い入り口だと思っているので、自分達の一番良い所を出していくのがフレデリックのやり方なんですけど、その中でコアな曲を入れるさじ加減を話し合って決めています。
――1曲だけとなると難しそうですね。
三原健司 なので、話し合います。そのフェスの特性に合った曲にしようなど。今年の夏フェスでよくやっていたのは「まちがいさがしの国」なのですが、これは僕がギターを置いて、ハンドマイクで歌うんです。見た目もフレデリックの中で変わった曲なんだなということを楽しんでもらえて、お客さんを置いてけぼりにはしないという提示の仕方をしたりします。そういった曲を一つやるにしても、お客さんの方には楽しんでもらえるように演出を組んだりしています。
――健司さんはギターを置いただけでも違った感じが出せますね。
三原康司 健司の雰囲気が変わりますね。僕も凄く好きなんです。
――ライブで「TOGENKYO」を披露したみたいですね。康司さんのSNSによると「TOGENKYO」を披露した時に「1音目を鳴らした瞬間に感覚がスローになった感じがした」という感覚があったようですが。
三原康司 新曲をやる度に自分達の思い描くものがあって、それが積み重なって今があるんです。やっと鳴らせるという瞬間は色んなことを思い出します。
――走馬灯のように?
三原康司 そういう感覚には似ているのかもしれません。その曲に考えてきたことが多かった分、お客さんの前で直接目を見ながら生でやるという中で感じた風景があって、この曲に対して思っていたことを改めて再確認できたというところもあります。
――初めて新曲をライブでやる感触を“スロー”と康司さんは感じたそうですが、(赤頭)隆児さんはどうでしょうか?
赤頭隆児 「TOGENKYO」の場合は、ラジオやYouTubeではトレーラーが流れていましたが、まだMVは公開していなかったから、知らない人も多かったと思います。それでも自然と身体が揺れる感じとか、高まる感じは意図しているように伝わったし、好きに受け取ってくれたという感じも、ライブをしながら感じ取れました。やってみてそれが一番嬉しかったです。
高橋武 感触として、もの凄くいいものがあったし、何よりセットリストの最後、「オドループ」の後に演奏しました。熱量としてもピークがちゃんと「TOGENKYO」にあったということが良かったし、その段階が踏めたと思いました。新曲は身構えられたりするような部分もあると思うのですが、そうではなく、純粋に音楽が浸透している感覚があって、ある意味、初めてやった気がしなかったと言いますか。ちゃんと伝わっている感じが、曲が始まった瞬間からありました。
あと、より言葉が伝わっているという感じがしました。新曲を初めて聴いてくれる段階で踊っていたり身体を揺らしてくれることも嬉しかったし、それと同時に言葉が届いている感じというのは、今フレデリックがやりたいこととちゃんとリンクしていて、ツアーがより楽しみになりました。
今まで見たことのないバンドになりたい
――その「TOGENKYO」の歌詞はどのように出来上がっていったのでしょうか?
三原康司 すんなりと素直に「こうだな」と思うことが書けました。伝えたいと思ったことがちゃんと言葉になったので、最終的に出来たときは凄くスッキリしました。桃源郷って、手には掴めないというところがあると思うんです。今まで見たことのないバンドになりたいという思いや、そういうところにリンクする部分もあったりして、言葉自体が歌として一緒に出てきたのですが、思うことが自然と形になった感じです。
――みなさんにとっての桃源郷のイメージはどのような感じですか?
三原康司 今回のアートワークが特にその世界に通じるものだったり、近い部分があると思います。掴めそうで掴めない部分があったりして、そこに向かっていく様が良くて、何かに一生懸命になって、辿り着けないからこその面白さがあったり。「自分が想像できるものじゃないもの」というのが桃源郷のイメージとしてあります。
三原健司 僕はジブリの『天空の城ラピュタ』のように、大きな島が空に浮いている感じです。遠い所にある、すぐ行ける感じではないというイメージです。
赤頭隆児 僕はこのCDジャケットの絵を見てからは、これしか浮かばないんです。それまでは淡い色のようなイメージでした。
高橋武 桃源郷という言葉だけだと、何も無いというイメージがあります。自分の頭の中の世界というか。そこ自体は何もなくて、そこに誰かが居ることで広がっていくというイメージがあります。だから桃源郷という言葉だけだと、雲の上で何もない状態という感じです。
――「TOGENKYO」は自分達の枠を超えていきたいという思いがあった中、そういった作品に仕上がったと思われます。今までのフレデリックのイメージと違うと感じる人と、バンドのイメージ通りで安心感を覚える人と、2つの意見が出そうな印象を受けましたが、自身としては大きな違いはありますか?
三原康司 僕は今までのフレデリックらしさをちゃんと持った上での作品が出来上がったなと思います。今までのフレデリックらしくないといった、色んな意見を色んな言葉で話をすると思うんです。それが凄くいいことだと思います。僕らが今新しいフィールドにいることというのは、知らないことを伝えていくことだと思っています。知らないだけで判断するのではなくて、それに対して考えて「でも、良いよね」と、どんどん思ってもらえたらなと。僕としてもそういう経験がありました。
「やっぱりこれ違うんじゃない?」となっても「やっぱりフレデリックだね」と言う人は言いますし。賛否両論あるかもしれないのですが、僕はそれを全部色んな形で捉えられると思います。だから、それに対して色んな話をして欲しいと思っています。
――問題提起をしたような?
三原康司 「今バンドがこういうモードに向かって行くんだよ」ということに気付ける気持ちというのは、もう歌で出来上がっているので、そこに辿り着くというのは、ちゃんと聴いた上で色々考えてもらって、そこに目線を置いてもらえたらなと。
――ここにきて、今作を7曲入りのミニアルバムとした意図は何でしょうか?
三原康司 「かなしいうれしい」がシングルで出来たのは4人体制になって自然な形でもあったんです。今回ミニアルバムが出来上がったのも自然な形でした。今思うべき形がこれであったという感じです。
――それに加えて、今回は抽選でカセットテープ音源のプレゼントがあるんですよね。
三原康司 そうなんです。「TOGENKYO」と「たりないeye」をカセットテープに収録しました。過去に、「オドループ」をレコードで出したことがあるのですが、レコードやカセットテープなどのアナログで出すことって、そのときのルーツに触れているような感覚があって、僕らにとっては大事な音楽の渡し方でもあるんです。だから、今回これが出来たことは凄く嬉しいです。
――アナログという形態に思い入れがあるわけですね。
三原康司 CDもカセットもそうなんですけど、形は変われどその頃の思い入れがあるじゃないですか? そういうものに惹かれる部分があります。自分達の好きなミュージシャンがその時代に生きていたということがあって好きになるんです。
――「たりないeye」をカセットテープのカップリングにしたのは、今作の中でも重要な曲だからでしょうか?
三原康司 そうです。お客さんともっと僕らで面白い景色を見に行こうという気持ちを込めて書いた曲です。フレデリックが活動してきた気持ちが凄く入っています。それが自然な形となって楽曲になっている大切な一曲なんです。
三原健司 今のバンドの状況もそうですし、自分が思っているバンド像や、言っていきたいことのひとつが「たりないeye」という楽曲に詰まっています。それが見事に自分の中にリンクして、この曲はフレデリックにとってこれから一番大事になる曲になりそうだなと、その第一歩になるんだなという確信が持てました。この曲のMVも制作するのですが、それも含めて大事な曲にしていきたいと思うし、この曲に対して確信的な思いがあります。
――では『TOGENKYO』ではなく『たりないeye』というミニアルバムのタイトルになった可能性もあった?
高橋武 いやそれは『TOGENKYO』ですね(笑)。ひとつのコンセプトでもあったので。
みんなが雨の中で踊っている風景
――収録曲でみなさんが特に思い入れのある一曲といったら?
高橋武 「スローリーダンス」が個人的に色々思うところがありました。歌詞の<せかされず踊って>というところが個人的なキーワードなんです。フレデリックの楽曲はアップテンポな4つ打ちもあったり、色んな曲があるのですが、ライブの楽しみ方も含めて踊り方ってひとつではないじゃないですか? それを言葉で提示してくれている曲だなと思っています。
ドラマーとしても曲に対して、色んな踊り方があるから色んなアプローチをしたいし、色んな楽しみ方を知って欲しいというのはリズムにおいてもあるんです。それが言葉になることってあまりないと思います。「色んな踊り方があるからそれぞれの楽しみ方で踊っていいよ」という。僕は少なくとも、身の回りにはそれを表す言葉がないんです。「スローリーダンス」ではそれを言葉にしてくれていて、特にこの7曲の中でも気持ちがより入ります。
――自分が作った曲だと、一つ思い入れのある曲と言われても難しいと思いますが、康司さんはどうですか。
三原康司 そうですね。僕は自分がこれから一緒にお客さんに伝えていけて、一緒に思い出を共有できて、目の前にいる人が「この曲いいですよね」と言った曲が「いいよね」って言いたいなという思いがあります。同じ思い出を共有して一緒に膨らませていけたらなと常に思っています。
三原健司 最終的に辿り着くのは「TOGENKYO」だと思っています。タイトルからのイメージって、フレデリックが提示する桃源郷、理想のことを歌っているというか、聴いているだけで桃源郷に連れて行ってくれるような想像ができると思います。でも、この曲の歌詞って、それを作るまでの過程を歌っていて、「こういう気持ちで桃源郷を生み出したいと思っているんですよ」ということを歌っていると思っています。
この曲に関しては、誰よりも歌詞が伝わって欲しいと思っているし、この曲に込もっている感情が全部伝わって欲しいと思うんです。歌録りのときも、自分の内面にある気持ちを全部出すようにしたり、これをライブでやったとしても、この歌詞がちゃんと伝わるような言葉を選んで伝えたいなと思っているんです。康司が作詞作曲をして、ボーカリストとして自分が伝える側にいて、この関係性にいる自分からしたら、この曲ってその形の理想だと思うんです。そういう意味ではフレデリックのボーカリストとしては、一生この曲は大事になってくるんだろうと思います。
――隆児さんはどうでしょうか?
赤頭隆児 「RAINY CHINA GIRL」は純粋に音楽を楽しめる曲だなと思うので、そういう聴き方で楽しんで欲しいと思っています。細かいところを探そうと思って聴いてもらってもいいんですけど、そうじゃなくても楽しめる曲なので僕のおすすめです。
――「RAINY CHINA GIRL」もそうですが、今作では雨や水に関わるテーマのようなものが共通してあるように思いました。「TOGENKYO」のMVでも床を水で濡らしていました。康司さんの中で雨はどのような意味を持っているのでしょうか?
三原康司 雨って、人によっては嫌だなと思うことがあると思うのですが、実際に夏フェスでみんなが雨の中で踊っている風景やみんなが自由にしている姿って、凄く素敵なことだと思います。普段から嫌だと思うことに対しても、そんなこと忘れて無邪気に踊れるという。
「スローリーダンス」の歌詞の中にも書いたのですが、<雨の中で踊る事に喜びを知る意味がある>という言葉って、自分の人生のテーマにしていきたいというところもあるんです。自分が辛い状況にあったとしても、それをどう楽しめるかという、「考え方次第」ということを、自分はちょっとしたテーマとして持って歌詞に向き合っていた部分がありました。
初のアリーナ公演は地元で
――今回はアコースティックスタジオライブのDVDが付きますね。フレデリックのこの先10年後の姿も見えるようでした。こういったアレンジは高橋さんが加入したことによってやってみようと?
三原健司 それぞれのアイディアがあってのアコースティックの形なんですけど、「こうしたら面白いんじゃないか」ということを話ながら色んなバランスでやりました。
赤頭隆児 機会を作ったという感じですね。
三原康司 バンドが進んで行く上で、自分達の先を見てもらえるという意味でも、歌を中心にしているバンドが一番良くみえるのはアコースティックアレンジだと思っているんです。音数が減ることで生という感じになると、より歌の力が出てくると思います。自分達の先を見てもらえるようなアコースティックアレンジがDVDになって、凄く良い作品になったと思います。
三原健司 演奏がシンプルになればなるほど、歌のニュアンスがはっきりと聴こえやすくなるし、その分歌で印象が変わると思っているんです。今まで音源やライブで見せられなかった自分を見せることもできるし、やればやるほど自分達の色が確立できるようになったという発見もありました。
――「オワラセナイト」はアレンジでこうなるのかという驚きもありました。そして、康司さんはフレットレスベースでプレイされていて。
三原康司 もともとフレットレスは触ったこともなかったのですが、隆児に勧められて、今回のアコースティックアレンジに向けて練習しました。音楽を作るうえで、そのサウンドに合ったものや、その風景が見えるプレイをするのが好きなのでハマりました。
――バンドとしての未来が見えた中、4月30日に神戸ワールド記念ホールでのライブが発表されましたね。
三原健司 これは決断です。初のアリーナ公演ということもありますし、フレデリックのなかで初のアリーナ公演は地元で、というのはずっと夢だったんです。それを叶えられるのは嬉しいです。それを決断したきっかけは、『TOGENKYO』ができたというところがあります。ただただ、本当にいいアルバムが出来たし、いい曲が出来たから、それをそこで鳴らしたいというミュージシャンとしての気持ちが先に走ったし、そのきっかけが曲だったんです。こういうことを核心としてずっと進んで行きたいです。
三原康司 色んな土地に行ってライブをして、この人達にもっと見せたい景色があるなという思いが「たりないeye」とリンクしています。フレデリズムアリーナで大事な一歩を進んで行きたいと思います。
赤頭隆児 自信もありますし、楽しみです。やると決めたら、半年後のその日までにやることはいっぱいあって、それを今はやれるだけやろうと思います。
高橋武 今までも一本一本のライブで一歩一歩成長してきたかと思うのですが、これを決定してからの方が、その一歩の歩幅が大きくなっているという実感があります。アリーナ公演を決めたことがバンドにとってプラスになっていっている。これを決めたか決めないかでは、成長のスピードも違うと思います。『TOGENKYO』という作品には自信があるので、この作品と、お客さんみんなと神戸に行こうと思っています。
【取材=村上順一】
作品情報
2017.10.18. Release 初回限定盤 通常盤 AZCS-1067価格:2200円(税別) 『TOGENKYO』 1. TOGENKYO 初回限定盤DVD アコースティックスタジオライブ「FAB!! 〜Frederic Acoustic Band〜」 ライブ情報 「フレデリズムツアー2017 QUATTRO編 ~僕のTOGENKYO~」 10月21日(土)愛知 名古屋 CLUB QUATTRO / SOLD OUT 「フレデリズムツアー2017 〜ぼくらのTOGENKYO〜」 11月11日(土)岡山CRAZYMAMA KINGDOM / SOLD OUT 「フレデリズムツアー リリリピート公演〜みんなのTOGENKYO〜」 1月13日(土) 新木場STUDIO COAST 「FREDERHYTHM ARENA 2018 〜KOKYOのTOGENKYO〜」 |