4人組ピアノロックバンドのSHE’Sが6月21日に、4thミニアルバム『Awakening』を発売した。2011年に大阪で井上竜馬(Vo、Key)、広瀬臣吾(Ba)、服部栞汰(Gt)、木村雅人(Dr)によって結成。2016年6月にシングル「Morning Glow」でメジャーデビューした、今勢いのあるバンドだ。今年1月に発売した1stフルアルバム『プルーストと花束』のリリースから5カ月という、短い期間で早くも新作を発売した背景にはどのような想いがあったのか。フロントマンの井上は「次の作品の構想が頭の中に浮かんでいて、そこへ向けての橋渡しとなる作品にしたい」と今作について話す。また、今作を引っ提げ、9月からはストリングスを従えた初のホールツアーも控えている。ストリングスを取り入れたライブについてその意気込みなどを聞いた。
常に刺激は求めている
――アルバム『プルーストと花束』の発売からわずか5カ月後に、最新ミニアルバム『Awakening』をリリースします。かなり早いペースでのリリースだと思いますが、それだけ創作意欲を掻き立てられているということでしょうか?
井上竜馬 作りたい楽曲のイメージは、たくさんある状態でしたから、その高い意欲のままに制作に進んだ形でした。
――SHE’Sは9月末からストリングスを伴い、ホールツアーを予定していますね。その公演に合う作品をという狙いもあったのでしょうか?
井上竜馬 『Awakening』の制作を始める前から、ホールツアーは決まっていました。そのツアーのためにというよりも、ホールツアーでも映えるストリングスを入れた楽曲も作ろうとは、自分の中で思っていました。今作には、弦楽器を使った楽曲も2曲収録しています。
ただし、ストリングス自体はこれまでにもいろんな楽曲の中に反映させてきたので、いつも通りのスタイルと言ってしまえば、そうです。むしろ、高いテンションを持ったまま、どう作品に向き合っていけるかが今回は大事でした。
――それだけ掻き立てられる衝動があるのは素敵だな、と思います。井上竜馬さん自身、常に創作意欲を掻き立てるネタを探しているのですか?
井上竜馬 そうですね。実際、『Awakening』を作り上げてから、次作に向けて一人ロンドンへ行って新たな刺激も吸収してきました。常に刺激は求めています。
何か頑張る理由や意味であれたら
――『Awakening』を作る上での狙いはあったのでしょうか?
井上竜馬 前作の『プルーストと花束』を作るに際し、コンセプトを決めたうえで楽曲を作り続けてきたことへの反動があったのと、制作期間的にタイトなスケジュールを組んでいた理由から、今回はコンセプチュアルな作品ではなく、「現状のSHE’Sが純粋に生み出したい曲たちを集めた作品であり、これから生まれる曲たちの架け橋的な作品になればいいな」という意識で楽曲制作に臨みました。
――今の自分たちのリアルを次々とパッケージしていくというような?
井上竜馬 そうです。『プルーストと花束』が、過去の自分に焦点を当て、自らを省みながら楽曲を作っていたからこそ、『Awakening』では今の自分自身をリアルに詰め込みたかった。
――リード曲となった「Over You」の一節に、井上竜馬さんは〈あなたたちの意味になりたい〉という言葉を書き記しています。ファンの存在は、常に意識していますか?
井上竜馬 ちょうど『Awakening』を作るのと並行して、ライブハウスを舞台にした全国ワンマンツアーを周っていたのですが、その影響も大きくて。と言うのも、僕らの音楽が「目の前のお客さん一人ひとりの、何か頑張る理由や意味であれたらな」という気持ちを持ちながら毎回のライブに挑んでいけば、僕ら自身がファンのみんなに支えられている分、それを力にして返したい想いも常に持ち続けていたからです。その意識が、この歌には大きく反映されました。
――他のお三方は、『Awakening』に対して今、どんな手応えを感じています?
木村雅人 竜馬も言っていたように、制作期間的にはかなり短い中での作業になりました。それもあって、スタジオで時間をかけてじっくり煮詰めていくのではなく、竜馬から渡されたデモ音源をメンバーそれぞれで解釈した上でデータでやり取りをして、レコーディング現場で直接アレンジしていく形を今回は取りました。
制作していた頃は、タイトな時間の中、その場で感覚を研ぎ澄ませ、録音していたとはいえ、全体像が見えにくかった分、完成形に不安もありました。実際に出来上がった作品を聴いたとき、今までの作品のクオリティを超えていたので、逆に自信を持てた作品になりました。
服部栞汰 確かに限られた時間にも関わらず、とてもクオリティの高い作品を作れた手応えは感じています。今でこそメンバーみんなで上京し、東京での暮らしを始めていますが、『Awakening』の制作当時はまだ大阪に住んでいました。東京でレコーディングをおこなうときは、ホテルに泊まって制作しました。そのホテルの部屋でも、メンバーと一緒に目の前に控えていたレコーディングに向けてのアレンジのアイデアを話し合ったりしていました。
実際のレコーディングでも、最初にいつもの手癖を活かした演奏をおこない、これまで通りの僕たちらしさを持ったテイクを録って。その上で、それぞれの楽曲用に考えたアイデアを反映させたテイクをレコーディングしました。それらを聞き比べながら、どちらが今のSHE’Sの楽曲として良いのかを判断し、その上でベストな形を求めていく作業をおこない続けていました。結果、新しい自分たちの要素を取り入れることのできた作品になった手応えを覚えています。
広瀬臣吾 制作は、まさに短距離走のような感じでした。それゆえに無駄なことを考えている時間がなかった分、いつも以上に洗練された楽曲として作れたのではないかな、と思います。個人的には、スタイリッシュさが出た作品だと捉えています。
中間地点にいることも一つの正解
――歌詞についてですが、もともと伝えたい思いを胸に制作していたのか、それとも楽曲に導かれて生まれた想いだったのか。聞いていて両方の意識を感じました。
井上竜馬 そこは、楽曲によってまちまちでしたね。アルバムの最後に収録した「aru hikari」は、3年ほど前に弾き語り演奏のために作った楽曲で、それを今回バンド用にリアレンジ化しました。歌詞は今の自分の気持ちに書き換えたとはいえ、ベースにあるのは当時から抱いていた想いです。
「Don’t Let Me Down」や「Over You」は楽曲から導かれて出てきた言葉が多いですね。「Beautiful Day」はカラフルな楽曲なので、以前から試したかった、いくつかの色をモチーフにした想いを歌詞に投影した歌です。ここでは実際に4色を歌詞に書き記しています。
――「Someone New」は爽やかな曲調ですが、歌詞はとても切ない表情を持っていますね。
井上竜馬 そういうギャップ感は、自分の中で大事にしています。もちろん、爽やかな楽曲に爽やかな歌詞を載せても映えるのですが、そこにギャップを出した方が、よりインパクトは残るじゃないですか。それを狙っています。
――「Don’t Let Me Down」を筆頭に、今回の作品では、ファルセットを巧みに用いた楽曲も多い印象を受けました。
井上竜馬 確かに、ファルセットを用いた歌は多いですね。ただし、そこも意図的に使ったわけではなく、その楽曲の雰囲気にピッタリくるものを求めた結果、そういう歌い方を多用した形です。
――作品全体として解放感のある曲が多いですが、ファルセットのような軽やかな声を求めていたのでしょうか?
井上竜馬 そうなりましたね。バンド全体の意識が前へ前へと向いていることもあり、それが結果的に解放感のある曲に繋がっていきました。
――「In the Middle」では、どちらかへ振り切るのではなく、その真ん中を求める意識を歌詞にしています。「真ん中」に存在の意味を求めたところに興味を覚えました。
井上竜馬 僕自身が、一つの正解を見つけては「これはこうや」と歌うタイプではないのです。だからこそ、真ん中の視点も有りだな、と思いました。それに、人それぞれ、その人に合った選択肢があるように、自分の答えをいろんな人たちに押しつけるのはあまり良くないかな、と思いましたし。
今のSHE’S自体が、どちらかへ振り切った答えではなく、両極にある二つの答えを求められる状況も多い。ならば、そのどっちにも振り切れるよう中間地点に自分たちがいることも、僕らにとっては一つの正解だと思います。何より、SHE’S自体が、もっともっと先へ向かっていくための中間地点にいるような存在。そういう想いも重ね合わせています。
――明確な答えを提示するよりは、自分たちでもいろいろな選択肢を求めながら進みたいという?
井上竜馬 今のSHE’Sは見えない物事について歌っていることが多いです。断定することを避けているというよりは、自分たち自身も答えを探して、もがいているからそうなるのだろうと思います。「Don’t Let Me Down」で僕は<優しく見える強さを手にしたい>と歌いました。それは、まだ曖昧な中でそれを探しているという想いを言葉にしたものです。それも、自分がもがいているからこそ出てきた表現です。
橋渡しとなる作品にしたい
――完成した『Awakening』に対して今、どんな手応えを覚えていますか?
広瀬臣吾 つい最近メジャーでの活動も2年目に突入して、メジャー2年目最初の作品となるのが『Awakening』になります。1年目というのは、メジャーという環境にいかに慣れていくかに終始していた感がありました。それらの経験も糧にした上で作れたのが今作だと自分は感じています。それくらい、自分たちのペースをしっかりつかんだ上で地に足をつけて制作できたと思います。
井上竜馬 『Awakening』を作っている頃から、自分の中には次の作品の構想が頭の中に浮かんでいて、そこへ向けての橋渡しとなる作品にしたい気持ちで制作していました。だから、「目覚め」というタイトルを付けました。
実際に今作には、これまでのSHE’Sにはなかった新しい要素もいろいろ投影していて、ここで得た要素が次の作品に反映されていく。そうなるのは間違いないです。
服部栞汰 これまでの集大成でありながら、「ここからSHE’Sがどう未来へ向かっていくか」のスタートとなる作品になったと思います。「Don't Let Me Down」のように、ここまで洋楽テイストを前面に押し出した曲も初めてで、新たな表情を出せたので、より高いステージへ向かっていけると思います。そんなステップアップできる作品にもなった手応えを覚えています。
木村雅人 これまでの作品と聞き比べても、一音一音が研ぎ澄まされていると言いますか、すごくリアルに進化したサウンドになった手応えを覚えています。それくらい、本当に“今のSHE’S”を詰め込んだ作品になりました。
今回のSHE’Sは上品な感じで
――9月末からは、『SHE’S Hall Tour 2017 with Strings~after awakening~』がスタートします。以前からホールツアーを、しかもストリングスを従えてということは考えていたのでしょうか?
井上竜馬 SHE’Sの楽曲の持ち味としてあるのがピアノロックです。そのピアノとストリングスの相性の良さは昔から感じていたし、実際に楽曲制作においてもストリングスは不可欠な要素として取り入れ続けてきました。
いつかは弦楽団を迎えて、ホールでライブをやりたい気持ちは持っていました。いずれはフルオーケストラと一緒に、という目標を持っています。その為の最初の一歩として始めるのが今回のツアーになります。
この構想は、昨年には生まれていました。これからのSHE’Sは、ライブハウスとホール、その両方のスタイルでのツアーを上手く兼ね合いながら進めていこうと思っています。実際に、同じ楽曲でもライブハウスとホールでは聞こえ方も違ってくるはずですからね。
木村雅人 ホールツアーは楽しみしかないですね。それこそ、僕ら以外のメンバーもステージ上に居て一緒に音を合わせるわけじゃないですか。その経験が初めてで、楽しみです。もちろん、まったく不安がないか、と言ったら嘘になりますが。でも、SHE’Sの歌には絶対に生のストリングスが合う確信を持っていますし、ホールで映えるSHE’Sの音楽を自分たちも楽しみにしています。
服部栞汰 これまでもSHE’Sはストリングスを入れた楽曲をいろいろ作ってきましたが、今回のホールツアーでは、ストリングスを入れていなかった曲にも弦楽の音色を重ねてみたいなと思っています。今の時点では、まだ構想のみの段階ですが、でも、いろんな楽曲にストリングスを重ねることで面白い化学反応が生まれそうなだけに、僕ら自身もそこに期待しています。
広瀬臣吾 今回はホールツアーですからね、まずは自分たちも「品良くせなあかんなぁ」という気がしています。ですので今回のSHE’Sは上品な感じでいきます(笑)。
井上竜馬 まずは、SHE’Sの今までとこれからを詰め込んだミニアルバム『Awakening』に触れてください。ここには名曲ばかりが並んでいますから。
(取材=長澤智典/撮影=片山拓)
作品情報
2017.6.21 Release 4th Mini Album『Awakening』(読み:アウェイクニング) CDのみ、TYCT-60099 税抜1,700円- 収録楽曲: |