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渡辺俊美という人間としては「やって良かったな」と
――渡辺さんにとっては、このタイミングでこのような映画へ出演する機会に恵まれたというのは、偶然ではありつつも、ご自身で以前そういう経験をされたことを踏まえると、かなり意識の高いものになったのではないでしょうか?
いや、実はそこは別だったんですけどね…。演技の時に「普通はこうだな」と思うくらいの意識はありましたけど…。俳優としての演技って、やっぱり別ですね(笑)。初めてのことなので、どうやったら伝わるだろう? なんて疑問に対して、何が正解なのかという答えが全然見つからなくて…。
――では現場では頭が真っ白、という感じ?
真っ白というか…。常に気を付けの姿勢で、受け身(笑)。がむしゃらに取り組んで、さらにちゃんと自分の中では、失礼のないように、周りに迷惑を掛けないように、ただそれだけを思ってやっていました。息子の時にはこうだった、みたいなことを考える余裕もなかったです。まあ料理の時のやり取りなんかは「一般的にはこういう風な表現をするんではないかな」みたいな意見の交換はしましたけど、本当に余裕がなかったですね。
――悪戦苦闘しながら、周りの方々にも助けていただいた感じではありますか?
そうですね。本当に助けていただいたというか、皆さん本当に上手なんですよ。(武田)玲奈ちゃんなんかは他の映画でもやっているし。でもそんな中で一番救いになったのは、メガホンを取ったフカツマサカズ監督も、物語映画の制作が初めてだったということなんです。
――それはやっぱり影響ありましたか。確かにフカツ監督は、これまでMVの制作で実績はありますが、物語映画の作品は初めてということですが…。
そう。監督が物語映画が初めてという感じだったので、それがちょっと自分には気分的に楽でした。
――ほぼみんな同じスタンスで撮影に臨むことができたという感じでしょうか?
そうですね。それと、ずっと僕はスタッフさんと仲良くしたいな、って思っていたんです。音声さん、照明さん、カメラさんたち職人というか。撮影の時、僕らは休む時もあるけど、彼らは休んでいないんですよね。「みんなすげえ!」って思って。そういう人たちが映画を作っているんだな、って。だから撮影は逆に僕らがちゃんとやらないと、この人たちは仕事にならない。そしてその時に、その人たちがイライラしないように(笑)、頑張ろうという思いが自分の中に芽生えました。
――今回の経験をされた所感として何か”作品を作った”という満足感もありましたか?
確かに。俳優としての自分としては「もう真っ直ぐやった」っていうのもあるし。渡辺俊美という人間としては「やって良かったな」という率直な思いはありますね。というのも、50歳になって新しいことができる機会なんてなかなかないし、実際にそのチャンスの中で新しい自分を見つけられたということもあるし。ただ本当に俳優はずっとやりたくない、ということは以前から自分で息子にも周りにも言っていたんです。もしやるんだったら、三島由紀夫か萩原健一をやりたいと(笑)
――それはインパクト大ですね…(笑)。映画に出演されたことで、ご自身の中で意識が変わった点などはありますか。近年、ミュージシャンの方がドラマや映画に出演されるケースも増えていますが…。
同時期に若旦那(湘南乃風)がテレビに出ていて、よくライブで熊本に一緒に行ったりしていて、そういう話もちょっとしました。でも彼はすごく真面目なんです。というかミュージシャンってみんな真面目なんです、やっぱり。続けている人はやっぱりどこかでそんな意味では偏ったりとか、いろんなことをしています。ただ僕は違うなと、ずっと去年の暮れまでは思っていたんです、「俺は絶対やらない、無理だ」って、自分の中では思っていたんです。
――では、機会があれば…。
そうですね、二枚目は嫌ですけど(笑)、悪い役はやりたい。まあ「お父さん」役は全然なんですけど、キザな役は絶対嫌! 恥ずかしいですし。今回は普通のお父さん役だったので「ああ、良かった!」って(笑)。
――先程も「娘、最高!」とチラッと言われていましたが、娘の方が良かったとも思われましたか?(笑)
思いましたね(笑)。息子も最高なんですけど、息子だと「男と男」なので、ある程度の共通点もあるし。困ったらとりあえずは下ネタを言えばいいわけで(笑)。でも女の子が相手だと、親子の関係の中でどこまでの境界線があるのかが、わからないと思うんです。僕も今、2歳半の娘がいるんですけど、これから娘に対しては、どこまで言えるのかな、とも思う。
だからこの映画の娘さんはすごいですね。このストーリーはお父さんじゃなくて、娘が偉いんです。だってちゃんとお父さんに寄り添って、その努力を認めている。大体の親って弁当を作って出す度に「俺が作ったんだから」みたいに思いを振りかざすケースが多いと思うし。
――それは確かによくありがちなケースですね。
だからこの映画の視点は、ある意味ニューウエイブですよ。もうパンクス。今までの概念をつぶしたパンクスだと(笑)。
1人でも見たいという人がいれば、届けたい
――片平さんのお話をうかがいたいんですが、今回の件に関しては、片平さんともお話はされたりしましたか?
そうですね。まあメールなんかをしたわけではないけど。里菜ちゃんは、震災後にずっと福島に行っていたころに、初めてライブを見てからの付き合いなんですけど。
この子は僕よりも売れているんですけど、彼女のことを「もっといろんな人に知ってもらいたいな」という思いもあるんです。それでこの話が来たという話を、ちょうど3月のシングルの発売日が過ぎたころだったかな、ちょっと照れくさかったけど「よろしくお願いします!」って言いました。
――「なまえ」を聴かせていただきましたが、ストーリーと人物関係がとても一致する上に、そこに想いのようなものが感じられるなと感銘を受けました。
でしょ? 全然違う話だけど、ちゃんとした家族とか愛情、そういうものが全部詰まっていて、合致していると思うんです。全然違う話が合致しているということはなかなかないと思うんですが。その中でもやっぱりキーワードに家族を挙げているということは強かったのではないでしょうか。
――渡辺さんは、撮影前にこの曲を聴かれて、何かそのイメージを撮影に向けて表現しようという思いは…。
もちろんそれどころではなかったです、自分の中では(笑)。ただ本当に、歌ってそんなものだと思う。実際、自分がそんな風に家族のことを歌っていても、リリースしたらそれは最初にお客がどんな受け取り方をしてもいいと思うんです。
ただ僕は単にそれを膨らませる、映画というのはそういうことだと思うし。本当に優しい感じの歌ですよね、素直で。そういうところに僕は感動しました。
――では、最後に映画についてのアピールの一言を。
より多くの人に見てもらうというところで、僕自身、何ができるのかというところも踏まえると、例えば僕がライブをやっているようなところとか、いろんなちっちゃいところでも、全国のいろんなところで見せたいと思っています。1人でも見たいという人がいれば見せたい。だから自分の謳い文句としては「決して1人では見ないでください」(笑)。2人以上で見てください、ってね。
今はこの映画を多くの人に見てもらおうと、クラウドファウンディングなんかもおこなわれているけど、それはそれで一つ成功すればいいなと思う一方で、僕としては、僕ができることをやりたい。水戸や福島とかでも自分で持っていって、いろんなところに届けて、いろんな人に見ていただければ、自分としてもすごく嬉しく思います。
(取材=桂 伸也)
公開情報
『パパのお弁当は世界一』 6月10日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷で公開 監督:フカツマサカズ |
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