歌詞の想いを大切に、平成生まれの山田姉妹 昭和の名曲を歌う
INTERVIEW

歌詞の想いを大切に、平成生まれの山田姉妹 昭和の名曲を歌う


記者:長澤智典

撮影:

掲載:17年02月23日

読了時間:約10分

メジャーデビューを果たした山田姉妹(左が麗、右が華)

 双子ソプラノデュオの山田姉妹が22日に、カバーアルバム『あなた ~よみがえる青春のメロディー』でメジャーデビューした。姉の華は、東京藝術大学声楽科を卒業。在学中に専攻ごとに一番優秀な学生に贈られる「安宅賞」を受賞。2011年には「ミス鎌倉」にも選ばれている。妹の麗は、国立音楽大学声楽科、オペラソリストコース、共に首席で卒業。同じく一番優秀な学生に贈られる「武岡賞」を受賞。女優としてTBS系『3年B組金八先生』などに出演した経験もある。2人の音楽の才能には非凡なるものが宿っている。「『昭和に生まれて、昭和の時代に、昭和のうたを歌いたかった』というほど、昭和の楽曲を愛してやまない山田姉妹。選びに選んだ13曲。満を持してのデビューアルバム」と記すように、ここには、昭和の時代を彩った名曲たちが、山田姉妹の美しいハーモニーによって新たな息吹を持って輝いている。何故、彼女たちは昭和の曲を歌おうとしたのか。その背景も含め、山田姉妹の魅力に迫った。

昭和時代の楽曲が持つ雰囲気が二人にはしっくりくる

インタビューに応える山田姉妹

――山田姉妹として活動を始めたのはいつからになるのでしょうか?

山田華 小さい頃から一緒に歌っていたので、いつ頃からと具体的になると難しいんですけど…。4歳のとき、一緒にピアノと歌を習い始め、2人ともピアノよりも歌うほうが好きになり、その頃からちょこちょこと歌う機会はありました。

 ただ、高校からは別々の学校へ進学して、お互いに音大へ進みながらもそれぞれ目指すところが異なっていて、違う大学に通っていました。私たちに関しては性格も異なるように、双子だから全部が一緒というわけではなかったですね。そこは二卵性の双子という理由もあるのかも知れません。

山田麗 互いに趣味も好きなことも異なるんですけど、唯一歌うのはお互いに好きなこと。小さい頃から、「二人で歌手なりたい」というのは共通の夢でした。

――山田姉妹は、クラシックやオペラから歌謡曲、童謡、ディズニーやジブリの曲などまで幅広く歌っていますね。

山田華 ジャンルの分け隔てなく歌い続けています。二人とも小さい頃から昭和の歌謡曲が大好きでしたし。クラシックに関しても、互いに音大を受験するためにと高校時代から勉強を始め、そこから触れ始めました。

山田麗 音大での歌の基礎はクラシックだからこそ、それを学びながらも、お互いにいろんな楽曲を歌っていました。クラシックやオペラに関しても、音大へ行ったら「なんて面白いんだ」と、そのジャンルの楽しさに気づいて没頭したり。だから、今のようにポップスを歌うのも、その中にオペラの要素を活かして歌うのも当たり前のこと。そこは、自分たちだからこそ表現できるスタイルとして伸ばした面もありました。

――なぜ昭和歌謡に惹かれたのかも凄く気になります。

インタビューに応じた山田華

山田華 小さい頃から、家族でどこかへ出かけるときは、よく父親の運転する車で移動していたんです。移動中、父は必ず昭和の楽曲をカセットに編集して録音、それをずっとカーステレオで流していたんですね。私たちは、それをエンドレスで聴いていたこともあって、小さい頃からそういう曲が体に馴染んでいました。互いに歌謡曲から離れていた時期もありましたが、山田姉妹として活動をしていくなかで再び歌謡曲と触れ合い始めたように、そこには不思議な巡り合わせを感じています。

山田麗 私たちは平成生まれで昭和世代じゃないです。なのに、懐かしさや、あの頃を思い出す感覚を昭和の歌で感じてしまうように、当時の楽曲が持つメロディや歌詞、曲の釀し出すものが2人にはしっくりくるんでしょうね。

――昭和時代の楽曲、歌謡曲やフォーク、ニューミュージックの歌詞はとくに、聴いていて心をキュッと揺さぶる情緒を覚えます。

山田華 今の時代は「リズムに合う言葉」が多いと思うんです。昭和時代の楽曲には、「言葉を伝えるためのメロディ」が活きているなと感じています。私たちも「歌詞を伝えたい」という気持ちが強く、「言葉を伝えるためのメロディがあるんだよ」ということを表現のテーマにしているように、あの頃のゆったりとしたメロディや、身近なことを歌いながらも情緒の深い歌詞が大好きなんです。

――山田姉妹の場合は歌詞を活かす歌い方をしていると言いますか、歌詞に綴られた想いをどれだけ触れた人たちに情感を持って伝えるか。そこへ主眼をおいてカバー歌唱をしているのでしょうか?

山田華 楽曲を山田姉妹のスタイルとしてカバーしていく場合、音程やメロディをどう活かすかはもちろんですけど、何よりも「この歌詞はどういう意味だろう?」という話し合いを深くしていきます。カバーするときも、歌詞に対する互いの気持ちを一致させた上でレコーディングをしています。私たちが歌うことで、その曲の歌詞に込めた想いが届けばいいなと、いつも心がけています。

山田麗 私たちの歌を通して、その曲の歌詞が持っている想いが一番に伝わったのならそれは何よりも嬉しいことです。音楽を形作っていく中、唯一歌だけが言葉という表現手段を持っている。逆に捉えれば、言葉(想い)を伝える手段として歌は存在していく面もあると私たちは捉えています。そういう気持ちで、アルバム『あなた~よみがえる青春のメロディー』の制作にも臨みました。

「ひこうき雲」を録っているときに亡くなった同級生の顔が浮かんだ

山田麗

――『あなた~よみがえる青春のメロディー』に収録した「ひこうき雲」を聞いていたら、あまりにも切なく悲しい想いが2人の歌声に導かれ甦り、ぐっと込み上げる感情を覚えました。その気持ちって、荒井由美さんの楽曲を聴いたときの感動とは異なる、山田姉妹の歌声が「ひこうき雲」へユーミンとは異なる魅力や心揺さぶる想いを注ぎ込んだからだと感じました。むしろ、そうやって捉えてゆくことが、山田姉妹のアルバム『あなた~よみがえる青春のメロディ』を聴くうえでの楽しみ方じゃないですか?

山田華 その楽曲を聴く人の気持ちや心模様次第で、歌詞に込めた意味の解釈が変わっていくのと同じように、アルバム『あなた~よみがえる青春のメロディー』へ収録した曲たちも、オリジナルを作った方々とは違う解釈をしながら歌っていく面も少なからずありました。だから、私たちなりの解釈が伝わってそう感じていただけたのなら嬉しいことですし、そうやって聴く人や捉える人それぞれでいろんな風に解釈の広がっていくことが、歌の良いところだと思います。私たちも歌詞に込めた想いに触れながら「ひこうき雲」を歌っていたら、泣きそうになっていました。

 実は昨年、同級生が亡くなりました。「ひこうき雲」をレコーディングしたのは、そのことがあってすぐの頃。この歌詞を受け止め歌っているときに、2人とも亡くなった同級生の顔が浮かび、すごく気持ちを込めながら歌っていました。

山田麗 「ひこうき雲」はとても悲しい歌詞なんですけど、でも、「今は空の上で幸せでいるんだ」と自分に言い聞かせてる辺りとか、とても心の助けになる歌詞だなと思いました。そういう気持ちを実感しながら、自分自身へも言い聞かせるように私たちも歌いました。

――それぞれの楽曲の歌詞をお二人なりに解釈して歌うことで、どの楽曲も、原曲とは異なる気持ちで歌詞を受け止められたんですね。さだまさしさんの「雨やどり」など、まるで体験談のような感覚で胸に届いてました。

山田華 私たちも、自分たちの体験談を歌っているような感じで歌いましたからね(笑)。

――太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」も良かったです。

山田麗 最後はお別れをしていく悲しい結末なのに最後まで明るく歌いあげるところが“グッ”とくるというか、そこがこの楽曲の好きなところなんです。

山田華 今の時代でも有り得ることですよね。女子会をしていても、そういう話はけっこう身近にもあります。そういう悲しい結末の物語を、明るい曲調や軽やかなメロディに乗せて歌うことで、余計に胸へ“グサッ”と想いが刺さってくるんだろうなと感じました。

――都会の生活に染まりすぎて、結果、故郷に残した彼女を振ってしまう男性。女性から見てどうなんでしょうか?

山田華 初めて触れた都会暮らしにきっと興奮したんでしょうね。男性も女性も、どっちも理解できる気持ちはあります。

山田麗 別れの最後に「木綿のハンカチーフください。それで涙を拭くから」と言った女性の潔さは恰好いいなと思います。そんな綺麗にお別れなんてなかなか出来ないからこそ、そう思うんでしょうね。

 それと、今は遠く離れていてもスカイプを通して互いの表情も見れれば、LINEなどで簡単に連絡を取れてしまう。でも、あの頃はお手紙しか連絡手段がなかったような不便な時代。その不便さがあるからこそ、余計に互いの気持ちが強く惹かれあっていたと思うんです。そこに惹かれる面が私にはありました。

カバーを歌うことで解釈が変わった

それぞれ歌以外ではキャラも違うという山田姉妹

――あの頃の歌は、身近な幸せを求めたり、それを求めながらも叶わないことを歌った楽曲も多くありました。

山田麗 小坂明子さんの「あなた」もそうですよね。暖炉のある家の外では小犬が走っていたり、坊やの隣にはあなたがいたりと、最初に「あなた」との小さな夢を明るく歌うんですけど、それは二人の望みであって、叶わなかったと。何気ない日常がわたしの夢だったと悲しいことを最後まで明るく歌うのも、昭和の歌の魅力だと私たちは捉えています。

山田華 「あなた」は母がすごく好きな歌で、初めて買ったレコードなんです。

――原曲とは異なる表情で楽しめた面では、吉田拓郎さんの「結婚しようよ」はまさにその感覚でした。

山田華 この楽曲を入れようと推薦してくださったのは、周りの方々なんです。二人とも、「吉田拓郎さんが男らしさを前に出して歌っている楽曲を、私たちが歌って本当に説得力のある曲になるのか」と、最初はすごく心配をしていました。でも、実際に歌ってみたら可愛らしい楽曲にアレンジしてあれば、二人とも歌がしっくり身体へ馴染んだように、新しい山田姉妹の姿を築けた楽曲になりました。

 他にも、ペギー葉山さんの歌った「切手のないおくりもの」は私たちが幼稚園で習った歌で、あのころ大好きでよく歌っていました。その楽曲を約20年の時を経て歌い、CDという形に出来たことが嬉しくて、不思議な巡り合わせを覚えています。

山田麗 赤い鳥さんの「翼をください」も音楽の授業で習った曲だったよね。

山田華 そう。あの頃は「翼をください」を、翼をもらって飛びたいなと願う楽しい歌くらいの解釈だったんですけど。実は、結構もがいたり、辛いことがあった上での想いを綴った歌なんだと、今回歌うことで解釈も深みを増しました。

山田麗 それは、どの曲にも言えることだと思います。25歳という今の私たちの視点で受け止め、捉えた上での想いで今回は歌いましたが。10年後や20年後に歌ったとき、今とはまた捉え方や解釈が変わっているかも知れません。でも、そこが歌うことの楽しさであり、楽しみなんだとも思っています。

小学校の卒業スピーチで二人とも「二人で歌手になりたい」

インタビューに応える山田姉妹

――デビューを控えた今、どんな心境ですか?

山田華 デビューを前にして、まだ夢の中にいるような感覚なんですけど。私たちは、小さい頃から「二人で歌手になりたい」という夢を掲げていたように、小さい頃の自分たちに「夢が叶ったよ」と、まずは伝えたいです。

山田麗 小学校の卒業スピーチで二人とも「二人で歌手になりたい」と言ってたように、十数年越しにその願いが叶うことが不思議な感覚でもいます。私もまだ夢の中にいるような感覚がありながら、『あなた~よみがえる青春のメロディー』を作りあげたことが本当に嬉しいんですね。しかも、自分たちの歌がCDという形になるのも初めてで、肌身離さずっと持っていたい本当に大切な宝物が生まれました。特にこのアルバムは、次の世代にも伝えたい歌や想いの詰まった作品です。ぜひ、いろんな方々に聴いていただき、いろんな気持ちに共有してもらえたらなと思います。

山田華 3月20日には、王子ホールでデビューリサイタルもあるので、ぜひ私たちの歌に触れてください。その前にもライブで歌う機会は作っていくので、ぜひ会いに来て欲しいです。そして嬉しい気持ちや、切なくて胸に“グッ”とくる感情までいろんな想いを感じていただけたら嬉しいです。

(取材・長澤智典/撮影・松尾模糊)

山田姉妹 / あなた(コメント映像付)

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