ACIDMAN、バラードに染まる群影 曲の存在意義を確かめ合った夜

バラード中心のセットリストだからこそ、バラード曲の存在意義、メッセージ性がより際立った(撮影・藤井 拓)
3人組ロックバンドのACIDMANが21日、東京・青海のZEPP TOKYOで、特別公演『ACIDMAN 20th Anniversary Fans’ Best Selection Album “Your Song” リリース記念プレミアムワンマンライブ』を開いた。結成20年、メジャーデビュー15年を迎える彼らは11月23日にさいたまスーパーアリーナでおこなう主催フェス『SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”』に向けて現在、ツーマンツアーを展開中。その合間に企画された本公演は、昨年発売のベストセレクションアルバム『Your Song』収録曲を届けるもの。ファン投票で収録曲を決める同作は、その多くの楽曲がバラード。よってこの日のセットリストはバラードがほとんどだったが大木伸夫(Vo&G)は「想いが乗るのはバラード」「昔はバラードは敬遠していたけど今はその魅力が大きくなって。音楽はジャンルではなく思想、それを伝えていきたい」との趣旨を述べ、それぞれの思いや考えを乗せた楽曲を捧げた。実にアンコールを含め23曲3時間半、ストリングスも加わり、まさに壮大且つエネルギーに満ち溢れた夜だった。
繋ぐバラード
この日、何度も口にした感謝の言葉。公演の終盤、フロントマンの大木は、この世に存在することの奇跡などの考えを説いてから曲を歌っていた。感情むき出しの混じり気のない音楽が彼らの特徴とするならば、その純粋な思想から生まれたACIDMANのバラード曲の数々は、生と死、天と地、心と体を繋ぐ糸のようなものだろう。バラード中心のセットリストだからこそ彼らのバラード曲の存在意義がより際立った――。
観客でびっしりと埋まった場内。高く作られた天井には靄(もや)がかかっていた。そのなかで静かに流れるインスト楽曲は、高揚感漂う観客の話し声で消されそうだった。始まりの時間が近づき、溢れていた観客が中央に押し寄せるように動き出す。その光景は川の流れのよう。そうしたなかで突然、明かりが落とされる。歓声と拍手が沸く。逆再生のメロディが流れ、複数の青色のスポットライトが人々を探るように明かりを巡らす。次第に大きくなる音はやがて規則正しく鳴る手拍子へと変わる。
突然、全ての音と明かりが消える。ゆっくりと青色の明かりが蘇るが照度は低く、場内は暗いままだ。そのなかで優しい歌声、そしてギターの音色が響く。ようやく曲の全貌が見えてくる。最初に披露したのは「今、透明か」。そこはまさしく夜の海だった。月光に照らされるように、青色のライトを浴びた観客の手は波を打つように綺麗に揺らぐ。彼らはそのなかで静かに燃えていた。
幻想的な空間のなかで曲を届けたあと、大木が短くあいさつ。「今年1回しかないプレミアライブ。バラードを中心に届けていきます。最後まで盛り上がっていこう」。ドラムが後を繋ぎ、やがて歪んだギターが入り込む。2曲目は「風、冴ゆる」。夜が明けるように赤と青の明かりが目まぐるしく入れ替わる。キレのあるギターカッティング。そのなかで大木は感情を言葉にぶつけるように歌い叫ぶ。そして、間髪入れずに3曲目「FREE STAR」へ。佐藤雅俊(Ba)が手拍子をあおる。それに負けじと大きな音で返す観客。3曲目ですでに頂点に達していた。天井に設けられたミラーボールは水しぶきを上げるように観客の手を真っ白に光当てていく。激しく奏でられるサウンド。それに呼応する赤と黄のライト。手拍子に加えて飛び跳ねる観客。その興奮を少し冷ますように4曲目にはしっとりとした「リピート」が届けられた。彼らのステージバックには明かりのコントラストによって竹林のような景色が浮かび上がる。
楽曲に敬意
一息をつくように大木はこの公演の企画意図を説明した。もともと企画されていなかったが会場が空いたこともあって急きょおこなうことになったこと、チケットは即完売したこと、抽選に落ちてこの日見れなかったファンのためにも盛り上がろうとも述べた。また、活動20周年を迎えることに感謝の想いを伝えるとともに、ファン投票の結果、収録されたほとんどの曲がバラードであったことに触れ、「バラード中心曲です。覚悟してください。どっぷり浸かって下さい」と投げかけた。
凄まじい勢いで届けられた冒頭4曲に対し、5曲目「式日」以降は曲をしっかりと伝えるように、時折、MCを挟みながらも曲を終えてから次の曲へと移っていった。ファンもその意思を受け取っているかのように、イントロやタイトルコールでは歓声を上げるも、ほとんどの曲で音が鳴り終わるまでしっかりと聴き、無音になった時に初めて大歓声と大拍手を送った。その姿は音楽に敬意を示しているようだった。
爽やかなメロディにのる「式日」、一方で深層部に触れるような「静かなる嘘と調和」。海のなかで浮き沈みを繰り返すようなセトリが中盤には組まれた。昭和歌謡の名残を感じさせる「酸化空」はインディーズの頃に発表した作品。同曲を歌い終え大木は、ライブに100人しかいなかった当時を回顧しながら「色んな人のお蔭でやってこれた」と感謝の言葉を口にし、その想いを次曲の「stay on land」にのせた。
静かに、そして穏やかに始まる曲は時間の経過とともに激しさを伴っていく。佐藤も、浦山一悟(Dr)も同様に、一音一音に変化を付けていった。そして大木の歌声にも熱が入る。観客も同じだった。ステージに吸い寄せられるように手をめいいっぱい伸ばしてみたり、大歓声をあげたり、飛び跳ねたりと思い思いに呼応した。特に12曲目「アルケミスト」ではこの日一番の凄まじい大拍手を鳴らせた。
テーマのあるバラード
そして彼らのバラードにはテーマがあった。デビュー当初は敬遠していてたというアコギやバラードの魅力を年を重ねるごとに感じるようになったといい「音楽はジャンルではなくて思想だと思う。世界を変えるのではなく自分が変わること」との趣旨を述べた。そのメッセージのあとに送った13曲目「季節の灯」では、柔らかみのあるアコギの音色にのせ、「生」は限りがあるからこそ日々は充実するとの思いを届けた。一方の14曲目「最期の景色」は「死」を歌った。そうした曲を大木は、丁寧に意図を説明してから歌った。
一方、深みのある曲の合間に届けられたアッパーな「ある証明」や「培養スマッシュパーティー」では彼らのバラードで培養したエネルギーを吐き出すかのようにとてつもない熱量の大歓声を浴びながら激しいサウンドと歌声で飛ばしていった。
そして終盤に差し掛かり、18曲目「OVER」以降はストリングスも加わった。壮大に贈られる曲。冒頭の夜の海を思わせる「今、透明か」に時間が戻ったかのような世界観は、ストリングスの深みのある音を重ねるごとで更に深化した。曲本来の持つ意味がより強調されていた。そして、逆再生のメロディは効果的な役割を果たした。眩い星のヒカリを浴びた「世界が終わる夜」、そして「ALMA」を、曲前半はしっとりと、後半は激しく捧げて本編は終了した。
鳴り止まないアンコールに応えて再び登場した彼ら。ストリングスを加えての披露はこの日が初めてだったという2月8日発売の新曲「愛を両手に」、そして、再びギター、ベース、ドラムの三重奏に戻ってから昨年発売の「最後の星」を捧げ、最後に「バラードの趣旨とは違うけどいいかな!」と大木が投げかけ、ハードロックナンバー「Your Song」をアグレッシブにならした。張りつめた空間をぶち壊すかのように激しく歌い、激しく奏でた。メンバーも観客も残されたわずかなエネルギーをここにぶつけた。激しく揺れ、激しく叫び、激しく踊るその光景はまさに小さなライブハウスのようだった。しかしその“群影”は20年前とは異なる。老若男女、幅広い層で埋まった場内。そこには爽やかさが溢れていた。(取材・木村陽仁)
- 撮影・藤井 拓
- 撮影・藤井 拓
- 撮影・藤井 拓
- 撮影・藤井 拓
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- 撮影・藤井 拓
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