4人組ロックバンドのJUN SKY WALKER(S)が、14thアルバム『FANFARE(ファンファーレ)』を9月7日にリリースした。1988年にメジャーデビューを果たし、独自の強いメッセージを持った音楽で一世を風靡した彼らは、1997年に解散。しかし、2007年に復活、以後、宮田和弥(Vocal)、森純太(Guitar)、寺岡呼人(Bass)、小林雅之(Drums)の4人で精力的な活動を続けている。来年にバンドが迎えるメジャーデビュー30周年イヤーを目前に作られた今回のアルバムは、粗削りな8ビートで強いメッセージを伝えるといった、これまでのストレートな彼らのスタイルから趣を変え、彼ららしさを残しつつもスカ、アコースティックバラードなど今までに見られなかった新鮮味を見せ、ベテランというステータスに甘んじない積極的なチャレンジを推し進めている。今回、そんな進化を見せた彼らの、アルバム制作に込めた思いを、今回はギタリストでコンポーザーの森純太に話を聞いた。
「進化したい」という部分と「らしさを残したい」という部分
――今回のアルバム『FANFARE』は、2007年のジュンスカの復活後、4枚目のオリジナルアルバムとなりますね。9月7日に渋谷でおこなわれたアルバムのリリースイベントでも少し宮田さんが触れられていましたが、何かこれまでのアルバムとは違った趣向があるのでしょうか?
再来年がちょうどメジャーデビュー30周年で、それに向けてという思いもありましてね。実は30周年までの間にもう一枚、アルバムを出そうと考えているけど、ともかくそこに向かっての「ファンファーレ」というかスタート、初期衝動、初心忘れるべからずというところを、もう一回やろうという思いを込めているんです。
――具体的に今回のアルバム作りに向けて、何らかの狙いはあったのでしょうか?
そうですね…。前作よりも、もうちょっとバリエーションを広げようと考えて曲を書いていったところとか。
――バリエーションという意味では、新たなチャレンジという点がいろいろあったと思いますが、それを今このアルバムでやろうと考えたきっかけはあったのでしょうか?
きっかけというほどのものではないけど、前作は全体的にロックであまり方向性がぶれていないような、一曲一曲近い感じのロックのカラーで意図的にまとめた感じにしていました。だから敢えて対照的に一曲一曲を表情の違う感じの曲にしようと考えたんです。
――それでは、どちらかというと30周年というイベントに向けての気合いもありつつ、基本的には3枚目に続く4枚目という意味での、シンプルな方向で作られたということですね?
そう、まあバランスというかね。前回はこんな感じだから今回はこんな感じ、というバランスで作ったんです。
――リリースイベントでは、宮田さんが「ギターは特に頑張ったよね」と言われていましたが、そういう意味では、曲作りでも、演奏のほうでもいろいろと…。
確かに。まあ基本的に曲作りは僕一人ですけど、今回はアレンジャーも組んで、どういうギターを入れるとよりバリエーションを広げられるかな、という挑戦をしたんです。僕一人だけでやっていると、本当に今までの、過去十何枚のアルバムと変わらなくなっちゃうんですよ。その意味で新たな知恵を導入して今回はチャレンジしているので、弾き慣れないフレーズが出てくるんだけど、そこは自分の幅を広げるためにどんどん挑戦しました。
――ジュンスカの皆さんも、それぞれの活動でプロデュース等もされていると思いますが、今回は作詞、作曲、プロデュースなどで外の方との共同制作という形をとられていますね。敢えてそうされた理由は何かあったのでしょうか?
「進化したい」という部分と「らしさを残したい」という部分ですね。客観的な部分というか。自分たちだけだと「らしさ」は残るけど、どうしても進化できないし、逆に僕は「らしさ」から逃げ出したいというか「こんなところだけじゃないんだぜ」というところを見せたいところがあるんです。
そこで「ファンファーレ」を一緒に作ったNAOKI-Tくんや、2曲目の「裸の太陽」を一緒に作った野村陽一郎くんが生きてくるわけなんですが、彼らはジュンスカのファン世代で、彼らから「これですよ、もうこれこそがジュンスカらしい!」と言われると「あ、やっぱりそれでいいんだ」と気付いたり、逆に新たな観点も見えたり。
――全体的にシンプルというか、ライブ感の強いサウンドのイメージですが、確かに細かいところで多彩なテクニックを用いられていますよね。
そうなんです、自分では考えられないことも多かったですしね。
――ちなみに今回のアルバムに向けては、どのくらいの曲数を準備されたのでしょうか?
全体の11曲に、プラス4~5曲だったかな。
――アルバムの準備の際には、大体このボリュームがあれば出来るな、というところはだんだんと見えているのでしょうか?
そうですね、それで成立するときもあるし。今回は特に、バリエーションを広げたいという思いもありましたから、たまたま事前に多めに作ったけど、後から「この要素が足りないな」と新たに作ることもあります。
――バリエーションを広げるという意味で、制作上で特に大きな壁になったところはありますか? 事前に多めに曲を準備されたということですが、後から加えた要素などもなかったのでしょうか?
いや、それは特にはないですね。特に追加しようというものも、なかったです。
――それはこのメンバーの中である程度、信頼関係が出来ているから、というところが大きいのでしょうか?
まあそれもあるけど、常に満点のアルバムは出せないと思っているし、「何かが足りない」と思いながら、それはそういうものかなと考えて、例えばライブでやっていくうちに肉付けされたり、激しい表情の曲に変わったりするような方向にしたほうがいいかな、と。そういう意味では僕らはライブバンドだし、ライブで変わっていくのがいいかなと思っています。
だから今回のアルバムにしても、構成自体については特に問題なくても、正直言えば「何かもうちょっと付け足せば」と改善点はいろいろあるような気もします。でもそれはまた次のアルバムでやっていけばいいという、僕はそういうバランス感覚でやっています。
――今回は「ファンファーレ」というタイトルトラックもあり、この曲は現在のジュンスカのイメージにそのまま大きくつながってくるのかな、という感じもありますが、「ファンファーレ」という曲が一発目の曲になるというのは、最初から考えられていたのでしょうか?
そういう気持ちはありましたね。「ファンファーレ」に詞が乗った時点で、いろんな部分が自然に決まったんです。アルバムタイトル、ツアータイトル、そして一曲目という感じで。全体的にも8割くらい出来上がってきた後に出来た曲だったんですけど、詞を宮田が書いてきたときに、結構アルバム一本が見えてきたというか、これがあったことで全体的にギュッと締まったものになりました。「じゃあこの曲とこの曲の、この順番で、この一枚にしよう」という、芯が見えてきた感じではありますね。
――なるほど。作詞はメンバーそれぞれで分担されていますが、担当を決める際に意識合わせみたいなものをされたりしているのでしょうか? 例えば曲のアイデアを出されたときに、イメージを決めて「これはお前」「これはだれだれが…」と担当を決めるというか。
その辺りはなんとなくですね。たまたま「夏の花」は、僕が詞のイメージが出来ていたんで「じゃあこれは俺が書くわ」と、プロデューサーと話し合いながら書いたんです。小林の「出会いとポケット」は、小林が自分で「これを書きたい」と言ってきました。
――それでは特にどういうテーマでという感じではなく、自然に「書きたい」というところでメンバーが手を挙げて、それぞれ思うままに詞を描いていくという感じなのでしょうか?
そうですね。あとは今回、プロデューサーの意向で「年齢を感じさせるものを入れない」というポリシーをもらい、その上で詞が完成しました。例えば「体の具合が悪い」とか「結婚して子供がどう」とか、具体的ですけど(笑)、そういうものを敢えて書かないで作っていこう、という意識はしました。
「ファンファーレ」は、実は新しい
――アルバムのタイトルチューンでもある「ファンファーレ」の詞のイメージは、私個人としては「自分の進退に迷いを感じている人を後押しする」ようなイメージ、メッセージを感じました。対照的にアルバム全体を聴いて感じたのは、リスナーに対していろんな位置づけというか、聴く人の視点に様々な位置づけを設定しているようにも見え、それはまさしく先程言われたポリシーにつながるものではないかと思いました。
まあそういうルールを作ったほうが、というかルールを作らないと、自然と自分たちは等身大の目線で書いてしまうので、一つの目線に凝り固まりがちになるかなと思うんです。
――そんな中「ファンファーレ」は、「らしさ」という点では、かなり大きな存在ですよね?
そうですね。でも「ファンファーレ」は、実は新しいんですよ。ジュンスカらしいんだけど、あんなふうにサビでリズムが変化する曲はなかったし、やっていても楽しいし、自分の中ですごく斬新でした。
――この曲のリズムのアイデアは、もともとの段階で考えられていたものですか?
そうですね、NAOKI-Tくんと「こんな感じがいいんじゃないか?」とか、お互いのアイデアを出しながら考えました。
――先程、「ファンファーレ」について「これが出来たことでいろんな部分が固まった」という話をうかがいました。それは「ファンファーレ」というキーワードや詞に描かれたメッセージ的な内容に大きな要因があるかと思いましたが、その意味では曲もかなり大きな要因があると考えられますね?
もちろん。曲も詞も、どっちも大事ですよね。まあ一般的にそうだと思いますが、大事でしょう。曲が先なことが多いので、100%のいい楽曲に作り上げることに専念して、良い歌詞が乗ってくればと思っています。
――全く違ったニュアンスの歌詞が上がってきてしまうこともありますか?
いや、それはほぼないですね。メロディが呼んでくるというものがあるので、それを聴いて書き出すと…前作『BACK BAD BEAT(S)』をリリースしたときに小林が言っていたんだけど「森くんの曲って、メロディに詞を書こうとすると“こんな感じ”になっちゃうよね」というのが、新しい意見としてもらえたんです。まあ宮田とは、これでずっとやってきているんですけどね。
――メロディラインに個性というか「こうなる」というような意思が見えるということでしょうか。今回は曲数が11曲ありますが、森さんご自身として特に気に入っている曲はありますか?
そうですね、まあ今までにないパターンというか「夏の花」と「Runaway Boy」。マイナー調の曲って僕はあまり書かないんです。それとスカテイストの「スターマン」。だから推しというよりは、僕の中の新たな扉を開いた、引き出しを広げた感じの曲ですから。メンバーに聴かせたときにも「いいじゃん?」と言ってもらえたし。
――ちなみにそのスカにはまったきっかけとは、どんな経緯だったのでしょうか?
20歳くらいの頃に、イギリスの2TONEというレーベルを中心にThe Specials、Madnessといったバンドが起こしたスカのムーブメントというか、いわゆる「本当の」スカじゃなくて、パンク以後の青年たちがスーツを着てサングラス姿でスカをリバイバルさせたムーブメントがあって、当時からずっと好きでした。ただ、デビュー当時は日本でもLA-PPISCHとかTHE BOOMとか、いろんなスカをやっているバンドがいたので、自分としてはあくまで聴くだけの音楽にとどめておいたんです。
でも、小林がPOTSHOTというスカパンクのバンドをやっていたこともあって、自分の身の回りの音楽でも「そんなに別にスカとパンクを分けなくてもいいよな、ミクスチャーにしちゃえばいいや」と考えるようになっていきました。
――具体的にこういうことを今回やろうと思ったきっかけも、何かあったのでしょうか?
一番のきっかけは、ジミー・クリフを見に行ったときのことなんですけど…、あの人の知り合いとつながりがあって、お会いすることが出来たんです。だから実際に会ってアルバムにサインしてもらったりして(笑)。その後で、ソロを出していることを後で知ったんですけど、それはパンクバンドRANCIDのティム・アームストロングがプロデュースをやって、グラミー賞を受賞したアルバム(『Rebirth』)で。それはイギリスのムーブメントとは違う、どちらかというと起源のスカに近いほうのスタイルでやっているものだったんです。
僕もRANCIDは好きで、去年はずっと聴いていたんですけど、そんなアルバムが出ているというので聴いたら「ティムはやっぱり良いよな」と(笑)。それからまたRANCIDを聴くようになったんだけど、RANCIDがこういうことをやっているのを聴いたら「これだったら別に俺らでも出来るし、やってもいいんだ」という感じになりました。
――でも実際に演奏されるとなると、難しさはありませんでしたか?
ありましたね。スカで特徴的なギターの裏打ちはやり慣れていないんで。だからちょっと練習はしました。今はレコーディングのときよりも大分滑らかに弾けるようになっていますね。
――寺岡さんと小林さんのベースとドラムというところでは?
ベースもそうかもしれないけど、弾き方はやっぱりギターが一番難しいかな。まあ小林は慣れたもんですよ、POTSHOTでやってますし。小林は好きでそんなバンドをやっていたくらいだから、スカを入れるとなっても、自分から「やろう!」という感じだったし。
――その一方でアコースティックギターでの「夏の花」もあり、という感じですが、こちらの感じも、ご自身というかジュンスカとしては初めてということですが、全体的に見ても一曲だけアコースティックギターのみの伴奏で印象的ですね。
そうですね、今までにはない。また、アコースティックサウンドというと、ギターとローズピアノというスタイルが僕の中には美しくて好きなイメージで、どうしても入れたくなるんだけど、今回は入れずにアコースティックギターだけでやりました。
――そういう意味では、全曲のバランスというのも、最初からある程度は見えてきていたんですかね?
なんとなくね。曲それぞれムードが違うので、それぞれをより際立たせるための、作戦ですよね。
――曲調としても、少しセンチメンタルな感じではありますが、具体的にはどのようなイメージなのでしょうか?
まあ昔の思い出です。若干は脚色とかもあるけど(笑)、昔の夏の日の思い出。詞の乗り具合が良かったというのもありました。
――「Runaway Boy」も勢い十分の曲調なのに、対照的にシリアスな雰囲気の歌詞が印象的ですが、これも「夏の花」と同様に何らか実体験に基づいたものが、ベースになっているのでしょうか?
いや、そうでないですね。バンドを始めてからは、大学を途中で辞めてバイトをしながらミュージシャンを夢見ていたんですけど、やっている頃の時期の気持ちを、もうちょっとカッコ良く書いたというものです。イメージはあるけど、それは実体験とは違うものです。
――最後に収録されている「午前0時、公園にて。」、これは完全にアコギとハーモニカのインストナンバーになっていますが、これも興味深い感じではありますね。
面白いでしょ? 映画のエンドロールみたいで。最後か、そのちょっと前だったかくらいですかね、出来たのは。まあ入れるか入れないかは別として、もともとからエンディングとして書いた曲なんです。入ったほうが締まるかな、という感じで。
繰り返すつもりはないけど、その中で刺激を受けつつ進化していきたい
――今回このアルバムを作り出して、ツアーはファイナルが日比谷野外大音楽堂でおこなわれる『JUN SKY WALKER(S)の野音 2016 〜FANFARE SPECIAL〜』、その後に沖縄の『2DAYS SPECIAL!』と続きますが、野音はジュンスカにとってはやっぱり特別なところですか?
そうですね。やっぱり渋谷公会堂と野音、それと武道館は僕らにとって特別なところだと思っています。今、渋谷公会堂がなくなったというのは寂しいところではありますが…。
――先日の渋谷のリリースイベントでは、このツアー後はしばらくワンマンをお休みして、制作期間に入られるということでしたよね?
そうですね。まあ、フェスとかには出たいんですけど、単体でのツアーは回らないで、30周年のときにドカン!とデカいところでツアーなんかを狙っているので。そのために来年は我慢しようと(笑)
――例えばそのアルバムでは、何かやはりスペシャルなものを考えられているのでしょうか?
いや、それはないですね。逆にもっと「らしい」くらいのアルバムという感じになるかなと思うんですが。
――それはもちろん30周年という気合いも入れつつ、これまで出されてきたアルバムに続く位置づけとしてのアルバムとして作られると?
いつもそうですからね。もちろん「おっ!」と思ってもらいたいとも思いますが、「奇をてらう」ようなことはしないと思う。どうしてもそんなに器用なバンドでもないし、ある種カラーが決まっているからこそ支持されているバンドでもある。だから繰り返すつもりはないけど、その中で刺激を受けつつ進化していきたい。まあそれしか出来ないですしね。
――それでは最後に読者にメッセージをお願いします。
来年はまとまったツアーは出来ないので、もし興味のある方は是非野音に遊びに来ていただきたい。それと、今回本当に4人が頑張って作ったアルバムなので、これはまず聴いて!(笑)
(取材・桂伸也/撮影・冨田味我)
作品情報
NEW ALBUM 『FANFARE』(読み:ファンファーレ)
2016.9.7 ON SALE
初回限定盤(CD+DVD):QAIR-30011/3500 円(本体価格)+税
通常盤(CD):QAIR-10043/3000 円(本体価格)+税
発売元:(株)アイビーレコード
▽収録曲
01.ファンファーレ
02.裸の太陽
03.レッテルブギ
04.スターマン
05.インスパイア
06.Runaway Boy
07.マリーゴールド
08.夏の花
09.出会いとポケット
10.バイバイ
11.午前0時、公園にて。
初回限定盤 DVD 収録内容
ファンファーレ MUSIC VIDEO
ファンファーレ MAKING VIDEO