素直になれた気がした LACCO TOWER、本心の物語「心臓文庫」
INTERVIEW

素直になれた気がした LACCO TOWER、本心の物語「心臓文庫」


記者:小池直也

撮影:

掲載:16年06月10日

読了時間:約16分

プライベートで音楽は聴かない

心臓文庫

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――収録曲についてですが、例えば5トラック目の「楽団奇譚」など言葉遊びや韻の踏み方など、凝ったリリックがかなり面白かったのですが。

松川ケイスケ 意外とLACCO TOWERというたまにそういう曲があるんですよね。真一ジェットが持ってきた音源にピコピコしたメロディが入ってるんですけど「こいつ俺にどういう歌詞を付けてほしいんだ」と思う時があって。楽曲が遊んでるなら僕も遊んでやれ、みたいなお互いのせめぎ合いみたいなものがあります。こんな曲で真面目な事を書いてもどうしようもないですし。最近ちょっと歌舞伎を見始めたんですけど「楽団奇譚」は歌舞伎の口上を参考にしています。いよいよ出てきますよ、みたいな感じで。アルバムなのでそういう曲があってもいいなと。

――ということは音楽以外のものからも結構インスピレーションを受けるということですか?

松川ケイスケ 僕、プライベートで音楽聴かないんですよ。少しは聴くんですけど、いわゆる音楽好きの皆さんみたいに常に網を張ってたりということはお恥ずかしいくらいないですね。多分他のメンバーはみんなあるし、啓示とかも好きなベーシストとかいると思うんですけど。どちらかというと作家さんとか本とか演芸の方が好きですね。だから曲だけ聴くよりはMVを観たい派ですね。表現の方が気になるというか。最近は全然関係ないんですけど、数学に興味があって。黄金律とかそういう本をよく読んでてそれに影響を受けているところがありますね。文字の数とか。

――先ほどの「楽団奇譚」でも「さあ飛べ」という歌詞とか一見、4拍子という分かりづらいリズムで言葉が配置されたりしますが、そういう所はその数学の影響と関係がありますか?

松川ケイスケ 曲は先ほどの通り、真一ジェットが作ってきたものなので関係ないんですけど、2文字とか3文字って結構多いんですよ。それこそ1文字とかもあったり。でも1文字なんだけど2つ入れることによってここが半分になるから聴いてる人はこうで、とか。ここまで合わせると5・7・5になってるから、とか変に考えるようになりましたね。全然音楽とは関係ないですけど。

――リズムは数学と密接な関係があると思いますので興味深いです。塩崎さんは何か最近影響を受けたものはありますか?

塩崎啓示 後輩の頑張っているバンドとかには影響、というか刺激を受けますね。それこそ自分らで『I ROCKS』というイベントをやった時もそうでしたけど、おのずとみんな頑張ってきていて。盟友と呼べる様なバンドが全国的にも前線を突っ走っている。そんなバンドたちの絞って絞って出した音源というのは刺激になりますね。

 俺らと同じような状況じゃないですか、ずっと制作とライブと。「このタイムスケジュールでよくこんなの作ったな」って。ビーバー(SUPER BEAVER)やNUBO、マイヘア(My Hair is Bad)とか、back numberだったり。出来立てほやほやを送ってくれたりしますからね。ビーバーなんてマスタリングした夜にデータでくれたりとか。そういうやりとりもあります。

 あとは、何でしょうね。高校野球ですかね(笑)。先日、地元の前橋育英が関東大会で優勝して。まあ嬉しいですよね。極端ですけど「おお、頑張んなきゃ」と思わせてくれるニュースでした。地元からっていうのも結構大きいですね。この前テレビで、番組は違いますけど同じ局でback numberが出た何分後にうちらが出るみたいなこともあって。地元の高校の後輩があれだけ頑張っていたりすると、そりゃあ刺激になりますよ。

――新譜で特に思い出に残っている曲はありますか?

松川ケイスケ やっぱり「未来前夜」ですね。なんか本当に競馬の最終コーナーじゃないですけど、何かに憑りつかれたかの様に作った気がします。「これで最後だ! どうだ!」みたいな。歌詞なんて数時間しか時間がなかったですけど、その中で出せるもの全部出し切った気がしますし。思い出深いですね。

塩崎啓示 アレンジもざっくりしたものはあったんですけど、曲のAメロ、Bメロ、サビっていう流れの構成ができてなかったんですよ。これができないと録れない(笑)。最初に録るのはベースとドラムだから「次なに!?」となるんです。それがぎりっぎりでできて。これをリードにするっていうのもまだわからない状態でした。

 BPM(テンポ)も「うーん、どうしよう」って。ただ何となく録りながら、何テイクか聴いて「これリードだな」とまだ歌詞もまだ何も載ってない段階で思えた。僕たちの一番得意とするところというか、10曲の中でも「これだ」って思わせるようなメロディなのか、テンポ感なのかコード感なのか、何かがしっくりきたんです。録りながらもう「これメインで絶対MV録る」とか色々想像しながら作りました。

――塩崎さんの思い出の曲はありますか? 凝ったアレンジの曲も結構ありましたけど。

塩崎啓示 今まで一曲目って大体序章っていうか序曲みたいな感じで、イントロが長めな曲が多いんです。インストの曲もあったりして。それが登場のSEみたいな感じで。行くぞ行くぞ感、まあライブを想像すると一人ずつ登場するみたいなイメージ。そうするとやっぱりエッジの効いたというか、ロック調なものが僕たちに合っていると思うんですよね。

 尚且つ、今回の一曲目「罪之罰」はもう行くところまで行った曲だと思う。プログレチックな「これどうやってレコーディングしたの?」と思わせたくらい。でも実はテンポが変わっていない。とにかく、こいつら変拍子やりたくてやっちゃった感は出したくなかったんです。さっきの「楽団奇譚」もそうですけど、いきなり拍子が変わって戻ったり、「相思相逢」なんかは本編とサビのキー(調性)が違ったりとか。そういうのをしれっとやれる様になってきたかなと。一筋縄でいかない様に見せたかったんですよ。

LACCO TOWERになれたらいいな

――ちなみに「蛍」のアウトロの終わり方が凄く鮮烈だったのですが、あのフェードアウトの終わり方はどの様に決まったんですか?

塩崎啓示 あれはもう絶対ですね。J-POPを聴いてきた僕らに関しては「蛍」こそ90年代なのかな。Aメロ、Bメロ、サビやって、ソロ後の落ちた後の「はい、転調しましたよ」。それでアウトロはループするコードの上でフェードアウトしかけた時に速弾き。これが黄金パターン(笑)。

松川ケイスケ うち多いですね。ああいう曲だと最後そうなるパターンが。

塩崎啓示 やりながら「やっぱこれ転調してえよな」となって。そしたら満場一致で「よしやろう」と。じゃあやっぱ半音(カラオケで#1つ分)上げようって。全音(カラオケで#2つ分)じゃないんですよ、半音上げる。もう「行きますよ!」の転調だから。

――それは同じ年代で共有してきたものも多いからでしょうね。皆さんの音楽的ルーツはバラバラですか?

塩崎啓示 好きなバンドというのは皆バラバラですけど、中学くらいで音楽に興味が出てきた頃というのはやっぱり普通にテレビから出てくる音楽だったり、ドラマのタイアップだったり。僕はB'zとかそういうところからギターを始めたんですけど。LUNA SEAがいて、X JAPANがいてという。もちろん先輩にBOΦWYがいますし。93、94年とかカラオケのメドレーをやったら全員完璧に歌えますよ。あのミリオン出まくってた時。

松川ケイスケ 僕もそうですよ。本当はミュージシャンっぽくどっかの国のミュージシャンを聴いてましたって言えればいいんですけど、全く聴いてないんですよ。普通にJ-POPで育ってきて、J-POPのバンドのコピーをして。まあ、そこから色々興味出てきたのもありますけど、ルーツというか自分たちが聴いてきたのがそれなんで、どこかで一番いいって思っているのかもしれませんね。

塩崎啓示 ロックはロックで好きなんですけど、財津和夫さんの「サボテンの花」とかも好きで。上の世代が聴いてきたもの、フォークなどとかもLACCO TOWERは影響を受けてるのかなって気がしますね。哀愁メロとか。

松川ケイスケ ミュージシャンでいうと財津さんが僕の神様なんです。「チューリップ」とかあの辺が凄く好きで。やっぱり僕ら世代は常に音楽と一緒に映像がありましたよね。ドラマだったり、アニメだったりっていうのがあったじゃないですか。今なら携帯でもなんでもすぐ聴けますし、YouTubeもありますから、誰でもすぐに音楽に触れられることが多いんですけど。

 でも、家に帰ってテレビつけてドラマの中で鳴っているのとか、カセットをわざわざ入れて巻き戻して、CDを借りに行ってとか、そういう時代に育ってきたんで。自分が何か音を出して表現したいものってどうしてもそこに帰結するっていうか、あんまり新しいことをやりたいっていうメンバーはそんなにいないんですよ、LACCO TOWERには。流行り廃りももちろん必要だと思いますけど。

 「LACCO TOWERになれたらいいな」という風にどっかで思っているところもあるから、4つ打ちが流行っているからやろうと思わないですし。どちらかというと「LACCO TOWERって説明しづらいけどなんかいいよね」と言われたい。昔のJ-POPってそんな感じだった気がしますし。僕らのロックって多分そういうことだと思うんです。

――LACCO TOWERがそういう日本の音楽の様々な時代の流れの果てに自分たちがいるということに対して自覚されていることが面白いですね。なかなか若いミュージシャンにはできないことだと思います。

松川ケイスケ バンドとしてエッジを効かせるのって実は凄く簡単な気がするんですよ。それだけやってればいいし、そこだけ突き詰めればいいので。もちろん覚悟がいるし、ある種怖い事だとは思うんですけど。

 でも、そうじゃなくて「自分たちって何なんだろう」って考える方がよっぽど僕は怖い。「自分っていう人間って何だろう」「LACCO TOWERって何だろう」って考える事の方が凄く難しいところがあるんです。思えばずっとそういうことを考えて活動してきた気がしていて。

 言葉遊びで言い方を変えれば定まってないって話なのかもしれないですけど、バンド自体が自分たちの生き方になってきている以上はそこを探すことが僕らっぽくもあるし、ある意味で時代をついてこさせるくらいの力がないと本当の意味で良いミュージシャンにはなれないと思います。そうなるべく頑張ろうと思いますけど。

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