初来日のステージで魅了したキャンディス・スプリングス(撮影・濱谷幸江)

初来日のステージで魅了したキャンディス・スプリングス(撮影・濱谷幸江)

 米シンガーソングライターのキャンディス・スプリングス(Kandace Springs、27)が初来日。25日には、ブルーノートジャパンがプロデュースする東京・神田のカフェ「cafe104.5」で、弾き語りライブとトークショウをおこなった。電子ピアノを演奏しながらノラ・ジョーンズのカバーや、7月1日に発売されるアルバム『SOUL EYES』の表題曲「SOU EYES」など全7曲を、しっとりと時に力強く歌い上げた。

 キャンディス・スプリングスは、2014年にデビューEP『Kandace Springs』を発売すると瞬く間にiTunesチャートを駆け上がり話題となった、ソウル&ジャズ・シンガー&ピアニスト。その歌声は定評で、先日他界したプリンスさんも生前「雪も溶けるほどの温かい声」と絶賛していたほどだ。

 この日は、その伸びやかで温かい歌声をもって、7月1日に発売されるアルバム『SOUL EYES』の表題曲「SOU EYES」を中心に弾き語った。洗練された都会的なジャズピアノを奏でながら、語り掛ける様に優しく歌い囁く。それはあたかも森浴の澄んだ空気のなかに漂う霧のようなもので幻想的。その一方で、その霧を一息に晴らすようなソウルフルな力強い歌声も見せた。

 そんな彼女が、ミュージシャンに志すきっかけを与えたのはノラ・ジョーンズ。この日もノラの『Come Away With You』に収録されているホーギー・カーマイケル作曲、ネッド・ワシントン作詞の「The Nearness of You」をカバーしたが、ノラに対して「若くてピアノを弾けて歌えて今までにないタイプのアーティストでずっとアイドルだった。今でも私のアイドルだわ」と敬意を示した。

 また、「ジャズとソウルがうまくミックスできたと思う。表題曲マル・ウォルドロンの『SOUL EYES』が自分を表していると思ったから、このタイトルにしたの」と語った、新譜『SOUL EYES』から「SOUL EYES」を演奏。更には、即興でピアノを伴奏をするなど、チャームポイントでもある笑顔を振りまきながら、実に楽しそうに軽快な音を弾ませた。

 そして、尊敬していると語るロバータ・フラックの「The Closer I Get To You」をカバー。最後はプリンスさんも絶賛した“雪も溶けるほどの温かい声”を如何なく発揮して観客を魅了した。

キャンディス・スプリングス(撮影・濱谷幸江)

キャンディス・スプリングス(撮影・濱谷幸江)

 トークショーでは、音楽を始めたきっかけや、交流のあったプリンスさんの話題におよんだ。

 ピアノを始めたきっかけについては「古いピアノが道端に捨ててあって、面白がって弾いていたら親に褒められたの。それで、ピアノの先生を呼ぶことになって。ビクター先生にジャズコードを教わったわ」と当時を振り返った。

 彼女が世界的なブレイクを果たしたのは、プリンスさんの存在によるところが大きい。「サムスミスの『Stay With Me』のカバーをプリンスがツイッターでリツイートしてくれたの。後日レーベルにプリンスから電話があって、3日後にはスタジオに一緒にいた。本当に信じられない出来事だったわ」とプリンスとの出会いを語った。

 また、当時から肌の露出が激しかったので、プリンスさんが「少し隠せよ」と言って黒いジャケットをくれたエピソードも語った。「今でも大事にしているわ」とプリンスとの思い出の品を気に入っているようだった。

 プリンスさんの訃報を受けた時、キャンディスは、イギリスでグレゴリー・ポータスのツアーに同行していた。彼女はプリンスからもらった、黒いジャケットを着てステージに上がったという。会場は観客のサテライトでプリンスのイメージカラーである紫、パープルに染まり忘れられない夜になったことも語った。

 ビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルド、ニーナ・シモン、そしてノラ・ジョーンズに影響を受けてきたキャンディスは「誰がいつ聴いても良いと言ってくれるような、アーティストになりたい」と今後のキャリアについて理想を述べた。

 今回が初来日となったが「今日は本当にありがとう、またすぐ戻って来れるよう願っています」と再来日を誓った。

 音楽界のレジェンドが持つ独特の重量感の渋みに対して、若さあふれる爽快なフレッシュ感を見せたが、都会的なサウンドを奏でる確かなピアノの技術とその優しく包み込むような温かい歌声は、プリンスさんのお墨付きの通り、観客に心地良さを与えていた。(取材・松尾模糊)

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