氷室京介のオールキャリア・ベストアルバム『L'EPILOGUE』

氷室京介のオールキャリア・ベストアルバム『L'EPILOGUE』

 今年の4月・5月におこなわれる4大ドームツアー『KYOSUKE HIMURO LAST GIGS』をもってライブ活動を休止する氷室京介が、キャリアの集大成となるオールキャリア・ベストアルバム『L'EPILOGUE』を13日にリリースする。ソロ時代の楽曲も重要だが、ソロ後初収録されるBOØWY時代の楽曲は新たに録り直しをおこなっていること、そして、グラミー・エンジニアが制作に関わっている点は特筆すべきものだ。

 爽やかな春風が建物の間を縫うように吹き込む街中で、大きな看板に書かれたキャッチコピーが静かに燃える。「俺たちは、氷室京介を卒業できない」――。耳の不調により満足のいくパフォーマンスが出来なくなったことを理由にライブ活動を休止する氷室京介。自身の運命を受け入れた彼は最後のライブ『LAST GIGS』に臨む。そして、その直前にオールキャリア・ベストアルバム『L'EPILOGUE』をリリースする。

 アルバムのタイトル『L' EPILOGUE』はフランス語。英語でも使われる「エピローグ」はご存知の通り「結び」「集大成」という意味がある。その頭に、英語では「THE」にあたる、特定性をもたせる定冠詞「L’」がつく。文字通り、たった一つのエピローグ。氷室における音楽人生の集大成と言える作品だ。関係者によれば、この作品は「氷室京介とは何か」という事を問うたという。となれば、収録される楽曲はとても大きな意味を持つ。

 収録曲をざっとみただけで鳥肌が立つ。これまで歌われてこなかったBOØWY時代の「ミス・ミステリー・レディ」、「黒のラプソディ」、「唇にジェラシー」。氷室はソロ活動開始当初から歌ってきた「ハイウェイに乗る前に」や「IMAGE DOWN」は今回、収録されていない。また、過去にライブで披露したこともある、BOΦWY解散後にリリースされた『“SINGLES”』収録の「“16”」が今回、収められる。

 氷室はこれらの選曲をどう監修し、どのような心境で新たにレコーディングに臨んだのか。それらは本作に耳を傾け、何度も聴いて感じるほうが宜しい。ファンであるならばそうするべきなのであるが、はっきりと言えるのは、耳の不調を明かし、ライブ活動休止発表後に挑んだ作品であること。いつもベストを尽くす氷室だから、この作品だけ思い入れが違うということはないが、心境への影響は少なからずあるだろう。ラストライブ「LAST GIGS」がファンのためのライブであれば、おのずとこの作品もそうした思いが反映されるのではなかろうか。

氷室京介「LAST GIGS」の意味とは

一昨年の横浜スタジアムでの氷室京介

 この収録曲のなかで身が震えるのは、まずBOØWY楽曲では、『INSTANT LOVE』に収録された「FUNNY-BOY」と、『BOØWY』収録の「唇にジェラシー」「黒のラプソディ」、そして『JUST A HERO』収録の「ミス・ミステリー・レディ」だ。BOØWYの初期から中期にかけて作られた楽曲だ。パンク要素が強かった『MORAL』と、それまでとは異なる『BEAT EMOTION』と『PSYCHOPATH』からの楽曲は“選出“されなかった。ここに氷室の心情を見るのである。

 「FUNNY-BOY」は氷室京介・高橋信・松井恒松作詞、氷室京介作曲、「唇にジェラシー」は氷室京介作詞作曲、「黒のラプソディ」は氷室京介・松井五郎作詞、氷室京介作曲、「ミス・ミステリー・レディ」は氷室京介作詞作曲だ。共通するのはどれも、クールでいて、ダーティで、アダルティな、当時の氷室を連想させるブリティッシュロックであることだ。そして、ソロ後の楽曲で色濃くなったオルタナティブロックをベースとした近年の氷室サウンドとどう関わっていくかが楽しみでもある。

 氷室は2011年にワーナーに移籍。世界的なヒット曲に関わった米屈指のサウンドプロデューサーとして知られるロブ・カヴァロのもと「NORTH OF EDEN」を制作した。それ以降の氷室サウンドは更に進化を遂げている。そして、今回は、「FOLLOW THE WIND」「MONOCHROME RAINBOW」2曲のリミックスをニール・ドーフスマンが、再レコーディングされたBOØWY楽曲のミックスをスティーブ・チャーチヤードが、そして全曲のリマスタリングをテッド・ジェンセンが担当する。

 BOØWYのなかでも氷室初期の色が濃いこれら楽曲は、グラミー・エンジニアによって完全に更新され、ここで一区切りを打つのである。オールキャリア・ベストでありながらも現在の氷室の最高峰と位置付ける“新譜”といえる。

 そして、ソロ曲だ。タイトルを見ただけでもライブで歌う氷室の姿が想像できるほど、ベストにベストを尽くした楽曲たちだ。

 まず、CD1枚目に収録される、比較的近世の氷室楽曲が散りばめられている。それもBOØWYの曲と絡み合いながらだ。BOØWYと氷室の楽曲は2004年に、BOØWYと向き合えるようになったとして開催された『21st Century Boøwys vs HIMURO』でも織り交ぜて披露しているが、レーベル移籍後の「WARRIORS」や「ONE LIFE」はどう絡んでいくのかが興味深い。

 CD2枚目は、氷室のソロキャリアの軌跡を、前後はあるものの時系列に並べたようなツクリで、世間一般にも認知度が高いヒット曲の数々が収められているが、「ANGEL」だけでなく、「DEAR ALGERNON」、「LOVER' S DAY」「MISTY~微妙に~」などソロ初期に制作され、ファンから長く愛されている楽曲が選ばれていることにファンへのメッセージを感じる。氷室楽曲がどう変化して、社会にどう影響を与えたのか、当時の時代背景を脳裏に映しながら聴くことで、これら楽曲を通して氷室が何を伝えたいのか、うっすらと浮かび上がるような気もする。

 報道によれば、氷室は今後も創作活動は続けていくと発表されている。オールキャリア・ベストアルバムの内容をみても早くも今後の新譜に期待を寄せたくなる。それにしてもライブ=氷室京介と考える小生にとってはこれからも創作されていくであろう新譜がライブで聴けないのは残念至極である。こう考えても「俺たちは、氷室京介を卒業できない」のである。(文・木村陽仁)

 編注=L'EPILOGUEの正式名はEにアポストロフィーが付く。

『L'EPILOGUE』収録曲

CD1
01. ミス・ミステリー・レディ ★
02. 黒のラプソディー ★
03. "16" ★
04. CLOUDY HEART ★
05. わがままジュリエット ★
06. WARRIORS
07. Silent Blue
08. MONOCHROME RAINBOW ☆
09. FOLLOW THE WIND ☆
10. So Far So Close
11. ONE LIFE
12. FUNNY-BOY ★
13. 唇にジェラシー ★
14. WILD ROMANCE
15. REVOLVER
★. 新録曲
☆. リミックス曲

CD2
01. ANGEL
02. DEAR ALGERNON
03. LOVER' S DAY
04. SUMMER GAME
05. MISTY~微妙に~
06. JEALOUSYを眠らせて
07. CRIME OF LOVE
08. KISS ME
09. VIRGIN BEAT
10. STAY
11. 魂を抱いてくれ
12. NATIVE STRANGER
13. ダイヤモンド・ダスト
14. SLEEPLESS NIGHT ~眠れない夜のために~
15. BANG THE BEAT
16. IF YOU WANT

初回生産限定盤特典Live CD
01. B・BLUE(2004.8.22 TOKYO DOME)
02. Claudia(2004.12.25 YOYOGI NATIONAL STADIUM)
03. LOVE & GAME(2012.12.31 NIPPON BUDOKAN)
04. Bloody Moon(2012.12.31 NIPPON BUDOKAN)
05. HEAT(2008.9.14 YOKOHAMA ARENA)
06. Girls Be Glamorous(2003.11.23 YOYOGI NATIONAL STADIUM)
07. TO THE HIGHWAY(2012.12.31 NIPPON BUDOKAN)
08. PLASTIC BOMB(2011.6.12 TOKYO DOME)
09. MARIONETTE(2011.6.12 TOKYO DOME)
10. ONLY YOU(2011.6.12 TOKYO DOME)
11. SWEET REVOLUTION(2008.9.14 YOKOHAMA ARENA)
12. CALLING(2014.7.19 YOKOHAMA STADIUM)
13. SQUALL(2008.9.14 YOKOHAMA ARENA)
14. WILD AT NIGHT(2014.7.20 YOKOHAMA STADIUM)
15. The Sun Also Rises(2014.7.19 YOKOHAMA STADIUM)

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