INTERVIEW

井ノ原快彦・本上まなみ・木村カエラ

3人が語る「仲間」の真髄 「映画 すみっコぐらし」が照らした“絆”のカタチ


記者:村上順一

写真:提供

掲載:25年11月02日

読了時間:約10分

 『映画 すみっコぐらし 空の王国とふたりのコ』が、10月31日から全国で公開。シリーズ第4弾となる本作は、空の王国を舞台に、すみっコたちがパズルやジェットコースターといったミッションに挑む、シリーズ史上もっとも【あげあげ】な大冒険作品。「絆」と「自己受容」のメッセージが世代を超えて胸に迫るストーリーになっている。voisでは、ナレーションを務めた井ノ原快彦、本上まなみ、そして主題歌「君の傘」を担当した木村カエラに作品への思いや、本作でも感じられる「仲間」や「絆」について話を聞いた。(取材=村上順一)

主題歌「君の傘」に込めた想い

井ノ原快彦

――映画をご覧になっていかがでしたか。

井ノ原快彦 いろいろ自分に置き換えて考えてしまう部分も多々あったりして温かい気持ちになりました。今回すみっコたちのサービスカット、僕が可愛いなと思う瞬間がいくつもあったので、シンプルに部分部分を切り取っても楽しめるというのがあります。

本上まなみ 私は、おうじとおつきのコという二人のキャラクターが印象に残りました。特におうじが、自分がなりたい姿になれずに葛藤するところに共感しました。私自身、仕事をしてきて、目標のようなものはあるけれども、そこにどうやって近づいていいのかわからないというところで、もがいたり、悩んだり、苦しんだり色々葛藤していた時期が長くあったので、当時のことを思い返しながらおうじを応援していました。横にいてくれる人の存在の大切さに気づくまで時間がかかったという点も分かるな、と。“すみっコたち”もみんなと一緒にいるから自分が自分でいられる。その関係性を改めて映像で見ることができて嬉しかったです。

木村カエラ 『映画すみっコぐらし』は私の子供たちと一緒に観ていたので、今回携わらせていただけることがとても嬉しかったです。今回改めて映画を観て、それぞれ苦手なことだったり、自分にとっての足りない部分があるけれど、仲間がいることによって、助け合って前に進んでいけるというのは、大人にとっても子供にとっても大事なことなんだなと思いました。その助け合いというところで、「そのままでいいんだよ」と言ってくれるような優しさだったり、大切な人の存在を曲でも描けたらと思いました。

――タイトルの「君の傘」はスムーズに決まったのでしょうか。

木村カエラ 決まらなかったです。確か3つほどタイトル候補がある中で、差し出された傘によって世界が変わっていく、という思いがあったので「君の傘」がいいなと思いこのタイトルに決めました。

――主題歌「君の傘」について、井ノ原さん、本上さんは聴いてみていかがでしたか。

井ノ原快彦 「君の傘」を聴いて、いろいろ求めてしまうけど、すでに近くにあったんだなと思いました。また、エンディングで「君の傘」が流れてからの、後日譚のような絵が本当にグッときました。そこで「あ〜良かった」と安堵して涙が出てくる人もいるんじゃないかなと思います。

本上まなみ 歌詞やカエラさんの歌声が本当に素敵で、他者の存在をこんなにも温かく感じられる歌の力の大きさを改めて感じました。「君」という言葉が何回も出てきますが、僕の隣には君がいてくれたんだねという、その気づきが、何度も何度も優しく温かい声で繰り返されて、それがだんだん自分に染みてくる。完成した映画を観た時にすみっコとカエラさんとの、最高の出会いによってこの作品ができたんだなと感動しました。

――カエラさん、完成した映像を観てどんなことを感じましたか。

木村カエラ 歌詞を書いた時は絵コンテのような状態の映像だったので、色がついてこんなにも綺麗になるんだと驚きました。狭い画角のときと広い画角のときの開放感とか、感動しました。

――「君の傘」で聞こえてくる楽器の音も楽しい感じですよね。

木村カエラ デモ曲をいくつか集めて、その中で「アイリッシュ」という名前のついた曲がありました。私の父はイギリス人なのですが、イギリスの有名な伝統楽器でバグパイプがあります。その音に近い音が入っているデモ曲があって、映画が雨をテーマにしていたので、この曲で歌詞を書いて歌いたいと思ったところからスタートしました。ただ、バグパイプはチューニングがとても合いづらく、今回のレコーディングでは無理だとなったんです。それで、バグパイプの音に似ていてちゃんとチューニングができる、ハーディ・ガーディという楽器でレコーディングをしました。行進するような音の感じもありますし、自分の中でとても映画に合っているなと思いました。

人との絆を感じた瞬間

本上まなみ

――本作は仲間に助けられながら、一つずつ難関をクリアしていくところも見どころですが、皆さんが周りの方に助けられたり、絆を感じたエピソードはありますか。

本上まなみ 去年ちょっと体調を崩してしまい、しばらく療養していた時のことです。仕事から離れて家で過ごしていたのですが、その時に家族が生活をサポートしてくれて、仕事先の人たちも気にかけてくれました。今まで自分一人で頑張りすぎていたのかなと考える時間ができたんです。若いうちから働いてきたことで、本作のおうじのように「何かにならなきゃいけない」といった感じで無駄に力が入っていて、その不具合のようなものが身体に現れたのかなと思いました。このブレイク時間があったことによって、疎遠になってしまっていた方から、今年に入って立て続けにご連絡をいただいて、また繋がることができました。とてもありがたくて、嬉しかったです。50代になってこれから頑張り方を少し変えたいなって思っています。この映画のストーリーがすごく刺さって、周りのみんなと一緒にやっていったらいいんだということに改めて気づかせてもらいました。

井ノ原快彦 仲間です。グループを解散するとき仲間について聞いていただいて、みんながみんな「健康であれば」とか「幸せであってほしい」と願っていました。それを聞いてバラバラになってもそれぞれがいい人生を歩んでほしいという気持ちになりましたし、みんなが本気でそれを望んでいるなと思いました。まさにこの『映画すみっコぐらし』もそうなんですけど、自分が幸せになるには、仲間が幸せでなければいけない、そしてそれを望むのであれば自分も幸せでなければならないなって。そうやって気づかせてくれる仲間という存在は、距離を置いてみると気づくことが多かったりして、近くにいる人たちを日々意識しながら生きていきたいと思ったり、周りの人たちにいつも気づかされています。

木村カエラ 近くにいる人の存在です。バンドメンバー、スタッフ、家族とか、みんなに感じますけど、ちょうどこの歌詞を書く少し前に、私の大好きだった祖母が亡くなったんです。その思いが強く残っていたので、祖母のことを思いながら書いた部分も少しあります。父と母が働いていたので、私は祖母に育ててもらっていました。祖母はいつも、傘をさしてくれるみたいに助けてくれたことがたくさんあったなって。今はもう会えないけど、こうやって自分の隙間の中に差し込む木漏れ日のような、その温かさのようなものが今もちゃんとあるなと思いました。

井ノ原快彦 亡くなられてしまったのは悲しいし寂しいことだけど、実は一番近くに来てくれたことにもなっていて。

木村カエラ そうなんです。改めて近くにいる人の大切な存在、それがちゃんと体の中に思い出みたいに残っていて、してもらった優しさとかってちゃんと残っていくことをすごく感じました。タイミングよくこの曲を皆さんに聴いてもらえるのも運が良かったです。本当にこの曲は宝物です。私はあまり人に悩みを相談できるタイプではないので、こうやって歌詞にしないと溜め込んでしまうのですが、今回『映画 すみっコぐらし』のお話をいただいて、すごくその時の自分と重なってグッときてしまって、本当にありがたいなと思いました。

3人の大冒険エピソード

木村カエラ

――本作のお気に入りのシーンを教えていただけますか。

井ノ原快彦 僕は「揚げ物怪獣エビフライドン」です。このキャラクターはまとまって一つだと思っていたのですが、ちょっとしたことで衣が剥げていく瞬間があって、その一つひとつの衣が可愛くてお気に入りのシーンです。

本上まなみ 毎回小さな見どころがいっぱい散りばめられているのですが、今回すごいツボだったのが“くものたね”です。くものたねにジョウロで水をかけて揉むとだんだん大きくなって雲ができるのですが、「それってどんな仕組み?」って気になって気になってしょうがなくて、やってみたくなりました。リアルで商品化されたら買います(笑)。

木村カエラ 私はキャラクターのほこりが好きなんです。映画ではすみっコたちの街に雨が降り続くのですが、それでほこりが湿気によってカビになってしまうシーンが好きで、たまりませんでした。

――今回、すみっコたちが雲の上の大冒険に出発しますが、皆さんにとっての大冒険、あるいは過去に経験した大冒険があれば教えてください。

木村カエラ 最近だとグラタン作りです。私グラタンが苦手なのですが、娘から「グラタン作って」とせがまれて。自分が苦手なものを作るってちょっとした冒険ですよね。でも飛び込んでみたら、自分のグラタンが世の中で一番美味しくて、すごい好きになるかもしれないって。それで作ってみたら、自分で言うのもなんですけど、すごく美味しくて好きになりました。また作りたいと思っていて、やはり飛び込んでみるものだなと思いました。

本上まなみ 一番大きかった冒険は、小学校4年生の時のことです。大阪に住んでいて、山形の祖母の家に私と小学1年生の妹の2人で行くことになりました。2人だけで夜行列車に乗り、朝6時に目的地の駅に着く予定なのですが、ちゃんと起きられるかどうかとても不安で。みなさん寝ているから目覚まし時計もかけられないし…。車掌さんに「この駅で降りるんですけど、起きられるかどうかわからないので起こしてもらっていいですか?」と勇気を振り絞って言ったら、「大丈夫だよ」と言ってくれて。でも、結局ほとんど一睡もできなかったんですけど、それが一番の冒険です。駅で待っていてくれた祖父の顔を見た瞬間、「やった!」と安堵したのを今でも覚えています。後にも先にもこんなにドキドキしたことはありません。

井ノ原快彦 もう日常に冒険があふれているなと思います。子供の時に、飛行機で“一人旅プラン”のようなものがあって、それで「行ってこい」みたいな感じで、毎年夏は1ヶ月ほど鹿児島と熊本に行っていました。先日、その遊んでいたところに久しぶりに行ってみたら何にも変わっていなくて。当時僕は毎日が冒険だと思っていましたが、いま大人になって同じ道を歩いてみると「こんな近くだったんだ」と思いました。当時一番遠くへ行ったのが4km先だったのですが、祖母から「行って帰って2里だね」と、約4kmが1里だとそのとき知ったことを思い出しました。

(おわり)

作品情報

『映画 すみっコぐらし 空の王国とふたりのコ』©2025 日本すみっコぐらし協会映画部

『映画 すみっコぐらし 空の王国とふたりのコ』
10月31日(金)全国ロードショー
ナレーション:井ノ原快彦、本上まなみ
主題歌:木村カエラ『君の傘』(ELA/Victor Entertainment)
原作:サンエックス
監督:イワタナオミ
脚本:角田貴志(ヨーロッパ企画)
美術監督:日野香諸里
アニメーション制作:ファンワークス
配給:アスミック・エース
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