THE ORAL CIGARETTES 試された一夜 異変で見せた真価
全身全霊で歌を届けたTHE ORAL CIGARETTES(PHOTO:Viola Kam)
[ライブレポート、14日、東京]今年4月に最新シングル「エイミー」をリリースしたTHE ORAL CIGARETTES。結成3年でオーディショングランプリ、その1年後にはメジャーデビュー、自身が行う企画やワンマンライブも大盛況と、急速にスターダムへの階段を上りつつある彼ら。
メンバーは、ボーカルの山中拓也(以下、山中)、ベースのあきらかにあきら(以下、あきら)、ギターの鈴木重伸(以下、鈴木)、ドラムの中西雅哉(以下、中西)の4人。ミュージックヴォイスが4月に行ったインタビュー取材で山中はこんなことを語っていた。「もともと僕たちは『才能のあるバンド』ではないと思っていた」。そうだとすれば、ここまで彼らが快進撃を続けている要因は何なのだろうか?
迫りくる夏フェスでも大暴れを期待されている彼らは、この6月より『唇ワンマンJAPAN TOUR 2015~お待たせBKW!! 9ヶ所行脚でエリア拡大、改めまして「ジ」オーラルシガレッツです!の巻~』と銘打ち、精力的なワンマンツアーを展開してきた。今回は7月14日に東京・Zepp DiverCity TOKYOで行われたステージのレポートにより、その彼らの魅力に迫ってみたい。 【取材・桂伸也】
上々の開始も異変は起きた
開場時間が近づくと、ショッピングモールの中にはTシャツにタオル、短パンと、いかにも「盛り上がってやる」と意気込む様子のファンがゾロゾロと現れる。その胸や背中には「THE ORAL CIGARETTES」または彼らを語る上でのキーワードとなる言葉「BKW(番狂わせ)」の文字が。そして開場後程なく、そんなファンたちに埋め尽くされた。そして開演予定から約10分が過ぎ、いよいよTHE ORAL CIGARETTESの登場だ。
彼らのライブではお馴染みの、山中の「4本打ち」MCよりオープニングナンバーの「GET BACK」へ。中西と鈴木の刻む緊張感抜群のイントロ、その先でお立ち台に立ち、「さあさあ!」とばかりに観衆を煽っていたあきら。そして、感極まったところでようやく彼のベースが入り、ステージはスタートした。続いたナンバーは「モンスターエフェクト」。彼らが叩き出す抜群のグルーブにより観衆はもうなすがまま。そんな観衆を眺めては不敵な笑いを見せて「そんなもんじゃねえだろう!?」「もっと来いよ!」と煽る山中。裾の長いコートのような上着を来ていた彼は、まるで音楽で観衆を操る魔法使いのようにも見えた。
フロア全体がまさに揺れるような動きを続けていた。そんな緊張した空気を解きほぐすように、5曲目の「リメイクセンス」後では、山中を他のメンバーが茶化すような芸まで見せた。しかし、その後に異変は起きた。全体的に本調子には見えなかった山中のボーカルだったが、6曲目の「自動販売機の男」は、自身の体の不調に屈し、ステージにうずくまってしまった。
スタッフに連れられてステージを一度後にした山中。皆の不安を隠そうと必死に平静を装いトークを始めたあきら、鈴木、中西だったが、その中ではぜ前日からの山中の体調不良も語られた。
「リハーサルでも調子悪そうで、大丈夫かって聞いたけど、『大丈夫』って」あくまで気丈に答えていたと、あきらは語っていた。どうにも立ち行かない万事休すの状況だったが、その言葉は山中、そしてバンドのこの日のステージに賭ける思いの強さを感じさせた。ステージは一時中断されたが、誰一人その場をあとにするものはおらず、彼らがステージに戻って来ることを信じて待ちつづけていた。
限界を超えたステージで立ち上る熱気
そんな観衆の気持ちに後押しされてか、山中はステージに戻ってきた。観衆からの盛大な、そして優しい拍手に迎えられ戻ってきた山中は「みんな、ごめん!」の第一声。いくら言っても言いきれないほどの自責の念に駆られ、泣きながらもこれでは終われないと、残りの時間でやれるだけのステージを行わせてもらうことを懇願、再び大きな拍手で観衆より承諾を得た。「がんばれ!」と山中を、そしてTHE ORAL CIGARETTESを後押しする叫びが、フロアのあちこちから上がった。
仕切り直しとばかりに「大魔王参上」より再スタートしたところ、ステージもフロアも恐ろしいまでの緊張感を見せた。パフォーマンスの派手さには定評のあるあきらはいつも以上にステージを縦横無尽に駆け回り、中西は抜群のグルーブを叩き出す。そして切れ味鋭いカッティングと、強いアピールを見せ、サウンドをリードした鈴木のギター。一人一人のプレーには「今やるべき俺の仕事をやる!」とばかりに、研ぎ澄まされた集中力を見せていたバンドの面々。その中心で、本調子ではないものの、まさしく搾り出すように声をはり出していた山中。体調の限界は超えていたようにも見えたが、彼を力強くバックアップしていたバンドの面々、フロアの観衆の姿に「今倒れるわけにはいかない!」と歯を食いしばり、全身全霊で叫びつづけていた山中。
不謹慎な表現かもしれないが、問題なくステージが進行していたら、果たして同じよう空気がこの会場に流れただろうか? そう思わせるほどの緊張感がここにはあった。明らかにこのとき、THE ORAL CIGARETTESのメンバーそれぞれはアドレナリン全開、普段ではお目にかかることができないほどのテンションでフロアを圧倒していた。必死に食らいつくような表情の彼らの姿は、まさに彼らの本来の姿をさらけ出していたようにも見え、彼らの伝えたい思いは、ストレートに観衆の胸に突き刺さっていった。
「キラーチューン祭り」と銘打たれた後半、新曲の「カンタンナコト」を含み全7曲、ラストは「本当はしっかりと歌わないといけない曲だけど」と山中は前置きしながら、思いをたっぷり込めて歌い上げた「エイミー」まで、全身全霊を込めたステージを展開。ようやく迎えた終焉で、またもステージに倒れこんだ山中だったが、再びこの日会場を訪れたファンたちに心からの感謝を告げた上で、この日のリベンジを誓った。その言葉に、観衆は「オーラル! オーラル!」と何度も彼らの名を叫び、そして惜しみない拍手を送った。
BKW→BKへ、リベンジを誓った4人
ステージ終了後には、山中の男気に感動したファン、彼らのリベンジを信じるファンなど、涙を流しているものがあちこちで見受けられた。それは、トラブルに巻きもまれながらも多くのファンが、未だに彼らのBKWを信じているからに他ならない。「才能がない」と自称する彼らの魅力は、外見だけでは感じられない、内に秘めた熱い気持ちではないだろうか。この日たまたまアクシデントは起きたが、それをきっかけに彼らの「何かを伝えたい」という思いは、この日のステージでしっかりと伝えられた。
メジャーを目指すアーティスト、あるいはメジャーデビューを果たし次のステップを目指すものにとっては、Zepp DiverCity TOKYOのようなライブハウスでワンマンライブを行うことは、一つのターニングポイントにもなる重要な機会といえる。その意味では、この日、THE ORAL CIGARETTESに降りかかったハプニングは、かなりの痛手であることも事実だが、同時に彼らにとっては大きなチャンスともいえる。この日バンドが遭遇した事件は、普通では得られない大変貴重な経験となったに違いない。
この機会は、今後さらなる壁に立ち向かう彼らを、一段と強くしてくれたに違いない。BKWからBK(挽回)へ。彼らの「起死回生ストーリー」の結末に、大きなBKWを果たし、笑っている彼らが見えることを、願って止まない。
THE ORAL CIGARETTESセットリスト
01. GET BACK
02. モンスターエフェクト
03. ハロウィンの余韻
04. N.I.R.A
05. リメイクセンス
06. 自動販売機の男
07. 大魔王参上
08. mist...
09. カンタンナコト(新曲)
10. STARGET
11. Mr.ファントム
12. 起死回生STORY
13. エイミー
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