INTERVIEW

池田エライザ

「他にできることがなかった」高校生役で見せた“引き算の芝居”:映画『リライト』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:25年06月13日

読了時間:約9分

 俳優の池田エライザが、映画『リライト』(6月13日公開)で主演を務める。池田は、高校3年の夏に未来人の保彦(阿達慶)と出会い、恋に落ち、タイムリープを経験する主人公・美雪を演じている。300年後の未来からやってきた転校生の保彦と、彼に恋した少女が織りなす、時を超えた“物語”の行方――。尾道の夏を舞台に、タイムリープが引き起こす青春と謎が交錯する、松居大悟監督と劇団ヨーロッパ企画主宰の上田誠氏(脚本)が初めてタッグを組んだ青春ミステリ。今回、池田に美雪というキャラクター、そして作品世界にどのように向き合ったのか、また、Rin音が書き下ろした主題歌「scenario」について話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

初号試写は楽しめないだろうなと思いました(笑)

池田エライザ

――初めて脚本を読んだときに感じたことは?

 この作品、文字だとけっこう難しいんです。何時何分とか、時間軸が書いてあったとしても「へっ!?」となってしまう。私はどうしても美雪視点で読んでしまうので、初めて読んだ時は、私自身が過去に戻りたい気持ちになりました。これ以上読み進めるのが怖いけど、最後まで読まなければいけない、そして演じなければならない。全てを知ってしまっている私は、初号試写は楽しめないだろうなと思いました(笑)。ただ、撮影は他のキャストさんとはあまり一緒にならなかったので、私が知らないシーンも多く、試写で観てびっくりしたシーンもありました。

――完成した映画をご覧になっていかがでしたか?

 美雪だけではなく、それぞれのキャラクターに心が動く要素がたくさんあり、「えっ!?」と驚く瞬間が何度も訪れます。展開を知らずに観た人が、どこで感情のピークを迎えるのか、誰に心を寄せて観るのか、すごく気になります。

 最初から最後まで、泣いたり喚いたりといった派手な芝居がない映画は初めてでした。こう感じてほしいからこの表情をするといった誘導的な芝居が、どのキャラクターにもなかったように感じます。それも含めて、新しい映画体験として楽しんでもらえると思います。複雑なプロットの中に、しっかり登場人物それぞれの感情が肉付けされていると感じました。

――タイムリープというところで、大人の美雪と高校生の美雪を演じられました。高校生役はいかがでした?

©2025『リライト』製作委員会

 こればかりは抗いようがなく、引き算をしていくしかありませんでした。すっぴんになるくらいで、他にできることがなかったというのが本音です。高校時代を思い出しながらやっていました。なんとなく高校生は人に見られているという意識が薄いと思ったので、ガニ股気味で歩いたりしていました。また、美雪は本が好きなのですが、そこにあまりとらわれず、本は好きだけど、ある程度みんなとコミュニケーションを取れる普通の高校生を目指していました。

――ご自身の高校生の頃の感覚も映し出されている部分があるのでしょうか?

 私は“カリスマJK”でした…。そう見えるようにしていただけなんですけど(笑)。根本的なところは今と変わらないというか、あまり華やかなことが好きではないんです。ただ、当時は女子クラスだったので、いつもキャアキャア騒いでいました。美雪とはちょっと違う感じでした。

何もないのがどれだけありがたいか実感

――松居監督の演出はいかがでしたか?

 監督の演出も、松居組の空気感も最高で、毎日「幸せ」と呟いていました。監督から細かく「こうしてください」と指示された記憶はあまりなく、リクエストは「動きを大きく」「もうちょっとテンションを高くしてほしい」くらいでした。10代は輝いている、充実している自分たちを見てほしいという意識があるから、全然面白くないのに大声で笑ってはしゃいだりします。美雪はそういうタイプではないですが、監督がそれを求めていたので、その殻を破るのに少し時間が掛かりました。

――松居監督と上田誠さん。お二人のタッグは化学反応が起きそうだなと思いました。

 お二人に加えて尾道という場所の不思議な魅力も相まって、「あれはなんだったんだろう?」と感じられるような作品ができあがったと思います。タイムリープという大味になりかねないものを、監督は日常を切り取ったかのように撮られるので、まるでいま世界のどこかで起きていてもおかしくないような、錯覚を抱かせてくれるところがとても好きです。

――尾道にどのような印象がありますか。

 尾道は自分の成長過程によって見え方が全然違う場所だと思いました。高い気温に涼しい海風のバランス、どこまでも伸びる長い1本道など全てが良かったです。また、私は田舎育ちなので、何もないのがどれだけありがたいか、その環境がどれだけ自分をクリエイティブにしてくれたのか、尾道で過ごして改めて実感しました。

泣きどころはエンドロール

池田エライザ

――今回の映画は、美雪が保彦との出会いによって大きく人生が変わったように、池田さんにとって「この人がいたから今の自分がいる」「この存在があったから自分の人生が変わった」と感じられる方はいらっしゃいますか?

 母親です。母は私の先輩であり、同業者でもあります。そのため、自分が何かを志す前に、もう道が決まっていたという感覚はあります。美雪もそうだと思うのですが、保彦との出会いによって自分の未来が決まってしまったというのは、少しわかる気がしました。母がもし「どんなことをやってみたい?」と私に聞いていたら、違う夢を追っていたかもしれません。

――本作の主題歌Rin 音さんの「scenario」について、どのようなことを感じましたか。

 私はこの映画の泣き所だと思いました。Rin 音さんご本人が意図されているかは分からないのですが、追い立てるようなリズムで、保彦の心情をすごく色濃く描かれているなと思いました。登場人物みんなが混乱していく、劇場にいるお客さんも巻き込んで、最後にパッとRin音さんの曲が美しく包み込んでくれる。誰も叫べなかった思いを代弁して歌ってくれているように感じたので、この映画で泣くとしたら、私はエンドロールだなと思いました。

――書くことが好きな池田さん。執筆するときはどのような時間になっていますか。

 バランスを取る時間です。日記を書くのですが、誰も読まないのによく見られようと、誰かが読む体(てい)で書こうとする自分がいます。また、手を止めている時によからぬことを考えてしまうので、手を止めないで今日のことを書き続けるようにしています。そういう日記の書き方をしているとバランスが取れてきて、本音と建前と言いますか、どれが人を思いやって言ったことか、どれが自分の本音なのかが分かってきます。私にとって何かを書くことはメディテーションに近いです。

――もしタイムリープできるとしたら、いつの時代に行きたいですか?

©2025『リライト』製作委員会

 自分の生涯では見ることができない1000年後です。逆に1000年前は恐竜に毛が生えているかどうかに興味がありますが、たとえばクレオパトラは本当に美人だったのか知っても、私は絵が上手くないから、せっかく見られてもそれを活かせないだろうと思うんです。でも、未来だったら「うわ、こんな技術ある」と持って帰ってこれる気がしていて。

――未来ではどんなことを体験したいですか。

 特にインテリアとか見たいです。私はフューチャリスティックな感性が大好きなので、1000年後は何が排除されてブラッシュアップされているんだろうかとか、もしかしたら文明が終わっているのかなとか。もし人間がいない世界だったら、人間がいなかったことを反省して、今から地球を守ろうと最大限の力を発揮すると思います。

――ところで、池田さんが過去に出演された映画『お前の罪を自白しろ』のインタビューで、活動の原動力として「所ジョージさんの世田谷ベースみたいなものを作りたい」とお話されていましたが、その後、進捗はいかがですか?

池田エライザ

 東京の土地も高いので世田谷ベースには程遠いのですが、家にスタジオがあって、ユニークなスタジオになってきています。先ほども話に出ましたが家具が好きなので、それらも集めていてだいぶ揃ってきました。また、知り合いの個展に行ったり、知らない人の個展にもふらっと入ったりして、絵も集めているところです。この前も大学生の女の子3人組が合同でやっている展示会に飛び込んで、「この絵、可愛いですね、売ってますか?」と尋ねて買って帰ったりとか、そうやって少しずつ自分の好きなものを集めています。

――お気に入りのものに囲まれる生活、楽しいですよね。

 本当に楽しくて、幼少期に好きだった可愛いものも集めていて、いま“ファンシースペース”ができ上がりました。母は「マイメロディ」が好きで、母の家に行ったらマイメロディの神棚みたいなのができていて、私がそういうのが好きなのも、きっと遺伝だなと改めて感じました(笑)。

――最後に、『リライト』を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。

 映画館推奨の作品です。爆音とかそういった作品ではないのですが、暑い時期に映画館に入って、エアコンの利いた部屋で、ひんやりしてきた頃に映画が始まる。疑問に思っても自由に巻き戻せない環境で観ていただいて、『すごくモヤモヤする、何だったんだろう』という感覚になってほしいです。そして、映画を観終わって外に出たらまた暑いという、一夏の体験をぜひしてほしいです。

ヘアメイク:RYO(TRON)
スタイリスト:髙橋美咲(Sadalsuud)

池田エライザ

【映画概要】

リライト(英題:Rewrite)

出演:池田エライザ
阿達 慶 久保田紗友 倉 悠貴
山谷花純 大関れいか 森田 想 福永朱梨 若林元太 池田永吉 晃平 八条院蔵人
篠原 篤 前田旺志郎 / 長田庄平(チョコレートプラネット) マキタスポーツ 町田マリー 津田寛治
尾美としのり 石田ひかり 橋本 愛
監督:松居大悟 脚本:上田 誠 原作:法条 遥 『リライト』 (ハヤカワ文庫)
主題歌:Rin 音 「scenario」(ROOFTOP / ユニバーサル ミュージック) 音楽:森 優太
製作:河野 聡 菊池貞和 後藤利一 垰 義孝 村松秀信 牧田英之 早川 浩
エグゼクティブ・プロデューサー:佐々木 新 清水一幸 鈴木孝明 川上修弘 増田佳子 早川 淳
撮影:塩谷大樹 照明:藤井 勇 録音:竹内久史 美術:相馬直樹 装飾:中村三五 衣裳:神田百実 ヘアメイク:風間啓子
編集:瀧田隆一 音響効果:松浦大樹 キャスティング:川村 恵 助監督:相良健一 製作担当:斉藤大和
プロデューサー:岡田直樹 ライン・プロデューサー:石井智久 音楽プロデューサー:松田隼典 コ・プロデューサー:加倉井誠人
製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス
©2025『リライト』製作委員会

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