INTERVIEW

菊池日菜子

学生時代は「心開けなかった」出演作で実感した仲間との出会い:映画『か「」く「」し「」ご「」と「』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:25年06月05日

読了時間:約8分

 俳優の菊池日菜子が、映画『か「」く「」し「」ご「」と「』(公開中)に出演。予測不能な言動でいつもマイペースな黒田文(通称パラ)を演じる。奥平大兼と出口夏希がW主演を務める本作は、『君の膵臓をたべたい』など手がけた住野よる氏の同名小説を映画化。“少しだけ人の気持ちが見えてしまう”男女5人の、純度100%の尊い日々を描く青春ラブストーリー。メガホンを取ったのは、『カランコエの花』(18)、『少女は卒業しない』(23)などを手掛ける新進気鋭の中川駿監督。主題歌はちゃんみなの「I hate this love song」が起用された。

 菊池日菜子は、2020年より女優活動を開始。2021年には、「第30回 全日本高等学校女子サッカー選手権大会」で約200人の中から選ばれ、初代応援マネージャーに就任。 2022年公開の映画『月の満ち欠け』で小山内瑠璃を演じ、『第46回日本アカデミー賞』新人賞を受賞するなど、いま注目の俳優の1人。

 インタビューでは、本作での撮影秘話から、パラを演じるにあたり考えていたこと、心をなかなか開かなかった学生時代の思い出、主題歌の「I hate this love song」について話を聞いた。(取材・撮影=村上順一)

パラのことが大好きになった

菊池日菜子

――ハンマー投げをやられていたとのことですが、そのハンマー投げの経験が俳優業で役に立っていることはありますか。

 直接影響しているかは分からないのですが、ハンマー投げは危険回避のため、投げる前に毎回「いきます!」とかなり大きな声で合図を送るんです。現場に入る時に大きな声で挨拶をすることを大事にしていて、発声はもしかしたら役に立っているのかもしれません(笑)。

――挨拶はとても重要ですから。

 それが自分の中で気持ちが切り替わるスイッチにもなっています。

――菊池さんは体力もありそうですね!

 ハンマー投げを始めるまでは、高跳びやハードル走などの陸上競技をやっていたので、走るのも得意かもしれないです。

――運動神経が良さそうなので、アクション系の作品とかも合いそうです。

 アクションやってみたいです! あと、シリアルキラーの役にもとても興味があって、サイコホラー作品に出演してみたいです。

――バッドエンドの作品もお好きと聞きました。

 特に解釈の幅が広いバッドエンド作品は大好きで、考えることが好きなんです。観終わったあとは、考察サイトを見て楽しんでいます。

――映画『か「」く「」し「」ご「」と「』でも考えることは多かったのでは?

 はい。原作ファンの方がたくさんいらっしゃるので、SNSで『か「」く「」し「」ご「」と「』でパブリックサーチをして、みなさんがどんな感覚で原作を読んでいるのか気になって見てみました。調べれば調べるほど、皆さんのパラに対する熱量の高さを強く感じましたが、私自身も原作を読んでパラのことが大好きになりました。

――実際にパラを演じてみていかがでしたか。

 パラを演じていて本当に楽しかったです。私がこれまで演じてきた役柄の中で1番楽しくて、撮影は去年の8月だったのですが、 その1ヶ月間はきっと生き生きしていたと思います。撮影期間中は、 役に入り込みすぎて1作品につき1回は気分がすごく落ちる瞬間があり、周りの方を振り回してしまうこともあるのですが、今回は一貫して楽しい気持ちでいられました。ただ、クランクインする前はとにかく不安で、解釈の違いを生むことなくパラを演じられるのか不安で仕方ないまま、クランクインを迎えました。

――準備段階では納得がいくところまでできなかった?

 「私はパラだ」とは思えないままインしてしまいましたが、カメラの前に立ち、最初のセリフを言ったときに、これだ!という手応えがありました。京くん(奥平大兼)に向かって「何してんの?」という何気ないセリフなのですが、「これがパラだ」と思えた瞬間でした。

――本作のホームページのトップ画像からも、5人の空気感やチームワークの良さが伝わってきます。

 ありがとうございます! この写真撮影は細かく指定があったわけではなく、何気ないところを切り取った 1 枚で、とても私たちらしくていいなと思っています。クランクアップ後に、改めて撮影の場を設けていただいたこの日のことはよく覚えています。カメラマンの柴崎まどかさんからまさやん(佐野晶哉)に、「喋っている感じで手を回してて」とリクエストがあり、ずっと手を回しているまさやんの姿が面白くて、みんな笑っている1枚なんです。

――そんなことがあったんですね。

 私は、がっつりまさやんを見て笑っています(笑)。

――本編の撮影で印象的だったことは?

 アドリブもたくさんありましたし、多くのものが本番で生まれた現場だったと思います。

――台本にはセリフが空白の部分があったみたいですね。そこはそれぞれのアドリブだったと聞きました。

 それを実際採用していただきました。また、私も頭の中でいろいろ考えて、悩んだセリフや動きがあったのですが、いざカメラの前に立ち、本番になると不思議とパラをナチュラルに演じられた瞬間がたくさんありました。監督の現場作りや、一緒にお芝居する人と対峙した時に生まれたものが、きっとよかったんだと思います。

――主演のお2人から引っ張られるものもあった?

 私は4人それぞれからすごく大きな熱量を感じて、いつも活力をもらっていました。みんなそれぞれ役がマッチしていたこともあって、目の前に京くん、ミッキー(出口夏希)、ヅカ(佐野晶哉)、エル(早瀬憩)が目の前にいることで、私も自然体でパラを演じることができました

心を開く場を見つけられなかった学生時代

菊池日菜子

――本作は人の気持ちにフォーカスしている部分が強いですが、パラの気持ちはどう捉えていましたか。

 きっと自分の立ち位置というのを気にしすぎて、こうありたいという自分に囚われすぎたが故の生きづらさを抱えている子だと思いました。ミッキーがつけたニックネームの「パッパラパー」が逃げ道だったんじゃないかなと。いろいろ考えて、頭がごちゃごちゃになることってよくあると思うのですが、そんな中で出てきた人格がパラだったのかなと思いました。

 常に本当の自分ってなんだろうと葛藤しながら生きないといけないときもあったと思いますし、 楽しいことをしていても、どこか拭えない生きづらさみたいなものをパラに宿すことを意識していました。

――パラは本当の自分ではなく、みんながイメージするパラを演じていたようなところがあったと思うのですが、菊池さんは過去に本当の自分とは違う自分を演じていたような経験はありますか。

 私は素敵な方たちに囲まれながらお仕事ができているので、自分らしくいられる瞬間がたくさんあります。学生時代は、恵まれていなかったわけではないのですが、優しくしてくれる人もいた中で、私がそれに気づけなかったり、心を開く場を見つけられず、かなりガチガチに自分を固めて過ごしていたような気がします。

――自分のテリトリーを守っているかのような感じだったんですね。

 学生時代にハンマー投げをやっていたとき、なんとなく雰囲気で、「この子、私と同じような子だな」と感じた1つ下の後輩ができました。私が先輩というのもあって、まだ互いに気を遣う仲ではあったんですが、一緒にハンマーを片付けるために倉庫に向かう途中で、「本当の自分がわからなくなることってあるよね」という言葉がふと出てしまったんです。そんなこと言うつもりはなかったのですが…。

――何かを察してつい言ってしまった。

 はい。そうしたらその子がすごく心を開いて、私に懐くようになってくれて。その時はまだ体験入部だったのですが、正式に入部してくれて、それからは常に一緒にいました。心を開けば、きっと理解してくれる人はいるのだと実感しました。それを全員にすることは難しいですが、そんな生きづらさのようなものはみんな持っているんだと思います。

――仲間とか友達っていいなと僕も改めて思います。

 今作を観てとても心に刺さりました。学生時代を経験した全ての方に観てほしい作品です。23歳ですが、学生時代がすごく愛おしくなりましたし、あの時の自分が報われたような気持ちにもなりました。

“モチベ曲”はカメレオン・ライム・ウーピーパイの「Indie Slime」

菊池日菜子

――主題歌の「I hate this love song」はちゃんみなさんが担当されていますが、聴いてみて感じたことは?

 私は鳥肌が立ちました。主題歌をちゃんみなさんが担当されることは伺っていたのですが、「美人」などアッパーなヒップホップ系の曲のイメージがあったので、この映画にちゃんみなさんの楽曲がどう乗るのか楽しみに初号を観に行きました。物語が完結して、曲が流れた時にとんでもないエネルギーを感じ、「とにかく曲がいい!」と興奮しました(笑)。「I hate this love song」がリリースされて、この曲をお供に散歩するのが楽しみです。

――菊池さんが音楽に助けられること結構あるんですか?

 ラジオと音楽を聴きながら散歩をするのが、とにかく大好きで、気分によってどちらか選ぶのですが、夏は音楽が多いです。

――モチベーションにつながる、例えばつらいときに頑張ろうと聴く音楽はありますか?

 自分の心境にドンピシャな言葉が入ってきても、ちょっと冷めてしまったりすることがあるので、歌詞がダイレクトすぎない曲を聴いて元気をもらいます。私はカメレオン・ライム・ウーピーパイさんが好きなのですが、曲調がすごく楽しくて、ノリノリになれる「Indie Slime」という曲がとてもお気に入りです。リズムに乗ってルンルン歩いています!

(おわり)

菊池日菜子

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村上順一

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