サザンオールスターズが、10年ぶりとなるオリジナル・アルバムアルバム『THANK YOU SO MUCH』を携え、今年1月より敢行中の全国アリーナ&ドームツアー“サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」”が、5月29日の東京ドーム公演をもって大千秋楽を迎えた。

■NEWオリジナル・アルバム『THANK YOU SO MUCH』について

 前作『葡萄』(2015)から丸10年――サザンオールスターズが満を持して放った16作目のオリジナル・アルバム『THANK YOU SO MUCH』。1 曲1 曲、言葉とメロディーが緻密かつ丁寧に編み込まれた本作には、2023 年にデビュー45 周年を彩った三部作「盆ギリ恋歌」「歌えニッポンの空」「Relay~杜の詩」、2024 年配信の「恋のブギウギナイト」「ジャンヌ・ダルクによろしく」、2025 年の幕開けを飾った「桜、ひらり」をはじめ、弾けるグラム・ロックナンバー「夢の宇宙旅行」、バンド最初期の未発表楽曲を半世紀越しに蘇らせた「悲しみはブギの彼方に」、先達が築き上げてきた芸能(エンタメ)への敬愛を歌う「神様からの贈り物」など、多彩な楽曲が並ぶ。ロック、歌謡、ラテン、ブルース、ソウル、プログレ、ディスコ……など長きにわたり音楽の大海原を航海し、ポップスを探究し続けた客船(バンド)“サザンオールスターズ”が今持てる力のすべてを注ぎ込んだ無敵の一枚だ。

 タイトルには、半世紀近い歩みの中で育まれた、リスナーはもちろんのこと、スタッフ、仲間、バンドに関わるすべての人々への大きな愛と深い感謝が込められている。ジャケットでは、子どもたちの成長と健康を願う桃の節句と重なる3月発売を象徴するように、日本人形の横顔を大胆にクローズアップ。日本的な奥ゆかしさと容易に推し量ることができない深みを感じさせる。

 リリース直後から音楽ランキングを席巻。オリコン/Billboard JAPANの週間アルバムランキングをはじめ、Apple Music、Spotifyなどのストリーミングチャートでも1位を獲得。2023年の「盆ギリ恋歌」から数えれば、チャート首位は累計150冠超えとなり、サザンオールスターズが現在進行形でトップを走り続けていることを改めて世に知らしめた。

◯サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」について

 10年ぶり16作目のオリジナル・アルバム『THANK YOU SO MUCH』と同タイトルを冠した(※!!を除く)本ツアーは、2024年元旦に発生した能登半島地震の被災地への思いを胸に1月11日(土)に石川から開幕。全国ツアーは2019年開催の『サザンオールスターズ LIVE TOUR 2019 「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!」』以来、6年ぶり。1月から4月頭までのアリーナ8会場と4月中旬から5月いっぱいにかけてドーム5会場、計13箇所26公演を実施する今ツアーの規模は、1992-93年の『歌う日本シリーズ1992~1993』以来最多公演数となる。5大ドームを含む日本最大規模のツアーながら、ファンクラブ先行の段階でキャパシティを大きく超える応募が押し寄せ、瞬く間にプラチナチケットに。また、アルバム・タイトルを冠しながらも同作の発売が3月に延期されたことを受けて、リリース前の新曲を多数披露する異例の形で走り出したことも本ツアーのトピックスの一つだ。デビュー47年目にして新曲を作り続け、真摯に音楽と、観客と向き合うバンドの姿勢と圧巻のパフォーマンスが口コミで広がり、各公演わずかに開放される機材開放席にも応募が殺到。それでもなお、サザンの今を目撃したいファンの声が届き続けている状況を受けて、ツアー・ファイナル公演は、全国47都道府県272館589スクリーンの映画館でライブ・ビューイングも実施される運びとなった。

 サザンは、今までに5箇所以上のドーム公演を含むツアーを3回(2005年、2015年、2019年)、4箇所以上のドーム公演を含むツアーを1回(1999年※当時は札幌ドームが存在しなかった)、それぞれ行っており、5大ドームツアーとしては今回で4度目となる。活動歴が35年以上のグループとして3回以上の5大ドームツアーを行なっているアーティストはサザンのみ。さらに、ボーカルの桑田佳祐は、ソロとしても3度の5大ドームツアー(2002年、2017年、2022年)を行なっており、グループ、ソロ活動それぞれで5大ドームツアーを2度以上開催しているアーティストとしては、唯一無二の存在だ。なお、今回の大和ハウス・プレミストドーム(札幌ドーム公演)の2日間は、同会場で公演を開いたロック・バンド史上最多の動員数を記録するなど、全公演、最大キャパシティの設定の上でソールドアウトしている。

 そんな注目のツアーも必ずしも順風満帆だったというわけではない。前回のツアーから経過した6年という歳月はメンバーの年齢にも重なり、古希を迎えた野沢秀行をはじめ5人の平均年齢は69歳に。桑田佳祐がレギュラーラジオ「桑田佳祐のやさしい夜遊び」(TOKYO FM/JFN系列・毎週土曜23時放送)で明かした通り、それぞれが厳重に管理を行なっている中でも、不可抗力で発生してしまう体調不良や、ツアー会場に向かう際の交通トラブルなど、開催が危ぶまれた公演もあった。それらをも乗り越えて突き進んできたサザンオールスターズは、今がまさに最高潮!5月29日に、東京ドームにて、ついに大千秋楽を迎えた。

■ライブレポート

桑田佳祐(撮影=西槇太一)

 5月29日(木)、時刻は18時30分。客電が落ちると東京ドームを埋め尽くした約50,000人の拍手が一気にうねり、サポート陣に続いて野沢秀行、関口和之、原 由子、松田 弘──そして最後に桑田佳祐が姿を現す。ギターを肩に掛け、客席に向け手を振りながら時に丁寧にお辞儀をし、マイクの前に立つ。深く息を吸い込んだ桑田が「はぁ」というため息に続いて歌い始めた1曲目は「逢いたさ見たさ 病める My Mind」。静かに、しかし力強くライブの幕が開ける。1982年発表の5thアルバム『NUDE MAN』に収録された、主人公が電話に出ない相手に漏らすため息で始まるこの楽曲。もどかしい恋の悩み、切なさを真正面から掬い取るサザンの原点を示すような一曲に、長年のファンは胸を締めつけられ、新世代のリスナーは聞き惚れる。アウトロで桑田が「THANK YOU SO MUCH!!」とツアータイトルを高らかに叫び、野沢が刻むカウベルのビートが聞こえてくると、オーバードライブを噛ませた硬質なギターと躍動するピアノが鼓動を高鳴らせるロックチューン「ジャンヌ・ダルクによろしく」へ。真紅の引き幕が割れ、眩い照明が拡がり、銀テープと共にスクリーンには“SOUTHERN ALL STARS”の文字が。この一撃で、切なさに揺れたドームが一気に興奮のるつぼに様変わり。脈々と受け継がれるロックの遺伝子を今のサザンが全身で轟かせる――そんな凄みと清々しさが同時に漂う、まさに「熱いステージが始まる」瞬間だった。

 「こんばんは!6年ぶりに帰ってまいりました。THE ALFEEより年下のサザンオールスターズです!」──軽妙なあいさつで観客を和ませると、「せつない胸に風が吹いてた」「愛する女性(ひと)とのすれ違い」と1980〜90年代の名曲を畳みかけ、ドームにノスタルジーと高揚感を同時に呼び込む。青い照明と波音が広がり、おなじみのシンセが海面の煌めきを描くと大歓声が上がる。松田が刻むタイトなビートに呼応する関口のベースが心地よい「海」だ。続く「ラチエン通りのシスター」では愛しくも切ない桑田の歌声が響き、「神の島遥か国」では琉球衣装のダンサーの軽やかなステップに客席全体が大きく腕を振って応え、会場が常夏の楽園に。そして、前半の大きな見せ場となったのは「愛の言霊〜Spiritual Message〜」。イントロが始まると割れんばかりの大歓声が湧き上がり、燃え上がる炎とブラス隊の重厚なアレンジ、ダンサブルなリズムに繰り返される“抒情詩”が観衆の魂を揺さぶる。

 「10年ぶりのアルバムをリリースいたしました!」──桑田の言葉とともに、新作『THANK YOU SO MUCH』のジャケット写真がセンターのビジョンに大きく映し出され、アルバム収録の楽曲が披露される新曲コーナーへ。2025年の元旦に配信された「桜、ひらり」では、水彩画のような淡い桜のイメージがスクリーンに映し出され、被災地への祈りと未来への希望を浮かび上がらせた。続く「神様からの贈り物」は、軽やかなギターのカッティングとリズムセクションが生み出すモータウンビートが高揚感を誘う一曲。スクリーンには尾崎紀世彦や坂本九、永六輔ら偉大な音楽人の映像や写真が次々映し出され、バンドの歩みが偉大な先人達の系譜の中にあることを視覚的に訴えかけると同時に、彼らの創造してきた音楽の先に現在のサザンがあるということに胸が熱くなる。続いて披露されたのは、現代の異常気象や今もなお海の向こうで続く紛争を憂う「史上最恐のモンスター」、少ない音数だからこそ歌詞に聞き入り、紡がれた言葉の一つ一つが胸の奥にグッと入り込んでくる「暮れゆく街のふたり」。そしてこの新曲コーナーの最後を飾るのが、原 由子がリードする「風のタイムマシンにのって」。鎌倉〜江ノ島の海辺の映像と共に爽やかな風を吹かせると、楽器を持ち替えアコースティック・セットに。1stアルバム『熱い胸さわぎ』より、ボサノバ調の「別れ話は最後に」で成熟したアンサンブルを聴かせる。

 曲目をあえて言わず桑田がひとりアコースティックギターをかき鳴らしてスタートしたのは「ニッポンのヒール」。会場を盛り上げた勢いそのままに、軽快なリズムと共に始まるメンバー紹介。一つのグループが、時に立ち止まることがあったとしても、47年もの間続き、今も多くの人々に愛され続けていること、それ自体が奇跡のようなことだ。熟練のバンドならではの味わいのあるメンバー紹介に、そんな思いも重なって胸がいっぱいになる。その後披露されたのは、およそ半世紀の時を経て最新アルバムに収録された幻の未発表曲「悲しみはブギの彼方に」。デビュー前に制作されたこの楽曲を、“今”のサザンが奏でる。桑田がのびのびとハスキーボイスを響かせながら心底楽しそうに鳴らすスライド・ギター。関口のウォーキングベースと松田のドラムが生み出す心地よいフィルの上を自由に跳ねる原のピアノと、グルーヴを前進させる野沢のコンガ。そこには、5大ドームを即完させるような巨大なバンドの姿はなく、顔を見合わせて音を重ねることの純粋な喜びに溢れた、若き日のサザンオールスターズの姿があった。紡がれてきたバンドの過去と現在、そして未来を繋ぐ道筋にこの曲があり、間違いなく本ツアーのハイライトの一つと言えるだろう。

 アルバムと同じ流れでメドレーとして繋がる「ミツコとカンジ」、そこから銀河を駆ける「夢の宇宙旅行」へ雪崩れ込む流れは、まさに最新形のサザンオールスターズ。夜空に輝く星雲のように無数のリストバンド型“THANK YOU SO MUCHライト”がドームを異空間に誘う。照明やレーザーがロケットの軌跡を描き、会場全体が宇宙船と化したかと思ったのも束の間、誰しもが抱える罪の意識をあぶり出すテクノチューン「ごめんね母さん」、EDMをサザン流ディスコに昇華した「恋のブギウギナイト」で東京ドームは巨大なダンスホールへ様変わり。煌びやかなドレスを身に纏ったダンサーがステージに現れ、ド派手なネオンとミラーボールがギラギラと光る空間に観客が沸き立つ。そこから「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」「マチルダBABY」「ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)」と怒涛のごとくヒット楽曲が繰り出され、極め付けは戦隊衣装のダンサーが淫靡に乱舞する「マンピーのG★SPOT」。地上波では到底流せない“サザン流至高のエンタメ”で本編を締めると、客席は笑いと熱狂の渦に包まれた。

 アンコールは「Relay〜杜の詩」で静かに再開。緑色の光の束が荘厳な森を描き出し、重厚なコーラスに胸を打たれていると、続く「東京VICTORY」では、5万人全員が、腕につけた“THANK YOU SO MUCHライト”とともに拳を一斉に突き上げ、360度見回す限りの光が会場を埋め尽くす。桑田の「もっといきますかー!」の煽りと共に原が弾くイントロで観客を沸かせた「希望の轍」では2023年にデビュー45周年を記念した“茅ヶ崎ライブ2023”の映像が映り、デビュー45周年から続く物語を本ツアーへ、そして未来へとつなぐ。桑田が着用するTシャツの背中に描かれた「感謝」の文字がビジョンに大写しになると、最後のデビュー曲「勝手にシンドバッド」へ。華やかな衣装に身を包んだサンバダンサーに加えて、巨人軍のマスコットキャラクター・ジャビットくん&シスタージャビットちゃんや、トニー谷、プロレスラーのコスプレをした総勢40名を超えるダンサーが入り乱れ、東京ドームは巨大なカーニバル会場と化した。

ライブの模様(撮影=西槇太一)

 日本全国13都市26公演、さらにライブ・ビューイングで楽しんだ全国15万人の観客を含めると約75万人を動員した6年ぶりの全国ツアーはこうして大団円を迎えた。ダンサーやサポートメンバーがステージを降りた後も、メンバー5人はステージの上手・下手を行き来して深々と頭を下げ、全国47都道府県の映画館で生中継を見守るファンにも感謝を送る。アルバム『THANK YOU SO MUCH』に込めた想いそのままに、音と言葉と笑顔で“ありがとう”を届け切った圧巻のツアーファイナルだった。

 さらに、本日のライブのセットリストが音楽ストリーミングサービスで聴ける公式のプレイリストも公開。

セットリストプレイリスト https://taishita.lnk.to/livetour_TYSM

セットリスト

1. 逢いたさ見たさ 病めるMy Mind
2. ジャンヌ・ダルクによろしく
3. せつない胸に風が吹いてた
4. 愛する女性(ひと)とのすれ違い
5. 海
6. ラチエン通りのシスター
7. 神の島遥か国
8. 愛の言霊(ことだま)〜Spiritual Message〜
9. 桜、ひらり
10. 神様からの贈り物
11. 史上最恐のモンスター
12. 暮れゆく街のふたり
13. 風のタイムマシンにのって
14. 別れ話は最後に
15. ニッポンのヒール
16. 悲しみはブギの彼方に
17. ミツコとカンジ
18. 夢の宇宙旅行
19. ごめんね母さん
20. 恋のブギウギナイト
21. LOVE AFFAIR~秘密のデート~
22. マチルダBABY
23. ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)
24. マンピーのG★SPOT

ENCORE

1. Relay〜杜の詩
2. 東京VICTORY
3. 希望の轍
4. 勝手にシンドバッド

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