INTERVIEW

岩田奏

「本音が引き出される」、映画「初級演技レッスン」での発見


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:25年02月22日

読了時間:約7分

 俳優の岩田奏が、毎熊克哉が主演を務める映画『初級演技レッスン』(2月22日公開)に出演。父を亡くした子役俳優・一晟を演じる。本作は父親とのトラウマを抱えたまま、時が止まったような廃工場で「初級演技レッスン」を開いたアクティングコーチの蝶野穂積(毎熊克哉)が、即興演技を通じて、父を亡くした子役俳優・一晟や、寂しげな教師・千歌子(大西礼芳)の記憶に入り込み、彼らの人生を遡っていくことで奇跡に出会う物語。監督はCMディレクターとして数々の賞を受賞し、初長編映画『写真の女』(20)が2020年の「SKIPシティ 国際Dシネマ映画祭」で日本作品として唯一国際コンペティションにノミネートされ、SKIPシティアワードを受賞した串田壮史氏。インタビューでは自分と重なる部分が多かったという一晟を演じて感じたことや、いま追求していることについて話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

ちょっとビクビクしていた宣材写真の撮影シーン

岩田奏

――本作の脚本を読んで感じたことは?

 読んで最初に思ったのは、確かに演技レッスンを通すと本音みたいなものが出てくるよな、と自分の中で腑に落ちたところがありました。僕は実際に演技レッスンを受けているときは、すごく生き生きしています。いつも以上に元気になるんです。それは本気でやっていて、本音でお芝居を楽しめているからなんだと思いました。実体験もあるので、演技レッスンを通じて本音が引き出されるというストーリーには、とても共感しました。

――カウンセリングにいいかもしれないですね。

 いいと思います。演技という前提があるからこそ、本心が出るみたいなものがあるんじゃないかと思いました。

――岩田さん演じる一晟に対して、どのようにアプローチしようと考えていましたか。

 一晟は自分で父親の記憶を無意識のうちにストッパーをかけている、ちゃんと思い出したいんだけど、思い出せないみたいなのがあると、撮影前に串田監督が仰っていました。父親との楽しかった思い出や、逆に父親を失った時の悲しみも想像して、一晟が記憶にストップをかけている理由みたいなものを考えてみようと思いました。

――理解してあげたいと思ったんですね。

(c)2024埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

 はい。父親のことを除けば自分と一晟は似ている部分も多くて、特に宣材写真を撮っているシーンでぎこちない笑顔になってしまうところは、僕も共感できるなって。 「笑って」と言われるのは僕も苦手なのでわりとリアルなシーンでした。あのシーンの撮影は一晟ではなく、どこか自分が撮られているみたいで、ちょっとビクビクしていました(笑)。

――岩田さんご自身のお父さんとの思い出を思い出しながら、一晟を重ねていったとのことですが、どのように理解できました?

 父親とのことは僕と一晟は遠かったので、とにかく一晟の気持ちになる時間を増やすことを考えていました。台本をただ読むだけではなく一晟が父親のことに蓋をしている理由を具体的に想像して、たとえば、一緒に水泳をしている場面を想像したり、川のシーンを撮る前に「一晟とお父さんってこんな感じだったのかな?」とイメージしていました。

――ちなみに岩田さんのお父さんとの楽しい思い出は?

 いろいろありますが、the HIATUSのライブを一緒に観に行ったことは、とても楽しい思い出の一つです。そういうことも思い出しながら、「一晟もこんな感じなのかな?」と自分とつなげて考えたりもしました。

――監督とはどのようなお話を?

 監督は「岩田君はそのままで現場に来てくれればいいから」と言ってくださって、撮影に入ってそれで良かったんだと思いました。改めて「僕と一晟の雰囲気は似ているんだな」と感じました。

心掛けていることは相手の演技を意識すること

岩田奏

――共演者の方とはどのような会話を?

 毎熊さんとは撮影が始まる前、撮る直前にそのシーンにまつわる感情、気持ちについてお話をしました。シンプルに「このシーンなんかいいよね」みたいな他愛のない会話なのですが、お話をしているとそのシーンを撮るのが楽しみになる感覚がありました。特にラーメン屋の前のシーンは、ここで3人が演技を通して楽しいシーンになるみたいなことを話していたので、そのシーンは特にお気に入りなんです。

――シリアスなシーンも多い印象です。

(c)2024埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

 特に川に入っていくシーンはかなり怖かったです。ライトがパっと消え、本当に真っ暗で不穏な感じがすごかったです。

――撮影していく中で刺激的だったことはありましたか。

 カヌーを漕ぐシーンは一晟の本心がやっと出てくるところで、一晟自身も演技をしているような不思議な感じがあります。一晟の演技を通した本心になるようにと意識して演じていたので、それはとても新鮮で刺激的でしたし、改めてお芝居って面白いなと思いました。

――撮影はスムーズでした?

 オーディションを受けるシーンは何回か撮りました。テイクを重ねたのはそのシーンぐらいで、全体的には割とスムーズに撮れたと思っています。

――いま岩田さんが追求されていることは?

 お芝居です。オーディションを受けるときは、合格することだけを目的にしないようにしています。自分とは遠い役柄が来たら、逆にそれがチャンスだと思っていて、オーディションでは、1回1回監督の印象に残る演技を大事にしています。また、レッスンでも今日はここを意識しようとか、いまは失敗してもいいとチャレンジするようにしています。

――コンセプトを決めて臨むわけですね。

 はい。僕はやったことがないアプローチで演技をすると集中力が急に切れたりする、素の自分に戻ってしまう瞬間があります。いろいろなやり方をやっても集中力が切れないようにしたいです。いま僕は相手の演技を特に意識するようにしていて、これからももっと追求していきたいと思っています。

同年代だからこそ感じる凄み 坂元愛登の存在

岩田奏

――さて、シャーペンを集めているとのことでしたが、今もそれは続いていますか。

 はい。僕は弟にもシャーペンを布教しているのですが、今では弟の方が集めています。僕は少し落ち着いてきましたが、弟が買ってきたものを見て、「いまはこういうのがあるのか」みたいな。また、集めるというよりもこれまで買い集めてきたものを、少しずつちゃんと使っていこうとしています。

――岩田さんのいまのおすすめは?

 クルトガです。使い心地はもちろん、見た目も良くて、お気に入りです。

――1年半前にお聞きした時もクルトガだったので、変わらずなんですね。

 はい。新しいものはどんどん出るのですが、やっぱりクルトガが僕の手に合うのですごい好きです。

――他にドラム演奏もやられていますが、ドラムは今どのような感じですか。

 以前ドラムは習っていたのですが、今は習うのをストップしました。高校に吹奏楽部があって、入部しようかなと考えたのですが、強豪校なので毎日練習に参加しなければいけなくて断念しました。先生にも相談したのですが、俳優の仕事をしながら吹奏楽部との両立はちょっと難しいなと思いました。今はリハーサルスタジオに行って、いま流行っているJ-POPの曲やジャズを叩いて楽しんでいます。

――ところで以前のインタビューで憧れの俳優さんはまだいないとおっしゃっていたのですが、そういう方はできました?

 同世代、同い年なのですが、映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』で一緒になった坂元愛登くんです。共演したあとも仲が良いのですが、愛登くんがドラマとかに出ているのを観ると、普段の彼と全然違うので、同年代だからこそ本当にすごいなと刺激を受けています。

――最後に本作はいろいろな要素があって複雑さもある映画だと感じているのですが、岩田さんはどのような気持ちで『初級演技レッスン』を観てもらえたら嬉しいですか。

 毎熊さん、大西さん、僕の3人が演技レッスンで想像している頭の中のシーンは特に本音が出ているところだと思います。それぞれの本音が出ているのが、演技の中という異質で、不思議な空間をそのまま感じてもらえればいいのかなと思います。

(おわり)

【作品情報】

(c)2024埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

『初級演技レッスン』

2月22日公開

監督:串田壮史
出演:毎熊克哉、大西礼芳、岩田奏、森啓一朗、鯉沼トキ、柾賢志、永井秀樹
2024年 / 日本 / 90分

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村上順一

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