INTERVIEW

吉田美月喜

声優初挑戦で気づいた声の大切さ:劇場アニメ『ルックバック』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:24年07月09日

読了時間:約6分

 吉田美月喜が、劇場アニメ『ルックバック』(公開中)に出演。河合優実演じる藤野の同級生で不登校生・京本を演じる。本作は『チェンソーマン』や『ファイアパンチ』などの代表作を持つ藤本タツキ氏の青春物語が、押山清高監督により劇場アニメ化。小学4年生の藤野と、同校に在籍する不登校の京本の、漫画を描く女子2人の人生を描く。インタビューでは、本作で声優に初挑戦した吉田に、オーディションのエピソードから、アフレコを実際に体験して何を感じたのか、話を聞いた。(取材・撮影=村上順一)

初めて自分の声がちょっと好きになれた

吉田美月喜

――『ルックバック』を拝見したのですが、すごく自然な感じで、声優は初めてだったとお聞きしてびっくりしました。

 ありがとうございます! すごく嬉しいです。

――原作や脚本を読んで感じたことは?

 原作を読んだ時に小学生ならではの生命力みたいなものを感じました。2人にとって生きる原動力はお互いだったんだろうなって。

――オーディションで京本役に選ばれたとのことですが、どんな経緯があったのでしょうか。

 私はオーディションに2 回参加させていただきました。1回目はお家でボイスサンプルを録って送らせていただいて、2回目は皆さんの前で実際に録る、ということをやりました。結構1回目と2回目までの期間が離れていたので、まさか候補に残っているとは思っていませんでした。「2回目のオーディションがあります」と聞いて、慌てて家で録ったものをもう 1 回聞き直しました。

――なぜ聞き直したのでしょうか。

 これで受かったということは、最初に録った雰囲気に寄せてやれば大丈夫なんだと思ったからなんです。それで改めて練習をして2回目のオーディションに臨みました。嬉しいことに受かったのですが、その時に録った音声データを聞いてみたら、自分がお家で録ったものとは声が全然違ったんです。

――寄せていったはずなのに?

 そうなんです。私の中では同じようにやったつもりだったのに全然違いました。でも、2 回目の方が良かったと言っていただけて、監督からは「これ以上変わらないでほしいから、練習はしないでね」と言われたので、とりあえず練習はしないようにしていました。でも、京本には秋田弁があったので、声優さんにお手本として秋田弁を録音していただいたものを聞きながら、そこはひたすら家で練習していました。実際にその声優さんに一回お会いして、秋田弁の特徴を教わったりもしました。

――実際にアフレコをやってみていかがでした?

© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会

 プロの声優さんが実際に収録しているところをインターネットで観たりしたんですけど、実際自分がやってみると、あんなにスムーズに声を当てるのは、改めてすごいことなんだと驚きました。また、本職の声優さんは音が鳴らないように片手で台本のページをめくると思うのですが、 それを家で真似してみたり。でも、本番はもうそれどころじゃなくて、結局両手で台本をめくっていたので、あまり意味はなかったです(笑)。

――もともと声優はやってみたかった?

 やってみたかったです。実は今までいろんな作品のオーディションを受けたのですが、あまりいい結果にはならなかったんです。それもあって自分の声がそれほど好きではなくて...。監督が私に決めてくださった理由の一つに、声に引き篭もりの要素があると仰っていて、それを聞いてすごく納得して(笑)。今まで受けたオーディションのキャラは爽やか系の女の子、可愛らしい感じの子が多かったので、受からなかった理由がわかりました。京本という役に出会えた、私に決めていただいたことがすごく嬉しかったですし、初めて自分の声がちょっと好きになれました。

できるだけ相手を感じを取ろうと意識していた

吉田美月喜

――今回この経験が俳優業にどのような影響もたらすと思っていますか。

 演技をする上で声はとても大切なんだと改めて感じました。実際自分が声のみで演技をやってみると、いかに普段の自分は体の表面上の部分に頼っていたんだろうって。もう少し声に重きを置いてやってみるというのも大切だなと思いました。アフレコは共演者と対面して演技をすることがないので、隣だったり、もしくは後ろから見ている感じになるので、その中でできるだけ相手を感じ取ろうと意識していました。横や後ろから“空気を感じる力”みたいなものを、今まで以上に使った気がしていて、それは今後のお芝居にも役に立つ部分があるんじゃないかなと思っています。相手を感じるというのはお芝居で大切なことなので、それがもっと強い形になって、取り入れられたらいいなと思っています。

――「声」という新しい武器を手に入れた感じなんですね。

© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会

 声にもう少し頼っていいんじゃないか、というのはありました。今まで自分の声があまり好きではなかったので、あまり声に重きを置いていなかったですし、ナレーションとかも得意ではないのですが、もっとうまくなれば今後ナレーションなどでも見てくださった方を感動させることもできるかもって。感情を動かす声の出し方ができるようになれば、もっとステップアップできるんじゃないかと思っています。

――吉田さんが声優として今後やってみたいキャラはいますか?

 人間ではない役をやってみたいです。例えば『鬼滅の刃』の禰豆子みたいな役とか、もしくはカエルとか。

――カエルですか?

 はい。言葉がないからこそ演技力が問われると思っていて、そういった言葉がない役はすごく難しいと思いますが、いつか挑戦してみたいです。

――私は本作の主人公の藤野と京本の2人から、成長と自立というものを感じました。吉田さんが「成長した、自立した」と感じた瞬間はありますか。

 自分で加湿器をちゃんとつけるようになった時です(笑)。いま舞台をやっているのですが、前回の舞台の時は加湿器をつける重要性をあまり感じていなかったんです。今回の舞台から自分で加湿器をつけて体調管理をするようになりました。自ら意識してやれるようになったので成長しました。これからももっと自分を大切にして、しっかりステップアップできるようにしたいです。

――アニメーションになった『ルックバック』を観た方にどんなメッセージが届いたら嬉しいですか。

 藤本先生が伝えたかったことは、原作を読んでくださった方は、すでに何かを感じていただいていると思います。今回のアニメは原作大きく変える事はしていないですし、「漫画をそのまま動かす」ことをテーマの一つとして作られているので、今度はアニメというものを通して、原作を読まれた方には新たな発見だったり、漫画を知らなかった方には藤本先生の気持ちが伝わったらいいなと思います。

――観ていただいてそれぞれがメッセージを感じてほしいということですね。

 はい。藤本先生や押山監督が考えているすごく大きなものがあると私は思っていて、それを先入観なく観てもらいたいです。聖域みたいな感じがあり、軽々しく触れられないものになっていると思いました。ぜひ劇場で観て皆さんも何か感じていただけたら嬉しいです。

(おわり)

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村上順一

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